第75話 目が覚めたら…身体が縮んでいた!?

 ――とある日の夢。


 まだ幼い頃の僕は母に抱き着き泣いている。


「あらあら~どうしたのかしら?」


「みんなが僕のこと『女の子』みたいって馬鹿にするの」


「あら」


 母の胸の下にひしりと抱き着いている僕の頭を母が優しく撫でた。


「仕方ないわぁ、ティオは女の子より可愛いもの~」


「お母さん僕男…」


「こうなったらこの可愛いフリフリのドレスを着て対抗するしかないわね~」


「お母さんそれ女の子用…」


 …この後結局僕はお母さんにフリフリのドレスを無理やり着せられた。


 今思えば母はそもそも僕のことを男の子扱いしていなかったような…。


 ―—夢の中の僕が母にドレスを着せられたまま抱きしめられているところで夢は終わりを迎えた。




 ◆●◆●◆●◆●◆




 瞼越しに明るい光を感じ取り、は瞳をゆっくりと開いていく。


 欠伸が出かけて止まり、少し微妙な感覚に眉をひそめながら布団をあげて起き上がり、気が付く。


「……あれ?なんでボク裸なんだろう?」


 さっぱり思い当たる節がないので寝ぼけている頭をフル回転させて思い出しを図る。


 …が、残念ながら思い出せることが何一つに無い。


 なんならいつ寝たかも思い出せない。


 ボクが「う~ん」と頭を押さえながら唸っていると寝室の扉が開け放たれた。


 そこには盆に水の入ったコップを持ったアジダハが立っている。


「おはよアジダハ」


「ほあっ!?…っと!」


 突然声をかけられて奇声を上げ盆からコップを落としそうになったアジダハ。


 幸い優れた反応速度で即座に盆の上にコップを戻したけど。


 しかしやることを終えると驚きの表情でこちらに声をかけてきた。


「主!目を覚ましたのじゃな!」


「…え?うん?おはよう?」


 何故か大仰に話すアジダハ。


 その大きな声は聞こえたのか寝室の外から「ドタバタ」とこちらに走ってくる音が聞こえてきた。


「お母さん!」「母上!」「母様!」「ティオさん!」


 部屋に飛び込んできた4人がボクが裸なのも構わず抱き着いてくる。


 4人とも夢中でボクに抱き着いているので何を言うわけでもないが、少なくとも何か心配をかけたのは何となく伝わった。


 不意に夢の中の母を思い出した僕は抱き着いている4人の頭をゆっくりと撫でていくのだった。



 ――それから少し。



 4人が落ち着いたところを見計らって何が起きたのかを尋ねてみる。


 すると驚いたことにボクは突然倒れて2週間近く寝ていたらしい。


 確かにずっと寝た後みたいに体がだるいしあまり本調子な感じがしないが、まさかそんな大ごとになっていたとは…。


 どうやらいろいろ眠っている間にボクを助けようとしてくれた人たちがいるらしい。


 そして一番尽力してくれたのはあのヘルミナーリャとのことで。


 いきなりすぎて驚きで理解が追いつかないが、とりあえず今は長い間眠っていたことで鈍っている体が回復するまで一旦置いておこう。


 回復したら魔塔を尋ねるように言っていたらしいし、そのときに考えることにしよう。


「みんな、ボクが眠っている間傍にいてくれてありがと」


「「「ずっと一緒!」」」


「メイドの役目よの」


「家族ですから」


「主の留守を守るのも務めだ」


 自分の不在をしっかりと力になってくれる本当の家族が居る。


 ずっと前に無くしたものが傍に在ってくれるのを嬉しく思い立ち上がろうとして、とあることに気が付く。


 体が重い。


 いや病気で起き上がるのが辛いとか、ずっと寝ていたから体が鈍っているんじゃない。


 シンプルに体が前に付いた重りか何かに引っ張られているような…。


 思わず視線を落とす。


 そこには裸のボクの胸が見えた。


 ……なんか前に見た時と違う気がする。


 まだ裸なので布団を体に巻いて起き上がる。


「…ねぇみんな、何か変わっているところないかな?」


 何となく気が付いているけど念のために確認する。


「うむ、そうじゃな…乳房が以前よりも一回り大きくなっておるな」


「お母さん身長下がった?」


「母様、声が前より高くなったわ。女の子っぽくなった」


「口調も少し変わっているのです!」


「あとは…布団で見えにくいですが多分以前よりも髪が伸びてふわふわになってますね」


 指摘内容がボクの予想以上に多かったので部屋の隅にあった姿見の前まで布団を引き摺りながら歩いていく。


 鏡に映ったボクはみんなが指摘した内容を改めて確認する。


 何やらすこし縮んだ身長、少し伸びたまつ毛に丸くなった瞳、サラサラなのは以前と変わりないが長くなり少しふわっと軽くなっている髪、そして母を思い出してしまうほど大きくなっている胸。


「あーあー」と声を出してみると、声が自然に高くなっている。


 以前の声なら頑張れば男と言えたかもしれないが、もはやこれは完全に女の子の声だ。


「…なにこれぇ~?」



 ―――いろいろ脳の処理が追いつかない結果、姿見の前でボクは完全に思考停止するのだった。

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