5-3.食パン完成、PT付与

 貯蔵庫から戻ってきたら、今度はオムレツの中身に使う野菜の下ごしらえからお手伝いすることに。


 ただ、用意されてるお野菜が山のよう。


 ナス、ズッキーニ、パプリカ二種と玉ねぎにトマトと言えば……。



「このお野菜……ラタトゥイユですか?」


「正解だよ。トマト以外ひたすら角切りだ」



 料理名がほとんど日本語と差がないけれど、材料の名前もほとんど同じなのに今更気がつく。


 どうして、と今は思うが、考えてても時間がないのでエイマーさんにこちらの角切り方法を教わってから、全種類ひたすらカットしていった。



「夏野菜たっぷりなんですね」



 トントン



「この野菜は全部、サイラと同僚の菜園見習いの使用人が毎朝採れたてを持ってきてくれるんだ」



 トントン



「わぁ、自家製?」



 トントン



「うちのお屋敷もだけど、ここ近郊どのお屋敷でも大抵は自家菜園をお持ちだよ。と言っても、一番近いカイル様の部下殿のとこでも20キロは離れてるが」



 トントン



「と、遠いんですね……」



 だとしたら、私が落ちた崖はカイルキア様の領土のどの辺りだったんだろう?



「あの、エイマーさん」


「ん?」


「カイル様が、私を見つけた場所って聞いてますか?」


「さあ……私や料理長は、急な怪我人を運んできたとしか」


「そうだね? あとでカイル様がいらっしゃるだろうから、聞いてみたらどうだい?」


「ちょ、直接!」



 朝一番から、あの美麗筋肉マンの御方に聞けるだろうか……。



(ん、カイルキア様?)



 の、日課が体を鍛えるのを思い出し、ロティと聴こえたあのシュッシュって音と、何か関係があるのかもと思い立つ。



「あ、あのシェトラスさん」


「なんだい?」


「か、カイル様が後でいらっしゃるって言うことは……もう御目覚めされてるんですか?」


「ああ、そうだったね。うん、カイル様の起床時刻はとっても早いんだ。私とほとんど同じかな? 今は中庭辺りで剣の素振りでもされてるはずだよ」


「や、やっぱり!」



 あの音が素振りなら納得!


 聞き覚えあるなーと思ってたけど、パーティーでも剣士ソードマン戦士ファイター職業ジョブ持ちのメンバーは、朝もだけど暇あれば素振りはしてた。


 私はその時、ご飯の準備とか雑用諸々していたが。



「とにかく体を鍛えるのを趣味とされててね? 冒険者になるきっかけは伺えていないんだけど」


「そうなんですか?」


「まあ、お仕えして長いけれど、半年前までの8年くらいはぽっかり空いてるんだよ。その冒険者生活はどうしてたのか……詳しいのは、やっぱりレクター先生かな?」


「乳兄弟だから?」


「それもあるんだが、レクターくんは治療師ヒーラーとして旦那様についていってたんだよ」



 なんか、益々思い描いてたお貴族様とかけ離れていくけれど。



(でも、健康的だし、いいこと?だよね?)



 ひとまず雑談はそこそこにして、下ごしらえの続きに取り掛かった。



「じゃあ、ローザリオン公爵家のラタトゥイユを教えようっ」


「はい!」



 たくさん作るので、コンロの上には大きな寸胴の鍋が用意されていた。


 まず先にオリーブオイルをたっぷり入れて、火にかけて。温まるまでにニンニクを皮のまま包丁の腹で潰して、皮を取る。


 この方法は、千里前世でも時々見かけた調理法だ。


 次に、ヘタと内側の芯を取り除いてからみじん切り。

 これを鍋に入れると、ちょうどじゅっと音が鳴ったので私が木べらでゆっくり炒める。



「香りが出てきたら、玉ねぎを入れて透き通るまで炒めるんだ」


「はい」



 それが出来たら、次にパプリカ。

 その次に、ズッキーニ、ナス。


 全体に油が回ったら、トマトを大きめにカットしたのを投入。この後は、水分が出て来るまで炒める。



「水が出てきたら、弱火にして計量した塩と砂糖を加えて……あ、チャロナくん。さっきのタイマーって出せるんだったよね?」


「あ、はい」



 ロティがいなくても召喚可能なのは昨夜確かめたので、指を鳴らして鍋上に表示させた。


 ただ、この技能スキルは私しか触れないらしく、タイマーの時間は私がセットしました。



「20分……でいいですか?」


「一度試したかったんだっ。他の調理をしてる最中に煮過ぎてはいけないしね!」


「威張ることではないよ、エイマー?」


「……はい」



 今日わかった事だけど、20代後半にも近いのにエイマーさんってクールビューティの見た目に反して結構子供っぽい。


 サイラ君は一緒に暮らしてた時期があったって言ってたけど、面倒を見るのに口調も男っぽくなったんだろうか?





 ちっちーち、ちっちーち





 とここで、ロティの方からアラームの音?が。


 ひと言断ってからオーブンを軽く開けたけど、膨らみは半分くらい。


 ロティにはもう15分か20分様子を見てもらい、私はその間にコカトリスの卵をぱっかぱかボウルに割っていく。



「この時間だと、カイル様以外にも早朝組みが多いんだ。パンはまだいいが、こちらを急ごう」


「あ、はい」



 ちょっと急ごうかなぁとは思ってたけど、先に注意されてしまったので頷くしかない。


 昨日あれだけ争奪戦があったのなら、美味しさを定着させた方がいいとのこと。


 食パンはサンドイッチにもだけど、先に焼いて粗熱や乾燥もしなくてはいけないから仕込んだのも、エイマーさん達にには間違ってないと言われた。


 悪食による口伝消失はあっても、ところどころ復活してるのが不思議。



「さて、ラタトゥイユもいい頃合いだ」



 蓋を開ければ、トマトのいい匂い。


 まずは味を覚えるのにひと口だけ。




【野菜ゴロゴロラタトゥイユ、レシピ保存


 並びにPTを20PT付与します


 *味見でも要所要所にて、PTは付与します】




 と、少しだけ天の声が聞こえてきたけど、驚きを堪えてラタトゥイユを咀嚼する。


 コンソメや味噌とか、味の濃い調味料を一切入れてないのに、優しい野菜の甘みと砂糖のコクでスッキリと美味しい。


 これは是非とも、オムレツにかけたり中身にするのにもいいだろう。



「美味しいですっ」


「パンにもきっと合うだろうね。では次に​──」



 メインと主食だけでなく、サラダ、スープなんかの簡単なお手伝いも色々と。


 そんな細々とした補助をしていれば、ロティの2回目のアラームも鳴ったのでまた様子を見に行く。


 8分目まで膨らむのに、ここはロティよりタイマー召喚の方で微調整。


 型から溢れる手前になってから、一度型を取り出してロティにはオーブンに変換チェンジしてもらった。



「じゃあ、焼き上げお願いします」


『あいでふぅ。おいちい、おいちい〜ぱ〜んぅ。

 おいちいおいちい〜ぱ〜〜んぅう』



 予熱が出来たと同時に型を全部入れたら、昨日のようにロティが歌い出した。


 これについては、子供番組にあったような完成までのBGMと思っておくしかない。とりあえずは聞き流す程度に。


 最初は180度で20分、その後160度で10分。


 四角用の蓋をしないでおけば、山形も綺麗に膨らんで、ふわふわ食パンの完成。



『ぷぷぷっぷぷ〜出来まちた〜!』


「ここからが、ちょっと頑張らなきゃ」



 ミトンをしっかりはめて、型ごとしっかり持ったらオーブンの蓋の部分を使って底、側面と軽く打ち付ける。


 こうすると、塗った油のお陰でパンが剥がれるのだ。


 証拠に、用意しておいた網の上に出すときは綺麗に落ちた。



「本当は冷却コールドさせた方がいいんですが」



 せっかくの焼きたてがもったいないので、ひとつを半分に割って試食タイム。

 ロティもオーブンから元に戻らせた。



「「「いただきます」」」

『いちゃだきまふぅ』



 ちょっとあちちしたけど、ちぎってもふわふわの食パンを四人で頬張る。



「「ん⁉︎」」


『ふわわわっ!』


「んー、これぞ食パン!」



 卵を入れるホテル食パンの作り方じゃないが、しっとり柔らかで噛めばもちもちと美味しい。


 このままでも十分美味しいけれど、バターをのせてトーストとか、そこに好きなジャムを乗せるとか。


 無限に考えられるが、これには粗熱を取るのに弱い冷却コールドをかけよう。その前に、試食でPTが35も入った。


 食材によってPTが違うのは今更だけど、パンの方が多いみたい。



「えーと……出力はだいぶ弱くして……『冷却コールド』!」



 詠唱をすれば、手のひらから小さな雪の結晶が現れる。


 結晶は、対象の食パンに降り注いでいく。


 一瞬だけパンが白く光ったけど、消えた時には切った方の断面が少ししっとりしてるように見えた。


 これをもう一度皆さんで試食。



「これは、自分のパンが駄作だと思えてしまうよ……」


「ええ、料理長。これでは旦那様の仰るように、王宮の料理師達の腕前も霞んでしまいます」



 シェトラスさんが学んできた場所が王宮ならば、昨日のサンドイッチにさせたパンは王宮でも出されてるのだ。


 あれを美味しいと思い込んでるのがもったいない。


 自画自賛出来るくらい、美味しく出来た食パンは追加で40PTもらえました。



「本当は、この後ビニールって素材の袋に入れておくのが保存法にはいいんですが」



 ないので専用の木箱でひとまず保管。


 そして、カットする時には、カイルキア様が食堂にいらっしゃったようです。

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