第74話 他所の言葉ってよく誤解されるよね
異世界転移。
この現象ではよく本来の能力に加えて新たな力などが付与される。
もっともティオ達の世界では転移してくる人間にこれといった能力は与えられないのだが。
その代わりと言っては何だが異世界人から伝えられる言葉、それをもとに再現された技術に謎の力が宿ることはある。
例えば「乾布摩擦」から産まれた「完封抹殺」という暗殺技術。
原理は不明だが『冬の日に風邪をひいている人間をタオルで殺すことが出来る』というトンデモである。
なお、なぜか対象は裸でないと致死に至らないという現象も確認されている。
布一枚でも体に引っ付いていれば役に立たないので実用性は皆無。
例えば「饅頭怖い」から産まれた『万獣後輩』という飼育技術。
動物に囲まれた状態で「怖い」と言い続けると獣に好かれやすくなるらしい。
まるで後輩になったように親しくしてくれるが条件が曖昧なので、どうすればこの力が発動するのかははっきりとは判明していない。
このようにして他世界の人間がもたらした言葉は謎の技術に昇華されているのであった。
――そして今現在。
ティオの家でも他世界から得た技術が有効活用されていた。
子供達3人が転移門へと入り込んだ後の家では…
「マックノーチ!マックノーチ!」
「うっ!ぐはっ!うっ!ぐはっ!」
「打つべし!打つべしじゃ!」
樽に足を突っ込み固定されているルクスが、可笑しな言葉を口にしているアルに殴られ続けている。
…実は子供たちが門の中へと消えていった十数分後、目当ての本を探すことに成功した4人が家に帰ってきたのだ。
しかしそこには変な空間の門と姿の消えた子供達。
唯一部屋に残って暇そうにしていたルクスに子供たちの行方を尋ねてみると…。
「それなら私の開いた転移門で秘薬の材料集めにダンジョンに入っていったよ!」
この返答である。
大変怒ったアジダハとアルが子供たちが無事に帰ってくるまで殴り続ける拷問をすることに。
殴り続けることで威力が上がる謎の異世界呪文「マックノーチ」でボコボコに殴り続けるアル。
一応死んでしまわないように樽には風呂場から持ってこられたエリクサーがいっぱい入っているので殴られた怪我は瞬時に回復している。
「子供達だけで危険なところに行かせてどうするんですかー!」
「怪我でもしておったら主にどう説明するつもりじゃ!この!この!」
「善かれと思って!善かれと思って!」
この状態で既に30分経過。
いろいろどうしようもない状況なので椅子に座って借りた茶器でお茶を飲んでいるヘルミナーリャとレイディアンナ。
と、そのとき3つの門から元気な声が飛び出してきた。
「ただいま!」
「戻ったわ!」
「こん!」
丁度子供達3人が無事の帰還を果たした。
「お薬とって来たよ!」
「私も!」
「拙もなのです!」
元気にそれぞれの色の霊薬の素を差し出す子供達。
この後、腕を組んだアジダハとアルに褒められた後、危ない場所に勝手に行ったことに対する説教を受けたのだった。
◆●◆●◆●◆●◆
こうして無事に淫魔族の秘薬「霊薬アムリタ」の材料を集め終えた面々。
その霊薬をどうやって作るかを話し合っていた。
そも魔塔の本には存在が仄めかされていただけだったので霊薬の作り方は載っていない。
かといって貴重な薬を憶測で使うわけにもいかない。
全員で唸っていたそのとき、樽からようやく解放されたルクスが挙手する。
「はいはーい!霊薬なら作れるよ!」
「ええ…?ホントぉ…?」
「ずっごい信頼の無さを感じる!」
「ついさっきやらかしたばっかりじゃろが」
「それは助かるけれど…どうしてわかるの?」
ヘルミナーリャにそう尋ねられ真剣な表情を垣間見せるルクスが顎に手を当てた。
「それは…」
「それは…?」
「実は服を作るのと同じ要領で作れるのよ!」
「お主今適当に考えたじゃろ」
「うん」
「スンッ」と落ち着いた表情でアジダハに答えたルクスはティオの研究室から実験器具を持ってきてその中に3つの薬を注いでいく。
そのビーカーの中に自身の魔力を混ぜ合わせながら、少しずつ薬の量を調節して注いでいく。
そうして製薬することしばらく。
ビーカーの中に輝く水色の半透明な液体が出来上がっていた。
「はい、これがアムリタだよ~。これを寝てるティオに飲ませればOK。時間が経ったらこの薬は自然消滅するから全部飲ませていいよ」
「普通に調合したのぅ。混ぜればよかったのか?」
「んにゃ、特定の人物の血が必要だったり配合を正確に覚えていないと完成しないから」
「…何故作れた」
「ん~?人生経験?」
納得のいく返答は特になかったが何とか無事に霊薬が完成。
この後、眠っているティオの口にゆっくりと流し込み飲ませることに無事成功した。
「数日もすれば薬の効果で魂と体の調整が済むと思う」
「後遺症とか副作用とかないのかしら?」
「副作用はないわ。ただ…そうね~…この霊薬を使う必要があったってことは身体と魂のバランスが崩れていたってことだから調整されることで少しティオに変化が起こるかも」
「変化?」
既に薬を飲ませた後なので少し不安そうな皆を見て、慌てて否定するルクス。
「あーダイジョブダイジョブ!別におかしくなるとか他人になるとかそんなんじゃなくて。微調節?体が魂に比例して大きくなったり小さくなったり、体に魂が引っ張られて男らしくなったり女らしくなったりとか、その程度よ」
「まぁその程度なら…背に腹は代えられないし。それじゃあティオの治療も済んだし私たちは帰るわ」
そう言って玄関へと向かう魔塔組。
「む?起きるまで待たぬのか?」
「起きた直後に私が居たらいろいろ問題があるでしょ」
「私としてはティオとお話ししたいけど…研究の途中だったから帰らないと。元気になったらティオと一緒に魔塔に遊びに来てくれると嬉しいわぁ」
そう言った2人は子供たちに見送られて魔塔へと帰っていったのだった。
それから2日後、無事ティオは目を覚ましたのであった。
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