6-1.またもや、食べ過ぎか
「「「おはようございます、旦那様」」」
『はにょーございましゅでふぅ!』
今日から使用人の一員なので、カイルキア様を改めて『旦那様』と呼ぶ事になっている。
お名前を呼んじゃダメって言うわけじゃないみたいだけど、1日の最初は旦那様呼びが普通らしく。
カイルキア様は食堂に出てきた私達を見ると、一瞬目を丸くしたがすぐに目元を緩めてくださった。
「……ああ。皆おはよう」
ほんのちょっと表情が変化しただけなのに、今日も素敵に美しいです。
それと、シェトラスさんが言ってたように素振りをされてたのかシャワー上がりなのか……カイルキア様はとってもラフな格好をされていた。
(いや、ご自分のお家だから何着ててもいいんだけど!)
胸元まで開いたシャツとかって朝から刺激強い!
今が夏だからしょうがなくたって、一応うら若き?乙女の前には刺激すんごい!
これに真っ昼間の陽光がオプションについてたら鼻血案件だ。
前世腐女子じゃないはずだけど、神絵師の美麗イラストとかでドギマギした気分と同じように早鐘が酷くなってしまう。
実際は、接客スマイルを仮面のごとく貼り付けてるからか、カイルキア様には不振に思わず済んだが。
「……ところで、今日のメニューはなんだ?」
「はい。夏野菜のオムレツにコンソメスープとサラダ……に、チャロナちゃんの昨日のパンをお付けしようかと」
「そうか。すぐに持ってきてくれ」
カイルキア様はシェトラスさんに確認を取ると、何故か隣に立ってた私とロティの頭を軽くぽんってしてからお席に行ってしまわれた。
「『??』」
「さあ、チャロナちゃん。パンの温めをお願い出来るかな?」
「あ、それですが」
食パンの方もいい感じに冷めてきてるはずだし、一度でもカイルキア様に食べていただきたかった。
出していいかお願いしてみると、シェトラスさんやエイマーさんはもちろんと言ってくれました。
「ロティ、トースターよ!」
『あい!
今回変身したロティのトースターは、家電の中でも古い、差し込んでから飛び出すタイプ。ナビ
けど、一点違うのはどの厚さにしても差し込めるのがすごいとこ。
これに五枚切りサイズにスライスしたパンを入れて、ツマミを下に。
「これに、昨日多めに作ったジャムと常温のバターの残りを……と」
ティーセット用に使う小皿に綺麗に盛り付け、定番通りチンって鳴ってから軽く飛び出た、美味しそうにこんがり焼けたトースト二枚は大皿に。
これをエイマーさんにお願いしようとしたら、せっかくだし自分で持ってくようにと言われてしまう。
「説明は私や料理長より、君のが詳しいからね?」
ほらほら、と背中を押されてしまい、仕方なく元に戻ったロティと一緒に向かう事にした。
窓際の席で、モーニングティーを優雅に飲まれてるカイルキア様はさっき以上に眩しかったが、が、頑張る!
「……ん? チャロナか。それは……?」
足音か気配で気付かれたのか、声を掛ける前にこっちに振り返ってきた。
ちょっときょとんとした可愛い顔だったのにときめきかけたけど、肩に乗ってるロティがつんつんしてきたから私は軽く一礼した。
「メインの前に、つい先程焼けたパンをお持ちしました」
「シェトラスは昨日のパンをと言っていたが……?」
「旦那様がいらっしゃる直前に焼けたので、どうぞ。トーストです」
「これは……?」
トレーからひとつずつ卓に置かせていただくと、カイルキア様はほんの少しだけ首を傾げていた。
無理がないと言うか、この世界では庶民でもトーストって習慣があんまりないから珍しくて当然。
だから、食べ方は説明しますとも。
「サンドイッチなどに使う、山形のパンをスライスしてさらに炙ったんです。お好みでこちらのバターやジャムをお付けください」
「トースト……すまないが、先にレシピを見せてくれないか?」
「えと、パンのですか?」
「ああ」
頼まれたからには、トレーを一度別の卓に置かせていただいてからロティを頭上に浮かせた。
「
『あいでふぅ! うぅ〜〜〜ん、データ
ロティが出来るだけ両手を広げていけば、そこからコードのような光が出現して、あっという間にA4サイズの紙が出現。
前世のコピー用紙と寸分違わぬ手触りと、大きさ。
そこには昨日もあったがたしかに希望を出した『レシピ』がイラスト付きで記載されていた。
【『もちふわ山形食パン』
<材料>
強力粉
常温の無塩バター
砂糖
牛乳
浄化水
塩
イースト(乾燥)
《別途必要》
打ち粉
植物油
<作り方>
①ナビゲーターが
→指定のスイッチを入れてミキシング(速度管理はナビゲーターの管轄)
②一次発酵の前に、生地の具合を確認
③
→温度・湿度管理については①と同じく
④フィンガーテストを忘れない。指に粉をつけ、第二関節まで生地に指し、空いた穴が、ちょっとだけ小さくなれば大丈夫
⑤分割は生地の量に合わせて、表面を美しく丁寧に成形したら乾いたガーゼ布をかぶせて5分ほどベンチタイム
⑥《成形》
・ガス抜きの時に、中央は山形を意識しながら叩く
・麺棒で、平らになるように伸ばして向きを変えて四角にさせる
・内側に閉じて、三つ作る
*打ち粉はとにかくつけ過ぎない!
↓
・先に作った方から順番に
横向きにさせてから軽く均し、縦に均一に伸ばして閉じ目を上にしてからぐるぐる巻く(何周もはさせない)
*中心がはみ出ないように、型に入れて焼くと空洞の原因に
・これを型に入れ、6個分繰り返す
・型は薄く植物油を刷毛などで塗り、生地は三つずつ入れてから高さを均す
⑦オーブン式の発酵器に
型を入れる
・発酵時間は、30分、20分、5分と時間を見て膨らみを調整
⑨
⑩パンが焼きあがれば、完成
→型から出すときは、ミトンをしっかりはめて側面と底を丈夫な台の上などに打ち付けてから
「……随分と、細やかな技術を要するんだな」
全部読み終わると、レシピの紙を畳んでからカイルキア様は卓の上に置いた。
レシピの紙については、ロティが消失させるかカイルキア様が保管されることになったので、新しいレシピはカイルキア様にお渡しするようになっている。
「そうですね。昨日いただいたサンドイッチで気づいたんですが、柔らかさと食感の善し悪しが決まるのはやっぱり仕込み次第です」
「だろうな。昨日食べたパンでそれはよくわかった」
詳しい話はもっとしたいが、せっかく焼いたトーストはあったかいうちがいい。
なので、食べ方も説明させていただきます。
「まずは、バターナイフでお好みの量のバターをたっぷり塗りつけてください」
「ん」
こんがり焼けた面に、カイルキア様はナイフで綺麗に塗りつけていく。
この次に、一緒に用意しておいたジャムの出番だ。
「この上にジャムもお好きなだけのせてください。わ、私のオススメはいちご、ですが」
「ならそうしよう」
差し出がましい発言だったかもしれないのに、カイルキア様は即答して……私が作ったいちごジャムをこれでもかと乗せてしまった。
昨日もそうだったけど、やっぱり甘いものが好きなんだろうか?
バターロールにも他のジャムをたっぷりつけてたし……そして、そのまま大口を開けてがぶっと食べ始めた。
「っ⁉︎」
食べた時に、ちょっとだけ肩が跳ね上がったが……それからが凄かった。
ひと口、またひと口とあっという間に分厚い五枚切り一枚ぺろんちょと食べられてしまいました。
二枚目は、そのままの味を確かめたいのかバターだけを塗ってこれまたすぐに食べ終えられた。
『ふわわ〜、旦那ちゃましゅごいのぉ』
ロティもびっくりしてたけど、私もびっくり。
ほんと、気持ちのいい食べっぷりだから美味しいって言葉をいただけるのよりも唖然とさせられたから。
「……これは、美味い。お代わりはもらえるか?」
「は、はい! すぐに」
追加のジャムとかも用意しなくちゃいけないので、メインをお持ちしてたエイマーさんとすれ違ってから急いで厨房に戻ってロティと準備した。
それから、カイルキア様は食パンだけで1斤以上も一人で平らげてしまい、シェトラスさん達まで唖然とさせちゃったんです。
でも旦那様って、実はパンが苦手だったんだって。
それを、私が作った日本のパンは美味し過ぎるからか止まらないってシェトラスさんにこぼしてたのを、後から教えていただいた。
「こ、コーヒーお持ちしましたっ」
「ああ、ありがとう」
最後に、私が淹れたコーヒーもゆっくりと召し上がられて。
新聞はないから、またロティが出した食パンのレシピを片手間に読み出していた。
(……絵になるなぁ)
体格と常時無表情だから、恩人でも怖いイメージを最初は抱いてたが、ちゃんと話を聞いてくれるし、褒めてくれるとこは褒めてくれる。
表情も、ちょっとほころぶ程度だが、むしろそれがカイルキア様らしいと思えて。
もっと、笑った表情が見たいと思ってしまう。
(そうだっ、甘いものが好きなら……頼まれてたおやつはあれにしよう!)
厨房に戻ってから。私はバターロールを仕込む前にシェトラスさんに相談することにした。
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