第42話 丸く収めるコツは理由付けだ

 話を聞くべく僕はアルに捕獲されている子に視線を移す。


 思ったよりもがっちり捕まっているのか少しじたばたしているが拘束は解けず、結果足がパタパタされて可愛らしい光景になっている。


 うちの嫁の顔が怒りの笑顔でなければ微笑ましいものだったことだろう。


「じゃあ次は君だが…名前は?」


「私?名前は……」


 口を開いて言いかけて彼女はその口を噤んだ。


さっきの狐っ子は困った感じ表情だったがこっちはこっちで嫌そうな表情に見える。


「もしかして君も名前がないのか?」


「…別にないわけじゃないわよ」


 ないわけではないという割に口にはしようとしない彼女をしばらく見守っていると、何やら視線を逸らした天使っ子が口を開いた。


「……『神の御使い』」


「…はい?」


「だから『神の御使い』って名前なのよっ!」


 …思いもよらない返答に思考停止していた僕だが、「文句ある!」と少し恥ずかしそうに怒っているあたり本当なのだろう。


「それで御使いちゃんはどうして地上にいるんですか?あなた達天使族は空の上の国に住んでいるんじゃないんですか?」


「御使いって呼ぶな!」


「えー…自分で言ったんじゃないですか~」


 背後のあるから名前を呼ばれた天使っ子が怒っている。


 何やら面倒な事情でもあるのかな。


「…御使いってのは他の奴らがそう呼んでたから。実際役割はそうだから」


「役割?」


 その後、少し天使っ子から彼女の話を聞いたが、どうやら「神の御使い」というのは天使族でも神に役割を持って生み出された特殊な者をそう言う呼称で呼ぶらしい。


 実際通常の天使族よりも能力が優れているらしいので、天使族の稀人と言っても差し支えないだろう。


「つまりミツカちゃんは神様に何らかの役割を持って生み出された子なんですね?」


「可愛く言ってもダメ!」


「それで?その使命っていうのは?」


「…具体的には分かんない。神様からは『遠くない未来に世界の危機が起こる』って。だからそれを直接、あるいは間接的に解決する手助けのために私を産み出したって…」


 少し自信なさげにそう言う天使っ子。


 具体的な情報がないから本人も自信を持てないように感じる。


「じゃあその使命のために空から降りてきたのか?」


「ううん、家出してきた」


 真剣な話かと思ったら割と私情だった!?


「だってあいつら私が御使いだからって何しても『あぁ!すごいです!』だの、『さすがです!』しか言わないんだもん!」


「あー…わかります~。気を使っているつもりなんでしょうけどかえって気に障るんですよねぇ。私は火炙りにしました!」


「……私はそんなことしないわよ」


 謎の共感を感じた元魔王とその魔王に捕まっている天使っ子。


 が、どうやら友情は生まれなかったらしい。


「でもそれだったら今ごろ心配しているんじゃないか?」


「大丈夫よ。家出するときにしばらく出ていくって言ったら『畏まりました!』って言ってたから」


「あっはい」


 …国公認の家出なら問題はないだろう。


 ここまで聞いたところで一つ思い出す。


 それを確認するために僕は抱きしめている狐っ子の方を見る。


「そう言えば君はどうして里から出てきたんだ?」


「こん!ちょっとした個人的な理由で旅をしているです!」


「そうか、そうか」


「こ~ん♪」


 しっかりと素直に返答してくれた狐っ子にお礼代わりに頭を撫でると気持ちよさそうに鳴き声を漏らしたのだった。



 …さて、とりあえず情報収集を終えた結果を踏まえて考える。


 要するに二人とも国を出て旅をしているらしいが、あまり外の世界に詳しいという感じではない。


 少なくともこのまま野に放っても大丈夫ということは保証されないだろう。


 どちらも悪い子ではなさそうだし、ひとまずはその場しのぎの解決策でも問題はないはずだ。


 何より最近子持ちになった身としては同じくらい(少なくとも見た目は)の子供がこの寒空のしたに放置されるのを放っておくわけにはいかない。


 そう思った僕は顔を上げる。


「アジダハ」


「なんじゃ主よ」


「うちの部屋はまだ余っているよな?」


「ふむ、なのほどの。問題はないのじゃ。こういう時に備えて最低限の掃除も済んでおるからすぐに使えるぞ」


「よし、じゃあ二人とも冬が終わるまではうちで過ごしなさい」


「はっ?」「こん?」


 2人が何やら不思議そうな顔をしてこちらを見てくる。


「この間うちの前で倒れていたのもそうだけど、子供一人での旅は危険だ。特に冬は命に関わりやすい。晴れだと思っていても急に吹雪く、なんてこともある」


「まぁそうね。あたしの見た感じ二人とも旅に慣れているって訳でもなさそうだし…このままにしておくのは危ないかな~。特に青髪の子はね」


「何でよ!」


「確かに強力な力?みたいなものは感じるけどさ、何事も力で解決とかしていると碌なことにならないわよ。特に天使族みたいに他の種族にあまり関わらない奴らとかはね。ちょっとのことに過敏に反応して戦争~とかなったらねぇ」


 当然のように朝から入り浸っているルクスが珍しくまともなことを言う。


 明日は槍が降ってきそうだ。


「…要するにティオさんはあなた達のことが心配だからここにいて欲しいんですよ」


「…心配…私を?」


 アルの言葉に困惑している天使っ子。


 いきなりのことで不安なのか疑われているのか。


 天使っ子が俯き何かを考えて黙りこんでいたので周りにいた僕たちは黙って返事を待っていたが、僕の腕の中にいる狐っ子は天使っ子とは正反対の反応だった。


「こん!わかったのです!しばらくよろしくお願いします!」


 満面の笑みで嬉しそうに尻尾を振ってぴょんぴょんしている。


 そしてすぐに正面でアルに捕まっている天使っ子に笑みを浮かべて話しかけた。


「拙はここでお世話になるのです!ズル鳥は早く雪に埋まるのです!」


ニヨニヨと大変悪い笑顔を浮かべていらっしゃる。


するとその顔に釣られた天使っ子が顔を赤くした。


「むー!何よ!こんな雪だらけの外なんて出たくないわよ!…いいわっ!私もしばらく厄介になってあげる!光栄に思いなさい!」


 …なにやら煽りあって結局二人とも我が家に留まることになったようだ。




 こうして我が家にしばらく二人の子供が住むことになったのであった。

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