第77話 体調を治そうと寝すぎると体調崩す

 いろいろあった昨日から1日経った今日。


 ボクはリハビリも兼ねて外を…町中を歩いている。


 護衛もかねてアルもいっしょ。


 こういう経験が大分長い期間無かったから知らなかったけど不老不死でもずっと寝ていると身体の調子が悪くなるみたい。


 相変わらず大きくなった胸と小さくなった身長で少しバランス感覚が悪いけど転倒するほどではない。


 ただ以前よりも髪がふわふわになったせいか少し風に揺らされやすいのがちょっと困りもの。


 それら以外は大して僕からすれば変わりない。


 …しかし受け取る側はそうでもないようで…。


 ―挨拶1 肉屋のおばちゃん


「あらティオちゃん元気になったのねぇよかったわ~。…ところですこし縮んだ?それに…立派になっちゃってまぁ…。男の視線に気を付けるのよ?」



 ―挨拶2 装飾屋さんのスクリエ


「元気そうで何よりだわ。…なんか可愛くなったかしら?今ならそこの奥さんと一緒に可愛いネックレスとかいいかもしれないわね」 


 ―挨拶3 八百屋のおじさん


「おーティオちゃん!元気になったんだなぁ!……何っていうか小さくなったか?…いやでも…(チラッ)爆盛り…あっ…いやっ違っ…待って!許してぇぇぇぇっー!」


 こうやっていつも会う人たちからすれば一目瞭然らしい。


 何なら八百屋のおじさんなんて途中でボクの胸を凝視した結果、般若の面相になったい奥さんに店の奥へと連行された。


 …その後…?…さぁ?ボクには肉を殴る殴打音しか聞こえなかったよ。


 ついでに悲鳴も。


 話した感じだと総合すると胸以外は「イメチェンした?」くらいの感じである。


 リハビリ兼、生存報告を完了した僕は買い物袋を片手に帰路につきながらアルと会話中。


「この感じなら誰かわからなくなる…ということはなさそう」


「そうですね。少し変化こそありましたが外見が一致しないというほどではないので…。どちらかというと服装の方が変化は大きいかもです」


「ボク的にはみんな可愛いって言ってきて困るけど」


「身長も下がって目元も少し丸くなったのでそのせいで可愛く見えるというのは私にも分かります」


「声も変わったんだけどなぁ」


「以前の声よりも甘い感じがして私は好きですよ」


「…う~…まぁ言っても仕方ないけど…」


 とぼとぼと肩を落として歩く僕の隣で終始笑顔で付いてきているアルに感謝しつつ家の前まで辿り着く。


 脇の方では子供たちと一緒に洗濯物をしているメイドラゴン2人。


 実は今日から家事に復帰しようと思っていたのだが、


『病み上がりは危ないの!』


『四肢爆散なのです!(?)』


『私達がやっておくからお母様はゆっくりしてて!』


 うちの子達が気を使ってくれたので手空きになり、こうして夫婦でゆったりと散歩をしているのである。


 楽しそうにこちらに手を振る子供たちに手を振り返していると開いている方の手をアルが包む。


「体調の方は大丈夫ですか?」


「まだちょっと歩きづらいけど…体は大丈夫だと思う」


「ならよかったです」


「ありがとう、今日はこのままゆったりと…」


「お茶でもして過ごそう」というとしたそのとき、何やら町の方が騒がしいことに気が付く。


 ボクはあんまり聞こえなかったが耳を澄ませたあるがどうやら聞き取ったらしい。


「…どうやらこっちにドラゴンが飛んできているようですよ?」


「あードラゴンねぇ…ってことは…?」


 ゆっくりと横を向くと予想通り瞳を輝かせたアジダハがボクの隣に立っている。


「ついに来たのじゃ…この時が…」


「最近、襲来を喜んでるよね」


「かかかっまずは面接じゃ」


「採用試験かな?」


「完全にメイドの補充ですね‥‥」


 小躍りしそうなアジダハが跳ねている間に向こうの空にドラゴンの姿が見えてきた。


 それに反応して空へと目を凝らすアジダハ。


「さぁて、今回は誰じゃろうのぉ。ゼニスの次に優秀な者が来たじゃろうからの。炎龍か、はたまた風竜か……ん?」


 先程までテンションの高かったアジダハが急に「スンッ」と落ち着く…いや、落ち着くというよりは困惑している。


 自身の見えている物に自信が持てないのか、はたまた来るものが信じられないのか目をぱちくりぱちくり。


「……ん~?おかしいのう…耄碌したか…氷竜が見えるぞ…?」


 何やらアジダハの様子がおかしいがそんなこんなしているうちにその氷竜が正面の上空まで辿り着いた。


 まさしく氷竜の名にふさわしい雪色の鱗に太陽の光を反射させて空に浮いているドラゴン。


 いつも通り「アジダハ覚悟!」的なノリを来ると思い待機していたが…おや何やら動かない氷竜さん。


「………………」


「………………」


 沈黙から数分。


 未だあちらに動きなし。


 するとアジダハが隣で盛大なため息を吐いた。


「…それはそうであろうよ」


「アジダハ?」


「主よ、さっさとトドメを……いや、出来るだけ優しく落としてやってくれ」


「?…わ、分かった」


 いまいち理解できないがどうやら倒してしまっていいらしい。


 さっさと終わらせようと竜対抗魔法を小規模で発動しようとして…失敗した。


「…えっと…『龍封世界アンチ・ドラグワールド』…かな?」


 目の前の竜へと放とうとした魔術は代わりに世界に広がった。


 どうやら魔力量を込め過ぎたようだ。


 発動した魔術により世界中のドラゴンが無力化される。


 空にいた氷竜も当然地に落ちて土埃をあげており、ボクの隣と背後ではアジダハとゼニスが倒れている。


「…主ぃ…にゃにをするのじゃぁ…」


「いや、今気づいたんだけど…魔力の総量が大分増えているみたいで…加減を間違えちゃったみたい…えへへ」


 体の力が抜けて倒れているアジダハ達。


 魔術を解けばすぐ元に戻るだろうから少しだけ待っていて欲しい。


 ささっと地面に落ちた氷竜の元へといき声をかける。


「えっとボクの勝ちでいい?」


「むにゃ…参ったご主人様に従う」


「アッハイ」


 こうして何故か眠そうな氷竜さんが新たなうちのメイド候補に加わった。

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