19-2.解決のために






 *・*・*








 結局、悠花ゆうかさんと話す時間が取れたのは夕ご飯後。


 でも私の部屋で、エイマーさんのお見合いの件について話し出した途端。


 彼女?の生気が今にも消えそうなくらい、落ち込んでしまったのだ!



「え……エイマーが……エイマーが、み……あい」


「ゆ、ゆゆゆ、悠花さんしっかりぃいい!」


「そんな……そんなことって」



 ショックが大き過ぎて、思考が明後日の方向どころじゃない状態に。


 揺さぶっても全然元に戻んないから、本当にどうしたものか。



「エイマーさんが、見ず知らずの男の人と仲良くなってもいいのぉー!?」


「それは断固阻止するわ!」



 やけくそでお決まりのような台詞を言ってみると、意外にも効果があったらしく、悠花さんは『goddamn!』のように闘志を燃やし出して正気に戻った。



『まあ、マスターの場合。姐さんの事は誰にも渡さないでやんすから?』


『ユーカしゃん、おねーしゃんだいしゅきだからでふ?』


『うんうん。ロティは素直にそう思ってて?』



 精霊同士の会話はひとまずスルーしておいて。


 エイマーさんの気持ちは伏せつつ、どうやってお見合いを阻止……もしくは中断させるかが問題だ。



「チーちゃん、いつ? いつなの? あたしのエイマーが見合いなんかしなくちゃいけない日取りは!」


「え、えーと……たしか、今日抜いてだから……十日後?」



 これはもうぶっ壊すつもりでいるらしいが、エイマーさんもカイルキア様のお父様からの頼み事だし、断りにくいとも言っていたっけ。



「意外と短いわね。……フィーの奴使ってでも、カイルの実家に殴り込みに行こうかしら?」


「真顔で怖い事言わないで! あと、フィーガスさん可哀想!」



 絶対テレポート運搬にしかフィーガスさんは使われないにしても。


 色々忙しいはずの彼を使いまくったら、可哀想だ。おまけに、まだ少し先でもあの人だって結婚を控えている側だし。



「え、なんで? 昔はシュラがまだあの魔法使えない時はよく引っ張っていったわよ?」


「oh......(´・ω・`)」



 既に時遅し……と言うべきか。


 けど、彼は彼でお家に戻っちゃったからやめようと私が言いました。



「会うだけだって言ってたし、エイマーさんも大旦那様からの頼み事だから〜って、断れなかったみたいだよ?」


「カイルの親父さんはね……。エイマーの事は可愛がってたし、行き遅れになってほしくないと思ってたはずだもの」


「…………なんで、悠花さん告白しなかったの?」


「う゛」



 なんて事のないように聞いたつもりだけど、結構重要な事だ。


 ほぼほぼ幼馴染みで、悠花さんも成人して四年も経つ。


 告るタイミングはいくらでもあったはずなのに、お互い未だにってのは少し不思議だったのだ。



『まあまあ、チャロナはん。マスターはカイルの旦那達としばらく冒険者やってたでやんす。それが半年前に落ち着くまでは、こんな頻繁には会えんかったでやんすよ』


「あ、そっか」



 レイ君の言う通り、半年前まで悠花さんはソロじゃなくパーティーでの活動をしていた。


 それが、この半年だけでランクも相成って評判が急成長してあちこちの大物討伐に引っ張りだこにされて……な生活をしてたら、告白するチャンスもなかったかも?



『あと、マスターが結構ヘタ、ぶふぅ!?』


「自覚はしてっけど、わざわざ言うか!」


『レイのおにーしゃぁあん!』



 レイ君がケラケラしながら言い終わる前に、悠花さんが拳に風の魔法なんかを纏わせて一発お見舞いしたのだ。


 人型だった彼に抱えられてたロティにまで被害はなかったものの、ロティはいい子いい子とレイ君を慰めてた。ほんと、いい子。



「あー、そうよ。ヘタレよ! あの子がなんか距離おくから、って尻込みしてたあたしが悪いわよ!」


「ど、どーどー、そこまでは言ってないから」


「それに、あの子モテんのに周りからのアピールにも気づかないのよん!」


「oh......(´・ω・`)」



 たしかに、昨日のお出掛けの時も、悠花さんを褒めまくってて……本人は悶えてたのに、恥ずかしがってると思うくらいでスルー。


 何気に、エイマーさん小悪魔?なのだろうか。



「……それに、昨日レクターと飲んでる時にも言われたのよ。実は結構身分差も気にしてるんじゃないかって」



 その回答には、私も少しドキッとした。


 レクター先生の推測通り、エイマーさんは結構気にされていた。


 私が『気にせずに』と言ってしまってても、すぐに払拭出来るわけがない。


 私は、他所から来ただけの介入者に過ぎないから。



「だからよ、チーちゃん!」


「え?」



 いきなり、大声で迫ってきたので何事と思ってると、悠花さんはさらに大きな声でまくしたててきた。



「あの子が誰に気があるのか、昨夜聞いたんでしょ! ヒントでもいいから教えて!」


「うっ」



 それは言えますか。


 ヒントどころか、あなた本人だってことを!


 レイ君をちらっと見れば、彼は既に気づいてたのか思いっきりため息を吐いてた。



「誰? この屋敷の中にいんの!」


「か……仮にいたら、悠花さんどうするの?」


「一発ぶっ飛ばすわ!」



 自分で自分ぶっ飛ばしてください!


 恋にこじれると、思考回路が狂うとはまさにこの事だけど。


 これは、もう変化球?を返すしかないか。



「じゃあ、自分だったら?」


『「っ!?」』



 室内の空気が凍る感じがした。


 我ながら、ほぼほぼ直球の回答をしたかもしれないが、変に騒ぎ立てても意味がない。


 これは、マックス悠花さんとエイマーさんに幸せになってもらいたいから、言うんだ。



「一時期はともかく、ずっと一緒にいたんでしょ? マックスさんの見た目は超が10個つくくらいかっこいいんだし、物件としては有力候補じゃない」


『ちゃ……チャロナはん、いいんでやんすか?』


「いいの。お見合いなくさせるためにも、これくらいお膳立てしなきゃ」



 まだ悠花さんは信じられない、って感じに固まっているが話は聞こえてるみたいだ。


 目も、少しずつ潤んできてるしね。



「……………………じゃ、ぁ、レクターの言うように。あたしかもしれない……って事?」



 おや、既に賽は投げられてた模様。


 昨夜は昨夜なりに、悠花さん自身も考えてたかもしれない。


 その上で、私に助力を求めるって事は。



「じゃ、お見合いぶっ壊して、エイマーさん攫っちゃう?」



 なーんて事も、言っていいんじゃないかと振ってみたら。



「ふふふ……ふふふ。そうね、事前にちゃんとエイマーには言うけど。カイルの親父さんには悪いけど、ぶっ壊すわよ!」



 やる気メーターMAXになった悠花さんはもう止められないでしょう!



『チャロナはんが余計に焚きつけてどーするんでやんすか〜』


「そう言うレイ君だって、焦れったく思ってたんでしょ?」


『そうでやんすけど』



 私も私で、明日の大事なイベント以外やる事は多いだろうけど。


 マブダチの悩みだって、早いうちに解決してあげたい。


 まだ、出会って一週間くらいだけど。本当にそう思ってるもの。



「そう言うチーちゃんも、カイルについてはどーなのよ?」


「…………………………は?」



 気合いが落ち着いたかと思えば、流れ弾が飛んできて。


 結局は、私も私で何故か恋バナのようなのをさせられるハメになってしまった。

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