16-2.その後の王宮では(シュライゼン/国王視点)








 *・*・*(シュライゼン視点)







 我が父上ながら、不機嫌丸出しなんだぞ。


 ミュファンの店からの転移直後にそそくさと玉座に向かい、まさに仕事をしていた一同の前で報告。


 が、チャロナの名前を出さずとも事前に知ってたのか、父上不機嫌度MAX!



「…………わかった。元リブーシャ子爵については、そなたが申すように刑は爵位剥奪に加えて……懲役100年でいいだろう。私としては、ぬる過ぎると思うが」



 最後の言葉に、爺やの宰相以外全員が凍ったような表情になって面白いんだぞ!


 俺は俺で、笑いを堪えるのにわざとニヤニヤしていたんだが。



「…………王太子、私と一緒に来い。あと宰相も」


「「はっ」」



 あ、これは爆発するぞと思っても、ここは玉座の間だから従うしかない。


 既に犠牲になった臣下達は放っておいて、爺やと一緒について行くことにした。


 そうして、国王の執務室に入ると。


 扉を俺が閉めてから、なにかが飛んで来る気配がしたのですぐに避けた。



「文鎮は危ないんだぞ、父上!」



 避けてなかったら、たんこぶだけで済まなかったんだぞ!


 扉もぶち抜いてしまったしね!



「ちっ、避けやがったな……」



 俺と爺やだけになれば、王の仮面は捨ててただの柄のわっるいおっさんになってしまったんだぞ。


 将来の俺!って言うくらいに顔がよく似てるので、俺はあんな悪人顔にはなりたくないんだぞ!



「陛下。殿下も人の子なのですから、いくら高速治癒があれど骨折は免れませぬぞ?」


「そう狙ったんだ! 俺の・・マンシェリーにまた堂々と会いに行きやがったんだからな!」


「そうはおっしゃいましても、緊急事態故に仕方なかったのですから」


「それでもだ! 俺が駆けつけたかったのに!」


「「ダメです(なんだぞ)!」」



 いくら、俺とチャロナ……マンシェリーの父親だからって、現国王が民衆の前で急な登場をしたらマズイ。


 マンシェリーは、ホムラでほとんど育ったから覚えていないのは当然。


 それに、俺がまだ打ち明けていない、『この国の王子』と言うことがバレてしまう。


 んでもって、時系列で自分が王女だと知ってしまったら、あの子は……絶対心が壊れる。



「ダメなんだぞ、父上。俺だって、兄である事を告げていないのを……今日で、どれだけ安心出来たことか」


「…………どう言う事だ」



 爺やに抑えられながらも、一応俺の声が聞こえてたようで。


 俺の本心を告げると、ぴたりと騒ぐのをやめて執務用の椅子に腰掛けた。



「殿下。爺やにもお話いただけますかな? 事件以降は、貴方様がご一緒だったために必要最低限の影しかつけておりませぬ。彼らからは、まだ元子爵の件しか聞いていませぬ故に」


「…………少し、覚悟して聞いて欲しいんだぞ」


「話せ、シュライゼン」



 父上はすぐに覚悟を決めたのか、急かすように告げてきた。


 だから俺は、孤児院で起こった出来事を包み隠さず話すことにした。


 終わった直後に、爺やはハンカチでそっと目頭を押さえ、父上は……俺に涙を見せたくないのか天井を仰いだまま手で目元を隠した。



「……おいたわしや、姫様」


「…………やはり、極秘ではなくしっかりと部隊編成を組むべきだったか」



 それは、カイル達に密命として下したマンシェリーの捜索。


 だが結局は、そのカイルが戻って来てから見つけたのだ。今悔いたところで遅いのは、父上も頭ではわかってはいるだろう。



「だから、俺達が本当の家族とは簡単には言えない。育て親をそれだけ恋しく思ってるんだぞ。俺達の溝をすぐに埋めようなど」


「無理なのは承知だ!」



 まだ話途中なのに、父上は強く俺の言葉を遮った。


 親バカだが、やはり国王は国王。


 分を弁えているところは、しっかりしてるんだぞ。



あれ・・が自らを盾にしてまで守り抜いた命だ。俺とて慎重にはなる……だが」


「一刻も早くお手元に戻されたいお気持ちもわかります、陛下。ですが、あの方は赤子の頃の記憶はほとんど無いに等しい。ましてや、転生者としての宿命まで背負われたのです」


「そこが……歯がゆい。したたかな女性として育ってると聞いて最初は安心したが……やはり、根はまだ幼い少女。育てたとは言え、義理の親も恋しいはずだ」



 そうして、隠した手と顔を俺に見せた時には、涙はもう拭わなかった……んだが。



「だが…………悔し〜〜〜〜い! 俺だったら、すぐに駆けつけてハグして頬ずりして慰めるのにぃいいいいい! アクシアが先に逝っちゃった分目一杯代わりにぃいい!」


「…………陛下」


「父上、ものすっごくがっかりしたんだぞ!」


「うるさい! お前は正体明かしてなくても会えてるから羨ましい!」



 結局は、親バカ丸出しなんだぞ。


 国王としては尊敬してても、マンシェリーが産まれた時からずっとこうだ。普通の父親にしか見えない。



「……でしたら、陛下」



 同じく呆れてるはずの爺や​──カイザーク=メンゼルンはいい事を思いついたかのように、手を叩いた。



「感謝状をお届けになられるのは、少々変装された陛下自らお渡しされればよろしいんじゃないでしょうか?」


「爺や!?」



 そんな大胆発言、俺じゃないのに珍しいんだぞ!


 それに、そんな事言ってしまったらこのバカ父上は……!



「……ふふふ。いい……いいぞ、カイザー! 使者と言う名目なら堂々と会いに行ける! デュファンの息子にも一度殴っげふん! 久々に挨拶に行かねばと思っていたしな?」


「殴るって言った!」


「では早速、スケジュールを組み直しましょうか。少々前倒しする仕事が出る可能性はありますが」


「どんどん寄越せ! 二日……いや、五日で終わらせる。さすがに、例の昼食会の日はマザーに悪いからな」


「えー……俺も手伝うの?」


「当たり前だ!」



 こうやる気が出てしまったら、父上を止められるのは爺やだけなのに。


 なんで爺や本人が焚きつけちゃうんだよ!


 仕方なく了承し、爺やだけを執務室から連れ出した。



「爺や、あんな無茶させたら当日の父上酷い顔になるんだぞ!」



 場所を俺の執務室に移し、俺は呆れと怒りをあらわにした言葉を爺やにぶつける。


 しかし、爺や本人は至って涼しい顔だった。



「そうはおっしゃいましても殿下。姫様がこの国に戻って来られてやっと半月程度。爺もですが、陛下もかなり耐えましたぞ」


「むー、わかってはいるんだが。……あのバカ丸出しの顔をしないか心配なんだぞ」


「ほっほ。そこは陛下ですぞ。立場は十分わかっておいでですから」


「それはいちおー俺も知ってるけど……」



 亡くなった愛する妻と瓜二つの娘と対面……ってなった時の瞬間が怖い。


 さっきのように感情を堪えるか……今日のマンシェリーのように泣き叫ぶか。


 親子だから、親の方がそうなってもおかしくはない。


 俺も、あの時はかなり焦った。



「…………シュライゼン様」



 爺やが殿下と呼ばない時は、俺はただのシュライゼン。


 一人の人間として接してくれる合図なんだぞ。



「ご心配なされるお気持ちは爺もよくわかります。陛下をそう呼ばれても、父親と娘の対面の時に何が起こるかわからないからと」


「……爺やにはお見通しなんだな?」



 俺の事なら、すぐにわかってしまうんだぞ。



「大丈夫ですよ。戻られた報せを聞いた時、陛下は爺の前ですぐに泣き崩れられたんです。涙の峠の一つは、既に越えられました。今の陛下でしたら、案ずることはありません」


「そうだと……いいんだが」



 愛する人をもう失いたくない。


 戦争が終わってまだ10年足らず。


 英雄王と称えられてるあのバカ父上だって、当然人の子だ。


 耐えられるところと、耐えられない事があるくらい俺だってわかってるさ。



「一応目付役として、爺も行きますぞ」


「……………………爺や、本音そっち?」



 せっかく人が感心しかけたのに、この爺さんもやっぱり確信犯か!



「ストッパーはおりませんと。姫様のお姿をじかに拝見しとうございますが、やはり陛下の行動が心配ですしね」


「むー……俺だけじゃまだ無理だしなぁ」



 見た目ひょろっこい爺さんだけど、腕力は今の俺でも勝てないんだぞ。


 幼馴染みで一番腕力のあるマックスやカイルですら、ね。



「ほっほ。爺にお任せください。いざと言う時は……なので」


「はいはい。爺には敵わないんだぞ」



 仕方ないので、話はここまでになったが。


 その後俺に振り分けられた書類の山は、近習達でも側近も兼ねてるギフラが卒倒するくらいだったんだぞ!


 爺やの鬼!









 *・*・*(国王視点)






 終わらせる。


 終わらせる。


 終わらせてやるぅう!


 俺はそう決めたんだ!



「ファイトですぞ、陛下」


「カイザー! どんどん持って来い!」


「はっ」



 マンシェリーに、偽りの姿と言えど直接会える。


 我が愛しい人、アクシアの生き写しとも言われる成長した姿。


 是非とも、この目に写したい!


 バカ息子に先を越されてしまってもだ!



(…………だが、やはり簡単には打ち明けられないのか)



 孤児のレッテルだけでなく、ただの市民のように育ってしまった思春期。


 そして、今は雇い主兼仮の婚約者となっているカイルキアからの報告によれば。


 ホムラの孤児院を巣立ってから、あまり良い生活をしてなかったとか。


 王家の血がうまく覚醒せず、力がコントロール出来てなかっただろうと俺は報告後にカイザークと推測をした。


 あれは、訓練がないとなかなか自分の物に出来ない代物だから。



(それを……転生の宿命以外にも、今日開眼したとなれば)



 戦争以上に、あの子の周囲を守りに固めなくてはいけない。


 影からの報告にも、髪色を隠してたが弁舌とアクシアと酷似した形相で気づいた者も出て来たと。


 幸い、ユーシェンシーの嫡子が隠密部隊の店に連れて行った事で、秘密裏に動き始める事が出来るようになったと言っていた。



(……………………早く王女だと身分を打ち明けて、弟の息子に嫁に行かせれば……ダメだダメだ!)



 国王としてなら、後ろ盾を強固にさせるのも務めであるが。


 一人の親としては嫌だ!


 赤ん坊の時でも、少しの間しか一緒にいられなかったのに!


 同じ国にいても、あの無愛想野郎の嫁になんかやりたくない!



「陛下。手が止まっていますぞ? あと、失礼ですが声に全て出ておりましたが」


「…………すまん」



 カイザークにはすべて話してしまったようなものだが、カイルキアにと決めた時点でもう覚悟されてるのではと返された。



「…………あれは。どちら・・・にも負い目を感じているからな」



 アクシアを失った時にも、マンシェリーを探しきれなかった半年前の時も。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る