24-3.相談の相談(レクター視点)








 *・*・*(レクター視点)







「あんたの親父さん達には悪いけど。お見合いはぶっ壊させてもらうわ!」



 仕事の手伝いを申し出てくれたマックスが、部屋に入ってくるなり、何故かカイルにそう宣言してきた。


 何事?と思ったけど、『お見合い』と言う言葉に一つ思い当たることがあった。



「それって、大旦那様が薦められたエイマー先輩の?」


「らしいな。元を辿れば、伯父上からの薦めだそうだが」


「今度ばっかしは、あたしも陛下にカンカンよ!」


「いい加減、俺の前でその口調はやめろ」


「何よ〜。チーちゃんとはしょっちゅうこれなんだから、いいじゃなぁい?」


「相談に乗らんぞ」


「ちっ、わーったよ」



 僕もまあまあ慣れてる方ではあったけど、屈強な男が女言葉を使うのは、少しばかり抵抗はある。


 僕はともかくとして、カイルやフィーガスに負けないくらいの、顔のいい男が……てさ?


 いくら前世が女性でも、外見と中身が釣り合っていないと言うか。



「それで? お見合いの件は誰から聞いたのさ?」


「チーちゃんがエイマーやエピアと話してる時にだと」


「ああ。姉さんが『パジャマパーティー』?なんてのをしたって言ってたね?」


「なんだそれは?」


「夜に同性だけで集まって駄弁るやつだよ。俺も参加したかっ」


「やめろ!」


「君、今の外見は男なんだからダメでしょ!」



 即座に僕とカイルが鉄拳を振り下ろしても、ユーシェンシー伯爵様に鍛えられまくった体には、大したダメージにならなかった。


 僕は逆に手が痛くなったのに、マックスは涼しい顔をしてるだけ。



「じょーだんだっての! 主にエピアの報告会みたいなとこに、苦手に思われてる俺がいたら意味ねーだろ?」


「いや、そう言う事じゃないからね?」



 君も君で、先輩からは想われているだろうに。


 なんで、先輩もだけど、こっちも肝心なとこで鈍感なんだろ?



「で? 翌日にチャロナから聞かされた内容で、決断したわけか?」


「ま、そうだな? 提案してくれたのは、チーちゃんだけどよ?」


「「…………」」



 え、何?


 異世界からの転生者って、どうして騒動を自分で起こしたがるのだろうか?


 あの子はいい子なのに、と思ってたけれど。マックスユーカと実は同類??


 ちょっとびっくりしちゃって、散らばってた書類で滑りそうになったが堪えた。



「あと、エイマーが実は……ってのも教えてくれたぜ!」


「チャロナちゃん!?」


「…………何故、こいつを逆に煽るんだ」



 もう堪え切れずに滑って転んじゃったけど、カイルは滑らずに大袈裟なくらいにため息を吐いた。



「え、なんでなんで? ニホンってとこの転生者ってなんでそんなにも大胆なのさ!」


「俺もだけど、チーちゃんも肝すわってるからなぁ?」


「そう言う問題じゃ……って、決めちゃったからには止められないけど。カイル、今更取り止めとか無理なの?」


「父上だけならともかく、伯父上の発案だとな……」


「んじゃ、お前らも協力してくれよ? 俺は俺で、カイルのには協力すっけど」


「……………………はあ?」



 僕も一瞬何の事?と思ったけど、カイルもたしかに他人事じゃない。


 仮の、と任命されてても、実質決定済みに近い『婚約者』についてなら。



「チャロナちゃん、と言うより『マンシェリー姫』について?」


「そーそー。どう見ても、王妃様の生き写し以上の感情持ってんだろ? 従兄弟のカイルキア?」


「……………………」



 僕らで追い打ちをかけてあげると、少しばかりは自覚してるのか。


 苦虫を噛んだようなしっぶい表情をしながらも、僕らから視線を逸らした。



「え〜? だったら、いいじゃないか。初対面の時に、一等気に入っていただけたのは君だけじゃないかい?」


「あ、あれは!」


「今も、外見だけなら一等気に入られてるぜ?」


「っ!?」



 僕も、常々思ってはいたけれど。チャロナちゃんこと姫様は、どうやら既に気になられてるご様子。


 それがカイルにもあればなぁと思ってたら、新情報を聞いた今、あり得ないくらいに顔が真っ赤だ。マックスの目に負けないくらいじゃないかな?



「っつっても、チーちゃんは本来の身分を知らない状態だ。だから、惹かれても諦めてる傾向が強い。動くなら、カイル。お前から行けよ?」


「え、諦めてる?」


「お互い、王女と王弟の息子だから身分差は問題ないが。今の『チャロナ=マンシェリー』はホムラの孤児院出身だ。それ以外にも、前世の記憶が邪魔して高位貴族との結婚なんて、あり得ねーだろうって感じなんだよ」


「それは……」



 僕達もだけど、陛下のご意向で彼女には本当の身分をまだ伝えてはいない。


 王家の証、と元王妃様の生き写し。


 他にも様々な調査を行なって、彼女がこの国の『王女殿下』と言うのは既に証明は出来てはいるものの。


 それが、かえって障害になって、姫様の恋路を邪魔しているのなら。


 僕達は、どう対処していけばいいのだろうか。



「……………………俺が、時を見計らって告げればいいのか?」



 僕が黙っていると、カイルの口から信じ難い言葉が出てきた!



「え、カイル? それって、もしかしなくても?」


「……どう、言えと」


「思ってる事、はっきり言わないと姫様の新作パンあげない」


「…………わかった」



 食べ物で釣るには色気のない話でも、それくらいしないとこの男は感情を口にしない奴だ。


 特に、昨日もだけど。姫様がここに来て作られているパンを、食べ過ぎなくらいにお代わりする程のファンだし。



「……最初は、戸惑った。アクシア様と瓜二つ過ぎて」



 それは、僕も思った。


 魔法鳥で知らされた、姫様の発見。


 まさか、僕達が少し前までなってたように、『冒険者』だったのと。


 カイルが目にした時、既に崖から足を踏み外してて。


 駆けつけた時には、額に裂傷を負って、どこか遠い空を見つめているような状態だったとか。


 他に連れもいないようなので、カイルは迷わずに屋敷に連れて帰って来たが。


 あの時は……生まれてこのかた、乳兄弟として側にいた僕ですら、見たことのない表情をしていた。



『……レクター。姫を、姫を治してやってくれ!』


『お、落ち着いて、カイル! 傷はそんなに深くないから!』



 打撲傷はそこそこあっても、額の裂傷は然程深そうには見えなかった。


 数年は冒険者に身を置いていた、彼でも判断出来るような傷なのに。あの時のカイルは、正気じゃなかった。


 おそらく、王妃様を目の前で失った時の、トラウマを思い出してしまったのだろう。



「だから、これがどう言う感情なのかも未だ判断が出来ない。庇護欲なのか、本当に彼女自身に惹かれているのかも」


「んじゃ、お前。仮に、チーちゃんが同じ年頃の使用人に告白されたら?」


「っ! いつのまにそんな事が!」


「いや、今の思いつきだけどよ」


「…………カイル、ほとんど答え出ちゃってるじゃない?」


「っ!」



 恋というのは、はっきり自覚するまで時間がかかるとも言うけど。


 もうここまで、仮定しただけの事にまで反応するのなら、決定と同じじゃないだろうか?



「それなら、早い事言えって俺も言いてーけど。陛下がもう時期来るんだろ? カイル、お前自分から言えるのか?」



 たしかに、難関はそこだ。


 仮の、として認められてはいても、陛下の一声で婚約解消なんてどうにでも出来る。


 ましてや、姫様は何にも知らないでいるから。



「……解消は、させないようにする」


「カイル!」


「お前達に気付かされたのは癪だが。どうやら、その通りみたいだ。再会して、ひと月も経ってはいないが」


「俺らの前世の文言に、『恋は一瞬』ってのもあるくらいだぜ? 別に気にしねーよ」


「…………そう、か」



 まだ短くとも、『チャロナちゃん』としての人となりを知れたから。


 カイルも、今のような結論に至ったのだろう。


 憧れてた、彼女の母親とは違う、一人の女性として。



(絶対うまくいくようにしなきゃ!)



 マックスの事もだけど、この二人についても。


 僕も助力は惜しまないつもりだった。



「んじゃ、俺今からエイマーに言ってくるわ」


「「…………は?」」


「あ? まだぶっ壊すのも、告ってもねーから」



 んじゃ、と結局手伝わないまま、行ってしまった。


 カイルは、後ろから見てもわかるくらい、憤りの感情が溢れ出ていたが。


 僕も手伝える範囲しか手伝えないので、仕方なく床に散らばった書簡を集めるしかなかった。

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