20-1.いざ、孤児院へ
*・*・*
昨夜は昨夜でまた散々な目にあったけど、今日は今日。
私が錬金術師として、お役に立てるかもしれない大切な日なのだ。
(そもそも、王道の異世界テンプレが私に当てはまるわけもないし!)
チート能力は得ても、恋愛ルートまで出るわけがない。
カイルキア様だって、こんな小娘に好かれても困るだろうし。……自分で思って、少し切なくなってきたが無視無視!
それよりも、今日は孤児院に行くんだから!
「バターロール、ペポロンパン、カレーパン。……全部収納棚に入れた!」
『でっふでふぅ!』
今は朝の仕事が終わってから、自室で待機中だ。
昼以降のお仕事は、エイマーさんとシェトラスさんがこれまで通りにやってくださるようだし、お弁当もお昼ご飯用のパンもたくさん作っておいた。
そして、シュライゼン様からのお迎えが来るまでは、休憩時間と言う名の待機。
夜だけじゃ満足出来ないのか、昼間も少しは体を動かしたいからって。
「カイルキア様、大丈夫かなぁ?」
『心配でふぅ〜』
「ねー?」
昨日の夕方になんとか片付けてた書類も、今日はまた同じかそれ以上に舞い込んできたらしく。
適度に休憩を挟まないと、本当に息が詰まっちゃうはずだ。
本当に、いきなりとは言えお城の人達は、旦那様をどこまで徹夜漬けにしたいのだろうか?
今朝、レクター先生から聞いた話によると、結局は徹夜してたって言ってたし。
なので、せめて私が出来るのはパンの差し入れしかない。エイマーさんには温め直しを教え、何回かに分けてカイルキア様に差し入れするようにお願いしたのだ。
「チャロナぁ〜〜! 来たんだぞ〜〜!」
何故か、今日の企画発案者がいきなり部屋をノックしてきた。
部屋の場所はたしかに知っているからおかしくはないけど、いきなり過ぎる。
てっきり、メイミーさん辺りが知らせに来ると思ってたので。
「は、はい。今開けます!」
そして、開けた向こう側は。
私のよりも断然質のいい生地で作られた、同じデザインのコックスーツを身につけたシュライゼン様が立っていたのだ。
「やっほー! 今日は君とお揃いなんだぞ!」
たしかに、今も隠してる髪色のまま並べば、後ろ姿はほとんど一緒かもしれない。
今日も、緑の髪は子供達には目立って群がれるからだろうと、一昨日と同じかつらをかぶっているのだ。
「いや、あの……なんでコックスーツを?」
「うん? 俺も一緒に作るからなんだぞ。子供達の人数は多いし、指導側が一人でも増えた方がいいだろう?」
「悠花さんもいるんですけど……」
「まあまあ。俺は立ってるより一緒に動きたいんだぞ!」
「そうですか……」
たしかに人手が増えるのはありがたいけど、お貴族様なのにいいのか。いや、悠花さんも一応はそうだけど、普段から気の置けない仲だし?
とは言え、ここに立ってても仕方がないからと、シュライゼン様はロティを肩車しながらスキップされ。
すれ違う先輩のメイドさんや執事さん達からは微笑ましく見られたりと。
ちょっぴり恥ずかしい思いはしたが、お屋敷の玄関を出ると意外にも小さな馬車があった。
「荷物の心配がないから、カイルのとこに少し似せた大人数用の馬車なんだぞ! マックスが来たらすぐに出発するんだぞ!」
『(`・ω・´)ふぉおぉおお』
ロティはそんな顔文字があるかってくらい、シュライゼン様の肩の上で大興奮しちゃってて。
三人で馬車に乗ってからも、リムジン並みの広さな室内にあるクッションの上でぴょんぴょん飛んでしまってた。
『でっふぅ〜でっふぅ、でっふぅううう!』
「ちょっとロティ! 柔らかいのはわかるけど、はしゃがないの!」
「ははは! 構わないんだぞ、俺も小さい頃はよくやってたしな!」
「すみません……」
孤児院にいる時は、ロティを使わないので影に入っててもらう予定。
だから、遊べるのは今のうちだけど、ほんとに申し訳ない。
ロティがちょっとぴょんって飛んでから、素早く抱っこして膝上にキープ。
すると、ロティはジタバタすることなく腕の中でおとなしくなった。
『にゅふふ〜ご主人様の抱っこぉ〜〜!』
「あ、ロティ。わざと?」
『にゅふふ〜』
本当に、この可愛い赤ちゃん妖精は、抱っこが大好きなようだ。
そうして、鍛錬が終わってからすぐやってきた悠花さん達もなんとか乗り込み。
一日ぶりだけど、リュシアに出発となった。
*・*・*
「皆さま、お待ち申し上げておりました」
リュシアの門に着いた時は、シュライゼン様の顔パスならぬ、『馬車パス』ですんなり入れたが。
孤児院に到着した時は、最初に通った正門からさらに裏門に回った。
出迎えてくださったのは、マザー・ライア。
今日も素敵に、慈愛の満ちた微笑みでまた泣いちゃいそうになったけど、気を引き締めた。
「今日はよろしくお願いしますね」
「いえ、こちらこそ。…………お荷物は特に見当たりませんが?」
「チャロナの保有
「まあ、それで」
本当は、悠花さん曰く他の人が持ってるような、空間関連の
マザーを驚かすわけにはいかないから、多少の誤魔化しは必要。
今は影にいるロティとも、打ち合わせして収納棚の詠唱部分を改竄済みだ。
私達は裏口から孤児院の中に入らせてもらい、まずは昼食会という事で収納棚からパンを取り出すことにした。
「保有ステータス、オープン!」
仮の詠唱を唱えても、ロティが動かしているから、私の目の前にはいつも通りのステータス画面が出てくる。
とりあえず、バターロールをタップすれば、大きめの金属のバットがたくさん卓の上に現れ……中には美味しそうなバターロール達が。
「まあ。色艶も素晴らしい……これが、パンですか?」
「一つ、召し上がってみてください」
先に味を確かめてもらわなくちゃいけないから。
他にも、何人かのマザーや男性職員さんにも一つずつ手渡し、全員少し匂いを嗅いでからパンを千切った。
「…………え、これ、本当にパンですか!?」
一番最初に声を上げてくれたのは、修道女見習いっぽい若い女性職員。
よっぽど美味しかったのか、ほっぺをリンゴのように赤く染め上げていた。
「す、すごい!」
「こんな美味しいの……私達もですが、本当に子供達のために?」
「そうなんだぞ! それに、今日は一緒にお菓子も作るんだぞ!」
『ありがとうございます!』
「い、いえ……」
ここまで喜ばれると言うことは……やっぱり、孤児院で作るパンのレシピは劣悪なものなのかも。
食堂のですら、私が以前作ってたのとあんまり変わらなかったし。
「このパン以外にも、ペポロンを練りこんだ白パンに……少し飽きがこないように、趣向を変えたパンもご用意しました」
そして、ペポロンパンもだがカレーパンも全員に試食してもらうと。
大袈裟過ぎるくらいに泣かれてしまい、また感謝の言葉を浴びせられました。
「では、子供達に配ってきますね?」
「行ってくるんだぞ!」
私が作った事は最初は秘密にすると、シュライゼン様がおっしゃるので。
こっそり、隠れて反応を見る事になったのだ。
だから、最初子供達はシュライゼン様が作ったパンと思うのだけれど。
(どんな反応になるか、楽しみ!)
たとえ、サプライズ企画でも、皆を笑顔にするパンが作れたって実感が欲しいからだ。
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