24-1.寮母さん?
*・*・*
今日は、お屋敷の使用人になってからの初めての『お休みの日』だ。
拾われた直後の、怪我の療養は別として。
ちゃんと働いて、ちゃんと生活して。
不定期な休みがあるかどうかとは違う、冒険者の生活じゃなくて、労働者として。
前世では当たり前の出来事だったのに、少し前までは休みがある日が来るとは思ってもみなかった。
孤児院でも、冒険者だった時でも毎日何かしら動いていたから。
(……だから、なんだろうけど)
一日だけとは言え、いざお休みとなるとどうしたものかとなってしまう。
もちろん、私だけじゃなくて相棒のロティもいるから休まなくちゃいけないんだけど。
出来ても、せいぜいお寝坊さんをするだけだ。
だから、起きる時間をわざと遅くして、ロティとゆっくりお寝坊さんをした。それでも、だいたい8時くらいまでには起きちゃった。
早朝起きに慣れてきたからか、もう寝れない。
『はにょーでふぅ、ご主人様ぁ』
「おはよう、ロティ」
ロティもよく寝たのか、すっきりしてる表情だ。
スタミナも満タンのようだけど、毎日三食以上は食べてるからか少しお腹が空いたような感じ。
私もいい加減空いてきたから、寝起きの体に温めのお白湯を二人で飲んで、着替えてから食堂に向かう。
朝ごはんのピークが6時から7時頃だから誰も居ない。
なので、厨房に続くカウンターから顔をのぞかせた。
「おはようございます、シェトラスさん。エイマーさん」
『はにょーございますでふぅうう!』
少し大きめの声で挨拶をすれば、奥からエイマーさんがやってきた。
「ああ、おはよう。二人とも、もっと寝ててもいいのに大丈夫かい?」
「これでもだいぶ寝たんですけどね?」
『ご飯くだしゃーい!』
「ああ、了解した。すぐに用意してくるよ」
今日のパンに関しては、昨日の報告以降にまたたくさん仕込んで。
出来るだけ涼しい場所に、乾燥はどうしても避けられないが……そこは、魔法が存在するファンタジー世界。
結界で外気を触れさせないようにしたら、なんとかなったわけで。
提案者は、やはり料理歴の長いシェトラスさんだったから、彼の創った結界の中に常時保管する形になった。
取り出し出来るのは、許可されたエイマーさんと私のみ。
それ以外の人には、念のため盗難防止のために許可はされていない。何故かって、燃費の悪い
「はい。今日の朝ご飯は、チャロナくんに教わったオープンサンドイッチだよ」
「やった!」
『でっふでふぅ!』
バターロールを土台にしたオープンサンドイッチは一人二個ずつ。
片方がスクランブルエッグで、もう一個がソーセージ。
ソーセージはサイラ君達、厩舎のメンバーのお手製なので、すっごい大ぶりで食べ応えがありそう!
もちろん、たんぱく質だけでなく一緒に挟まれている野菜もみずみずしくて美味しそうだ。
これに、ペポロンのポタージュとオレンジジュースのセット。
ロティは、自分の分を魔力で操作して浮かせ。
席に着いてから、二人で手を合わせて食べ始める。
『おいちーでふぅうう!』
「うんうん。美味しいね!」
スクランブルエッグのふわっとろ感は言うまでもなく。
噛むたびに、パリッと音が立ちながらもジューシーな脂が美味しいソーセージは絶品!
これは、絶対ウィンナーロールにしても美味しいタイプだ。
「あ、おやつのパンに提案しようかな?」
『でっふ?』
「ウィンナーロール。絶対皆さん好きになるかなぁって」
『美味ししょーでふぅう!』
「試作は明日以降にしよっか?」
小腹がすいている時にもちょうどいいだろうし。
量産するのは大変だけど、準備さえすれば大丈夫。
食べ終えてから、トレーを返す時にエイマーさんにも伝えると、とっても目を輝かせてくださった。
「料理長も賛成するだろうし、伝えておこう。ソーセージは、一人一本でいいのかな?」
「そうですねー。ホットドックと違って、結構小さめなんですが……女性なら一本、男性なら二本で十分かもです」
「なら、余裕を持って先輩には発注しておこう。私はせっかくだから、二個食べたい」
「了解しました」
ご飯を食べてから暇になっちゃうけれど。
せっかくだから、屋敷内を散策しよう。
でも、エピアちゃんにも会いたいので、まずは菜園に向かったんだが。
「あ、ごめ〜ん。今日はエピアお休みなんだー」
「え、体調不良とかですか?」
「ううん。普通に休暇ー、せっかくなら言っておけばよかったね〜?」
菜園に行くと、ラスティさんお一人で働いていた。
ここは、大掛かりな収穫以外だと、エピアちゃんが来るまではラスティさん一人で切り盛りしてたようなので。エピアちゃんは、まだまだ若いけど無理はさせられないから、ふつうにお休みの日はあるらしく。
どこにも行っていないそうだから、ラスティさんから使用人の寮に遊びに行ってみたらと提案された。
「管理人のヌーガスとは会った事あるかな〜? ちょっとかっこいい女性なんだー、中身が」
「え、えーっと。まだちょっと顔と名前が一致していないんですが」
「まあ、行ってごらん? 場所、わかる?」
「サイラ君に教わったので」
実は、菜園の敷地手前くらいにあるんだよね。見た目、お屋敷とほぼ変わんないんだけど、食堂とお風呂はない寝泊まりするだけの建物だって。
時間ももったいないので、ロティを抱っこして向かう。
途中何人か、庭師の男性の先輩達から挨拶はされたけど……顔と名前がまだ一致していない。
食堂の方は、基本セルフだから顔を合わせても一瞬。
メニューも、カイルキア様以外一緒だもんで、誰がどのメニューと言うのもない。
今覚えているのも、ごく数人だけだもの。
(慣れれば、だいぶ覚えられるだろうけど)
今は、とりあえず気にせずに寮まで歩いて行くと。渡り廊下を歩いて行く先に、小ちゃな建物が見えた。
日本で言うなら、守衛さんが待機してるような受付っぽい建物。
「おや、お帰……り、じゃないねぇ、あんたは?」
「お、おはようございます」
『でっふぅ!』
その建物の前で止まると、顔を出してきたのは恰幅がいい感じのおばさん。
こう言っちゃなんだけど、民宿とか宿屋の女将さんみたいな感じ。だから、管理人さんと言うか、ずばり寮母さんにぴったりな見た目だった。
「おんや? 小型だけど、契約精霊持ち……って事は、シェトラスの下に新しくついたパン作りの上手いお嬢ちゃん!」
「あ、はい。チャロナです」
『ロティでふぅ!』
「そうかそうか。食堂とかは、あたし行く時間ズレてるからまだ顔は合わせてなかったねぇ? あたしは、ここの管理人を任されてるヌーガスってもんさ」
そうして身を乗り出しながら、よろしくと大きな手を差し出されたので握手。
ロティも握手してから、ヌーガスさんはうんうんと頷いた。
「可愛い子と聞いてたが、随分とべっぴんさんじゃないかい。べっぴんさんと言えば、あのエピアもこの間から随分様変わりしちまったが」
「あ。そのエピアちゃんに会いに来ました」
「おや、そうかい? 用事かい?」
「あ、いえ。お互いに休みなので……遊びに来ました。私はお屋敷にお部屋を借りていますので」
「そういや、そうだったねぇ? じゃ、せっかくだし案内してあげるよ」
「ありがとうございます」
それと、いつでも女子寮には遊びに来てもいいからと、団欒室や娯楽ルームの場所も教えていただき。
その後に、エピアちゃんのいる部屋に向かったのだった。
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