第4話 会議の始まり~悪人品評会~

「それじゃあ存分に語らってよ。あたしはここでうんうん頷いとくから」


 エンマの執務室の半分もない小さな部屋の中、中央に置かれた長机からやや距離を取って椅子に座ったライは盛大な欠伸を一発かましたのちに目の前の男たちへそう言った。

 長椅子に座るのは机の上の資料に目を通すコクエと、ボロ布を頭に被った謎の男。


「ただ一個だけ聞いておきたいのは…………そのあんたの隣の人って亡者だよね? なんで亡者がこのエンマ宮の中に普通にいるの?」

「その疑問はもっともだな。まずは彼を紹介しよう。そうしたらその疑問を自然と氷解するはずだ」


 コクエはそう言うと隣を一瞥し、


「彼は獄役三百七十年の亡者。名前はニンザブロウだ」


 ボロ布を頭巾のように被って目以外の部分を覆い隠している怪しい男を紹介した。目だけではこれといった特徴もなく、全体的にうすぼんやりとした印象しか抱けない。


「ニンザブロウと申す。以後よろしくでござる」

「ニンザブロウは生前忍者と呼ばれる仕事をしていて、情報収集に関してはプロだからな。私の素晴らしい協力者だ」

「忍者って、確かどこぞの世界の暗殺やら諜報やらする連中のことだっけ? それはいいけど、なんでエンマ宮の中にいるの? そこの答えは?」

「おや? 忍者を知っているのにわからないか? なぜエンマ宮の中に入れたかなんて、彼が忍者であるというだけで十分じゃないか。忍者だから獄卒たちに気づかれずに侵入できるんだよ」

「さも当たり前って感じで言ってるけど、そこは全然当たり前じゃないから。それに、情報収集についてプロだって言うのは納得できるけど、亡者に協力させるってのはどうなの? まずくない? そもそも忍び込むことができるからって、いまこの時間になんで亡者がここにいるのよ」


 現在の時刻は午前九時。月に一度の休みの日でなければ、ヂゴクの亡者は刑に処せられている真っ只中な時間である。


「サボりでござる」

「学生気分かよニンザブロウ」


 気軽に言ってのけたニンザブロウに驚愕するライ。


「刑罰をそんな簡単にさぼっちゃ駄目でしょ、常識的に考えて。獄役三百年越えなら結構な悪人だし、刑罰は大人しく受けさせないとわたしたちが獄卒としてまずいでしょ。見つかったら雷落とされるぐらいじゃ済まないよ?」

「そこは安心するんだ、ライ。ニンザブロウの刑期は元々は四十年程度。悪人には違いないが、その三百年を超える刑期のほとんどは獄卒やエンマ様への攻撃によって加算されたものだ」

「それはそれでやばいやつじゃん」

「拙者、ヂゴクに参った当初はすわ反抗期かというレベルで獄卒たちを殺そうとしていたものでござる」


 ニンザブロウは回顧しながらしみじみと言う。


「反抗期と殺意をイコールでつなげるな」

「かくいう私も三度ほど標的になってな。つまり、ニンザブロウがその長い刑期のいくらかを刑罰を受けずに過ごしたとしても、それがだいたい三十年程に納まるものなら私が容認すればなにも問題はないということだ」


 コクエはコクエでふざけた理屈を展開する。サボりがノーカンになっても、エンマ宮への無断侵入はそれだけで刑期延長が確実な問題行動である。


「容認するっていうけど、その前にあんたはエンマ様を襲ったやつを目の前にしてて平気なの? 変な団の団長なんだから怒り狂いそうなもんなんだけど」

「そこは問題ないな。なにせニンザブロウはもう改心した。エンマ様はおろか獄卒や他の亡者に喧嘩を売ろうなんてことも考えやしない。それどころか、いまや『エンマ様崇拝団』への入団さえ考えているぐらいだ」

「拙者、考えを改めてござる。エンマ様を殺そうなどという愚かしい行為、ヂゴク歴が短かった拙者の大いなる過ちでござった。あんな美しく煌びやかで知的で武にも秀でたお方は他にいないでござるからな。このヂゴクのそこらで見かける薄汚い布きれを纏った女人どもと比べればそれはあまりにも自明。仕えるならあのような方がよかったでござるよ」

「亡者に対して酷い言い草だなニンザブロウ」

「亡者に対して酷かろうがエンマ様を崇拝しているのならそれでいい。『エン崇団』は間口を広く設けているからな」


 どんなに広かろうと誰も入りたがらないことが決定的な問題である。


「きみがどんな感想を抱こうが、ニンザブロウの能力は確かだ。こうして集められた情報を見ればそれは一目瞭然だろう」


 コクエは資料を数枚手に取り、掲げてみせる。そう言われたところでライはその資料に目を通そうという気はない。


「情報収集にあたり、出場者する亡者の周囲のものたちから彼らの性格や能力について聞きだすという手を取った。手法としてはぱっとしないし手間がかかるが、そんな地道な作業を繰り返してくれたことでこれだけのデータが集まるわけだ」

「現世で知り合いだった亡者がヂゴクで出会うことなど極々稀でござるから、基本的には出場者本人が過去に他人に話した内容であったりその伝聞を聴き集めることになるので誇張や不正確な部分もあるかもしれんでござるが、精度としてはそれが限界でござるな」

「それでも十分だ。いままでの担当者たちはそれさえ集めずに組み合わせを決めていたのがほとんどのはず。これに加え私がエンマ宮のデータベースから得たデータを使えば私は完璧な組み合わせを作り出すことができる」

「おおッ、さすがコクエ殿でござる!」


 ライと違ってニンザブロウはこの会議にノリノリな様子である。


「私は今日のこの日のためにウン年前から様々な世界で行われた武闘大会の記録や創作物でのトーナメント戦の描かれ方などを見てきたからな。そこで得た知識を総動員して、私は最高の組み合わせを見つけてみせる!」

「今日のためにわざわざ研究するとか、気の長い努力だねー」

「毎年々々、自分が担当者に選ばれなかったとわかる度に落ち込んでいたからな。去年のようにしょっぱい試合を見せられた日には、だったら私にやらせてくれ! という思いが弾けて衝動的にその獄卒を殴りに行ってしまったりもしたが――」

「去年の暴行事件の犯人はあんたかい」

「そんなこんなでやっと舞い降りたチャンスだ。準備はすでに整っている。この努力を実らせるため、あとは最善を尽くすのみ!」

「拙者も微力ながら助太刀するでござる!」

「ヂゴクトーナメントにこれだけやる気出してる連中を見るのは初めてだわ」


 とてもじゃないがついていけないという顔でライは言う。こんな会議を開くこと自体が初めてかもしれない。


「いままではあみだくじを作って適当に決めるとかだったし」

「そんなことをしてるから見るに堪えない試合ばかりになる。台本や演出なしだったらそうそう面白くて見ごたえのある試合なんて生まれないものだからな。面白いは作らねばならないのだ」

「そういえば、エンマ様もあんたも繰り返し言ってるけどその面白い試合っていうのがよくわからないんだよね。強いやつ同士が戦ってればいいとかそういう話?」

「それぞれの実力が高くなおかつそれが均衡していれば白熱するのは確かだが、そんな試合だけあればいいということもないし、第一この大会の出場者はある程度ランダムに選ばれているから実力的にはバラつきがある。どうしてもそれ以外の売りも必要になるだろう。これに関しては具体例を見た方がわかりやすいだろうし、実際に組み合わせを考えながら説明しよう」

「あ、別に説明はいらないや。さっさとふたりで決めてもらえばわたしは――」

「では、ライもやる気を出し始めたので早速会議を進めよう。まずは出場者の確認だな」


 コクエは資料に目をやり、そこに書かれた文章を読み上げ始める。コクエたちとライの温度差はそのままに、会議は無理矢理開始されたのだった。






「――エントリーナンバー一、復讐の魔剣士ギガ。とある国の王子として生まれたが、母親の胎内にいた時に敵国の魔術師から呪いを受け体に魔剣を宿している悲運の青年。魔剣は宿主の周囲の生物から精気を吸い取る力を持っており、そのせいで幼い頃から王や王女、その周囲の人間たちは病に倒れることも多く中には死に至る者もいた。そんな魔剣の呪いを打ち砕くために彼は剣の修業を始め魔剣を意のままに操る力を手に入れる。成人したのちに王宮の兵士たちと敵国へと侵攻し、魔剣の持つ力も駆使して敵軍を壊滅させ王を討ち取ることに成功する。しかし、その際に件の魔術師から奇襲を受け、命を落とす。獄刑は二百二十年」


「美しい銀髪に精悍な顔立ちと、まさに王子然とした青年でござるな。ヂゴクでの姿はそれ相応にみすぼらしいものでござるが」


 資料に載っている写真を覗き込み、ニンザブロウが言う。


「いかにも正統派剣士といったところだが、魔剣には魔力を衝撃波として放出するという攻撃方法もあるようだ。ただの剣士だと思うと足元を掬われるな」

「魔剣とは、いかにも厄介そうな得物でござるなあ。拙者も生前、妖刀と呼ばれるものを見たことがござったが、いかにも怪しい空気を纏っていてなんとも言えない不気味さがあるものでざる」

「若いながらも剣技の腕も確からしい。有力選手だな。――まあ、詳しい話は後だ。まずは取りあえず全員分ざっと読みあげるぞ」


 そう言って、コクエは次の資料を捲る。


「――エントリーナンバー二、隠遁の魔術創造者ヘルセル。火や水を生成する攻撃用魔術と僅かな治癒用魔術が編み出されたとある世界のとある時代に生を受けた魔術師。その世界の多くの若者と同じように魔術師を志していたが、不運にも彼には攻撃用魔術の才能がまったくなかった。他の魔術師志願者たちが攻撃魔術を会得していく中、彼は嫉妬と身勝手な憎しみを糧に自分にも使用可能な魔術を自ら編み出すことに心血を注ぎ、そして成功する。対象の石化、麻痺、心理操作、五感操作等、相手に災厄を与えるそれらの魔術を彼は障魔術と名づけた。使用方法によっては攻撃用魔術よりも強力な障魔術は裏社会の人間に求められ、彼はその力を必要とされるままに使いその報酬によってまた新たな魔術を編み出す研究を行った。晩年は己のみしか扱えぬ究極の魔術を作るためにその時間を費やし、死を迎える一年ほど前に遂にその魔術を手にする。死因は老衰。獄役は四百八十年」


「ローブ姿で長い髭をたくわえた老人。いかにも老魔術師という感じでござるな」

「獄役がさっきの魔剣士くんの二倍以上ってすごいね。寿命が長かったから?」

「人を殺したり殺す手伝いをしたりして生きていたらこんなものだろう。若い頃に自分が劣等感を感じていた相手を老いてから殺したこともあるようだしな。おまけに、晩年は自分の作った魔術の使用方法を他の魔術師に伝授して金をとっていた。それでまた獄役が加算されている。そのせいで死んだ人間も多いだろうからな」


「しかし、ふたりとも不運だったり復讐したりで似てござるなあ」

「ヂゴクに来るようなやつの経歴ではよく見る単語だ。そんなに珍しいものでもないさ。じゃあ次。――エントリーナンバー三、野生の豪腕ドドンガ。とある部族に生まれた通称〝神の子〟。満十歳ほどで成人男性と同等の体格とそれ以上の身体能力を持ち、狩りや他部族との闘争において獅子奮迅の活躍を見せる。武器を初めとして道具の扱いはからきしだが部族の者からは神の子と讃えられ、部族長に命じられるまま他部族を襲い強奪を繰り返すことで信頼を得ていた。そんな生活を続けていたが、十九の年に狩りに赴いた先で大型の獣に出会い死闘ののちに殺される。獄役は七十三年」


「筋骨隆々な体は凄いでござるが、ほぼ全裸なのはどうかと思うでござる。髭も生えて髪も振り乱していて、これ拙者のいた国だったら即刻罪人扱いでござるよ」

「ニンザブロウのいた現世はずいぶん怖いね」


「――エントリーナンバー四。侵略する舞闘家アイン。とある秘密機関に属する諜報員兼暗殺者。猫の遺伝子を持ついわゆる獣人。物心がついた頃から秘密機関にて訓練を受けていて、他人の心に侵入するのが得意であり要人に直接接触しての情報収集及び殺害を主な任務とする。殺害方法には暗器を用いることが多いが、肉弾戦での戦闘能力自体も高く舞の動きを取り入れた格闘術を用いるのが特徴。ある任務にて暗殺対象の要人に正体がばれ、その場で対象の手によって殺される。獄役は百九十年」


「ドレス姿が華やかな美女でござるな。猫の耳と尻尾が生えているのも可愛らしくてよいでござる」

「なんの感想よニンザブロウ」

「ただ、ヂゴクにいる姿はやはり亡者らしくみすぼらしいもので、とても見れたものではないでござるな」

「一転辛口だね」


「エントリーナンバー五、仙森の守護者虎王。仙人が住まうと言われる山の麓にある森を守護する白虎。仙人によって生み出された獣で人間を丸呑みできるほどの巨躯を持ち、山や森に迷い込んだ人間を容赦なく喰い殺す。ただの化物ではなく不思議な力を持っているらしいが、エンマ宮の調査部で確認できた範囲では特殊な能力はなし。現世での使用例も見られなかった。何百何千という人間を喰らい続けたが、他山より訪れた三人の仙人に襲いかかった際に返り討ちに合い死亡。獄役二百年」


「生で見たらビビるくらいにデカい虎でござる。ちなみに、人語は解するものの話すことはできないようでござるな」


 この第十四ヂゴクに来る亡者の条件には人語を解するというものがあるため、亡者の中にいる獣や昆虫、魚はすべてその条件をクリアしているのである。


「エントリーナンバー六、暴虐の王ブロアン。数千年以上の歴史を持ち多数の兵を有する戦闘国家の王。王国建立より続く世襲により王となった男であり、歴代随一の戦闘狂。他国への侵略という行為を快楽とし、時には自身も剣と盾を身につけ前線へと赴く。国家間の戦いにおいては連戦連勝だったが、国内において反乱が勃発。反乱軍との戦闘にさえ嬉々として臨み、刃を向ける国民を切り捨てることに一切の躊躇はなかった。しかしその反乱鎮圧の隙に連合した敵国からの攻撃を受け戦場にて虐殺される。獄役は六百六十年」


「顔つきからしていかにも業突く張りで横暴な国王といった感じでござるな。人生も半分を過ぎた中年の割に目だけは獣のように異様にぎらついてござる」

「獄役五百年越えってやばいよね。ろくなもんじゃないでしょ」

「自分の国も他人の国も滅ぼしているからな。悪人殺しでマイナス補正が入ってもこれだ。さすがは権力者といったところだな」

「こういった主に仕えるのは当たり外れが多そうで怖いでござるな。とんでもない無茶を言われそうで」


「次。――エントリーナンバー七、正義執行サイボーグクリスト。とある世界の治安維持部隊に所属していた正義と平和を愛する男。特に優秀というわけでもない平部隊員に過ぎなかったが、政府による特殊治安維持官育成実験に志願したことで体に機械を埋め込まれたサイボーグとなる。生身の肉体を犠牲にして得た機械の体は人間を超えた兵器としての戦闘能力を彼に与え、世に蔓延る悪を完全に消し去ることを可能にした。しかし彼の力は権力者たちの思惑により私的に運用され始め、政敵や反乱分子と判断された一般市民に向けられることを強いられる。そんな自分の力の使い方に疑問を覚えた彼は、治安維持部隊を初めとした公的機関、権力に存在する悪心を憎むようになり、自身の力を彼らへと向けることを決意した。彼は古巣である治安維持部隊や実験に携わった研究所の職員等を皆殺しにし、そして政府の人間たちを殺しに向かっている所で別の特殊治安維持官たちに阻まれ惨殺される。獄役は二百十年」


「部隊の制服をきっちり着こなしていて、眼鏡をかけた真面目そうな顔。外見では戦闘用のサイボーグではなくお堅い公務員にしか見えないでござるな」

「機械の体とかいかにも強そうだね」

「拙者のいた世界のカラクリ兵とは格が違うでござろうな。どんな兵器を持っているやら、これまた恐ろしいでござるよ」

「――以上七人。この連中と私とでトーナメント戦を行うことになるわけだ」


「コクエは初戦で負けそうだよね」


 いきなりライがそんなことを言う。


「後ろ向きな発言をするのは良くないぞ、ライ」

「いまざっと聞いただけでもやばそうなやつがごろごろいたし、コクエじゃ勝てないでしょ」

「確かにそうでござるな」

「ニンザブロウも同意するな。これはトーナメント戦だ。一対一で戦い、勝った方がまた別の勝った者と戦うという勝ち抜き方式。このヂゴクトーナメントでは試合中に選手が死んでも獄刑に処された時同様にその後復活するが、死なない限りは体力や怪我が回復することはない。つまり全員と戦って勝つ必要はないし私が戦う相手が全力を出せる状況だとも限らないというわけだ。そうであれば、私が優勝する可能性はいくらでもある」

「いくらでもはないでしょ」

「いくらでも、とはちょっと言い過ぎでござるな」

「急に辛辣だぞきみたち。少しは私を応援する立場に立とうとは思わないのか?」

「単なる事実だってば。実際、あんたが正々堂々正面切って戦って勝てる相手はどれ? 何人ぐらいいるの?」


 ライは椅子を引いて机に近づき、出場者たちの資料を眺める。復讐の魔剣士ギガ、隠遁の魔術創造者ヘルセル、野生の豪腕ドドンガ、侵略する舞闘家アイン、深き森の守護者虎王、暴虐の王ブロアン、正義執行サイボーグクリスト。ライは順繰りに見たあと、どれ? とコクエに視線を向ける。

 コクエはライの持つ資料にすっと手を伸ばし、二枚を選び抜き取った。


「この野生児と、舞闘家だな。…………かろうじて」


 野生の豪腕ドドンガと侵略する舞闘家アイン。


「弱ッ!」

「失礼な物言いだな、ライ。私は特に戦闘能力に秀でた獄卒でもないのだから仕方がないだろう。執務室でのエンマ様との会話の通り私がこのメンバーの中で弱い部類に入るのはとっくにわかっているんだ。重要なのはそのうえでどういった組み合わせにするか、だ。それ次第で私は他の五人にも勝てるのだからな」

「八人でのトーナメントということは優勝まで戦わねばならない相手は三人のみでござる。戦う相手をそれまでの試合でいかに消耗させるかがポイントでござるな。これは一種のパズルとも言えるでござる」

「パズルって……。単純に、弱いほうから数えた三人とコクエがAブロックで強い方四人がBブロックとかでいいんじゃないの? そうすれば強いの同士で戦って決勝に上がるまでに怪我したり疲れたりして少しは弱くなってるでしょ?」


 ライは簡単にそう言ってのけたが、コクエはそれでは納得しない。


「そんな適当なものでいいわけがあるか。それだとAブロックの方がBブロックと比べて盛り上がりに欠けてしまう。それにトーナメント戦では強い者同士が初戦であたるのはご法度だ。その試合自体は盛り上がるには盛り上がるが、その一方でそれより圧倒的に弱いものが勝ち上がったりしてしまえば反感を買うことだってある。なぜあの実力者が脱落したのにあんな弱いやつが残るのか、とな。そういった不満を避けるためには、きみが言ったやり方は却下だ」

「めんどいなー」

「顔をしかめるな。こういうのは、えいやッと決めてはいかん。順を追ってしっかり熟考して考えるのが唯一正解に辿りつける道だ」

「では、まずはなにから考えるでござるか?」

「私は昨日までのうちにニンザブロウからデータを得て自分なりに素案を考えていた。完成には程遠いかもしれないが、まずはそれを披露してふたりの意見を聞きたい」

「つまり叩き台でござるな」

「わたしもうかなりやる気がないんだけど。いや、もとからないんだけどさ」


「ではここから改めて……ヂゴクトーナメント組み合わせ会議を開始しよう」

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