第71話 赤色の神さま?

 転移門を通り抜けたティアが足を踏み入れたのは木々の生い茂る森の中。


「…あっちかな?」


 特に道しるべがあったわけではないが唯一何も生えておらず歩けそうな道をタッタッタと駆けていくティア。


 元々同族たちに虐められていたため、あまり彼女は森が好きでは無かったが今は無心に走り続けている。


 今の彼女にとって同族よりも母が眠ったままということの方が怖いのだろう。


「うー…お薬~………あれ?」


 キョロキョロと薬を探しながら走っていたティアの視界に古びた社が目に入る。


 社と言っても長い年月経て朽ち果てて辛うじてその形を保っている崩れかけの代物だが。


「なんだろ?」と足を止めてその社へとティアが近づいたそのとき、暖かな光と共に彼女の脳裏に声が響いた。


『ふむ、放置されること早数百年。久しぶりに試練を受けるものが訪れたかと思ったが…子供とな?』


「…幽霊さん?」


『違う、私は神だ』


「神さまおばけ?」


『…まぁそれでよい。ところで幼子よ、何故ここに訪れた?迷子か?』


「(ふるふる)ちがうの、お薬探してるの」


『む?そうか、霊薬を探しているのであれば試練を与えねばならないな』


「れーやく?」


『あー…薬のことだ』


「何かしないといけないの?」


『簡単な質問をしてわたしからOKが出れば薬のあるところを教えてやるぞ』


「…じゃあ質問?おねがい」


 姿かたちは見えず声だけの神が咳払いをしたことを感じるティア。


 そしてほんの少し力の入った口調で自称神が話し出す。


『では答えよ。お前は何のために霊薬を求めるのだ』


「えっとね、大好きなお母さんが病気で目が覚めないの。だからお薬が欲しいの」


 ティアの話を聴いて何やら「うむうむ」と何となく頷いている雰囲気が神から伝わってくる。


 どうやら自称神様は感極まっているようだ。


『近頃の若者にしては殊勝な心掛けだ。嘘をついていないのも分かる。よかろう、霊薬の片割れはこの道の先の奥にある試練を越えたお主なら進めるようになっているだろう。魔物はいるがな』


「うー…私戦ったことない…」


『心配するでない。この太陽神が一緒についていこう』


 そう神が口走った直後ボロボロだった社が崩れその中から土埃だらけの鏡が宙を浮いてティアの元へと飛んでいく。


 その鏡を受け取ったティアはそれが何か理解できず首を傾げる。


「…まっくろなお盆?」


『私の神鏡だ。力を貸してやろう…それ!』


 突然光に体を包まれたティアが目を開けるそこには紅白の巫女装束に身を包んだ自身の姿があった。


 しかも幼かった容姿も若干の成長を遂げ幼女から少女くらいの年齢に変化している。


 そして一番目立つのが彼女の周りを浮遊しているいくつもの金縁の鏡。


 くるくるとティアを守る様に周囲を飛んでいる。


「…わぁ!大きくなった!」


『私の力を使うのに合わせて体が若干成長したようだな。安心しろ後で元に戻る』


「…むぅ~?」


 大きくなった体を見て何やら唸るティア。


 それに気が付いた神が話しかける。


『どこか気に入らないのか?』


「…お胸がお母さんより小さい」


『…その容姿だとまだ大きい方だが…多分母親が大きすぎるだけだ。気にするな』


 ティオとお揃いではない胸の旨をティアがツンツンしていたそのとき、進行方向の奥から獣の声が響く。


 その声に少し遅れて木々の間から数十の狼や虎の魔物が現れた。


「狼さんいっぱい」


『丁度いいな。周辺にいた魔物たちが集まっている。纏めて薙ぎ払うぞ、いいな?』


「どうすればいいの?」


『私の声に合わせて祝詞を唱えるんだ。いくぞ』


 胸に手を合わせ瞳を閉じたティアの身体が宙に浮いていく。


 鏡からは眩い光が放たれその光は散ることなくティアの周囲を等速運動しながら集まる。


 そして光がティアの身体に溶け込んでいくとともにティアの容姿が更に変化し、光を跳ね返していた金髪が燃えるような光を纏って桃色の髪に染まっていった。


 鏡から陽光を放ちながら神の祝詞がうたわれる。


「『 鏡が映すは真なる世界!その輝きを以って偽る全てを清め給え!【エンシェントソル】! 』」


 その身に太陽纏ったティアが魔物たちが塞いでいる道へと突貫する。


「ごーごー!」


『木にぶつからないように気を付けろ~』


 触れたものすべてを焼き払い、目的の薬へ向けて爆進するティアと太陽神なのだった。

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