第72話 青い神だって
ここは転移門を越えた先の一つ「青の試練」の空中遺跡。
天空に浮かぶ空の島々。
雲の上の世界から見ろ降ろす場所は大地が見えていない。
故にこの試練を受けるものは空を飛ぶ必要があると言えるだろう。
幸いにもここに入ったのは転移門と同じ髪色だったエミリア。
彼女はもともと自前の翼をもっているので飛ぶことに関しては問題はない。
しかし彼女も森を歩いていたティアと同じくその空間に元から存在していた神に話しかけられていた。
「…ふ~んだ!あなたが神だなんて下手な冗談だわ!どう見ても腐って欠けた飴玉じゃない!」
『ほほ~う…余に対してそのような暴言を吐いた人間はかつていなかったぞ。あと欠けた飴玉ではない、勾玉だ。余の神器を侮辱するとは死にたいのか貴様』
「やれるもんならやってみなさいよ!こっちは神から産まれた大魔導師の娘なんだから!似非神なんて怖くないわ!」
『こやつ…』
話しかけられてはいるのだがすぐにこの様子である。
どちらも気位が高いらしく既に喧嘩気味だ。
しかしもともとの役割がある神側が先に我を曲げて本題に入った。
『ちっ…小生意気な娘よな。まぁ良い黄泉の神たる余が尊大な態度で許してやろう。…で、小娘よ、そのお偉い大魔導師の娘がこのような場所に何の用だ』
「…そうよ、あんたなんかの相手なんてしてられないわ。早く薬を探さないと」
『む?そなた薬を探しているのか?』
「そうだけど…あっ!あんたもしかして知っているの!?」
『知っていると言えば知っておる。余はその薬を管理するためにここにおるのだからな』
「じゃあ薬寄越しなさいよ!」
『ド直球か。まぁ余の質問に正直に答えたならよいぞ』
「じゃあさっさと質問しなさいよ!」
『こやつ…』
食い気味の無礼に若干姿のない神の眉間がピクピクしているのを感じられる。
だがここは年の功で自身を落ち着けた神は改めて質問をした。
『では質問をしよう。何故お前は秘薬を求めるのだ?』
「そんなの決まっているでしょ!お母様のためよ!」
『ほう、母の…』
「…お母様が病気で目を覚まさないの。お母様にいつもたくさん大切にしてもらっているから…だから私が助けないといけないの」
『そなたでなくとも慕っている周りの人間どもがおるのではないか?』
「ふんだ!私はお母様の娘だもの…他人任せにはできない。それに妹たちも頑張っているもの。高貴なる私がさぼっているわけにはいかないわ」
『…ふん、気位に適する責任は持っているようだな。ならばよかろう秘薬のあるところまで案内してやろう』
そう言った神が自身の宿った翡翠色の勾玉をエミリアの身体に潜り込ませる。
「あっ!ばっちい!」
『やかましいわ!案内ついでにそなたに我が雷の力を貸してやろう』
「そんなの必要?」
『向こうを見るがよい』
「……ん~?なんかいっぱい飛んでくる」
『薬を守る魔物どもだ。丁度あちらが薬のある方向になる。薬を手に入れるにはあの中を突破するしかないぞ……それ!』
眩い雷の光に体を包まれた後、エミリアの身体に異変が生じる。
その身体が成長した少女のものへと変貌していたのだ。
自慢の群青色の髪は膝裏まで伸び、小ぶりだった身長は少し高く、胸も年相応に膨らんでいる。
恰好は身体に合わせられたサイズの蒼と白の巫女服だ。
「…おっきくなった!」
『力を使うのに適した年齢に一時的に変化したのだ。あとで元に戻るから気にするな…』
「……むー…」
話途中に何やら不機嫌に胸元を押さえて持ち上げているエミリアに神が気が付く。
『何をしている?』
「…少し大きくなったけどお母様より小さい…」
『ただ身体を成長させただけだからその大きさはそなたの将来だぞ?』
「…うぅ、帰ったら牛乳飲まないと…」
『別に無理に大きくせんでもよかろうに。戦いだが…余も手伝うてやろうか?』
「ふんだ!必要ないわ!何となく使い方わかるもの!」
気合の入った返事と共に全身から青い雷を放つエミリアが翼を仰ぎ、宙から神の剣を召喚する。
そして体の中から現れた翡翠色の勾玉が彼女の背に円形に回転する。
「恐れ、仰ぎ、平伏しなさい!主の恩寵たる聖なる
彼女の意思に従い勾玉が自由自在に動いて空を舞い、鋭い雷を放つ。
そして黒焦げた鳥の魔物をエミリアは斬り裂きながら空を進んでいった。
「…そうだ」
『…?なんだ?』
「手伝ってくれて…ありがと」
『…うむ』
飛んでくる魔物を消し飛ばしながらエミリアは薬のある遺跡を目指し羽ばたくのだった。
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