第41話 仲が悪いと喧嘩するよ。

 どうもこんにちわ!拙です!


 ちょっと体がまだだるいですがそろそろ起きようと思うのです!


 起きようと思いもぞもぞ。


 少しだけお布団を浮かせます。


 ……寒い!?そうです、今は冬でした。


 上げかけたお布団を元に戻して鼻の辺りまで掛けなおすのです。


 あったかい……こん?


 そう言えば拙はどうしてお布団で眠っているんでしょう?


 それにこのお布団はもふもふです。


 拙が生まれ育った狐獣人の里でもこんなにもふもふのお布団はお目にかかれなかったです。


 もふもふのふかふか。


 お日様の香りです!


 …何を考えていたんでしたっけ?


「………むー」


 外が寒くて布団から顔を半分だけ出してぬくぬくしていたそのとき、お部屋の扉が開いた音がしました。


 あまり布団から出たくなかった拙が顔だけ少し上げて音のした方を見てみると、そこには綺麗な銀の長髪の女性が立っていたのです。


 その銀髪はまるで拙の銀毛と同じようで…、


「…母上?」


 思わずそう言ってしまって女性の顔色を伺います。


 そんなはずはないのです。


 しかし女性は短く驚いた表情の後、優しく笑って拙に近寄ってきました。


「まだ寝ぼけているのか?」


 そしてゆっくりと拙に顔を近づけると拙のおでこにおでこをくっつけます。


 暖かい温度を感じているとすぐに離れました。


「どうやら熱は下がったみたいだ」


「? 拙は風邪をひいていたのです?」


「家の前でな。仕方ないから看病したんだ。とりあえずリビングの方に行こう」


「こん…寒いから出たくないのです…」


 何故か我儘を言ってしまう拙。


 理由は分からないですが少しだけそうしたいと思ったのです。


 すると女性は容赦なくお布団を捲り上げると拙を抱き上げます。


 急に全身に冷気を浴びて尾の先から耳の先まで1度「プルッ」と震えていると、その様子を見た女性が申し訳なさそうに笑います。


「隣の部屋はあったかいから少し我慢だ」


「こん!はいです!」


 女性の大きな胸を枕にさせてもらいその温もりを感じながら隣の部屋に移動すると、そこはとても暖かっくて広いお部屋でした。


 それに沢山の知らない人たち。


 たぶんこのおうちの住人さんたちなんです!


 そうお思った拙が尻尾を振りながら部屋の中を見回していると一人だけ見知っている顔を見つけました。


 ついでに思い出しました!あの青髪のズル鳥です!


 拙はぴょんと女性の腕から飛び降りるとあの子を指さしました。


「こんこんこーん!あおズル鳥!見つけたのです!」


「あーっ!しろ狐!ていうか誰がずる鳥よ!」


「拙が飛べないから空からずっと攻撃する卑怯者です!」


「なによ!飛べないのが悪いんでしょ!」


「「 がるるるるるっ! 」」


 拙が耳と尻尾を立てて威嚇し、ズル鳥も羽を広げます…が、


「はいはい、ケンカしないケンカしない」


「結構元気ですねこの子達」


 拙はこの部屋まで運んでくれた女性に抱き上げられ、向こうのズル鳥は桃色髪の角が生えた女性に捕まりました。


 思わず威嚇してしまいましたが他所のおうちでした…反省です。


「こん…ごめんなさい」


「うんうん、謝れるのはいいことだぞ。よしよし」


「こーん♪」


 拙を抱きかかえている女性が頭を撫でてくれます。


 とっても気持ちいいのです!


 撫でられて拙が目を細めていたその間、向かい側のズル鳥は桃色髪の角の女性にと揉めていました。


「室内でそんなに大きな羽を出したらみんなに迷惑でしょう」


「うるさいわね牛女!角折られたくなかったらさっさと放しなさいよ!」


「う、牛…」


 脇と羽を押さえられて身動きの取れないズル鳥は暴れています…けど、


「かっか!口の悪い童よな!そんなことばかり言っておると恐~い魔王が現れてお主を喰ってしまうぞ!」


「ふんだ!私が小さいからってそんな嘘に騙されると思っているの!最悪の魔王『アルヴィオン』は退治されたのよ!ここに来れるわけないでしょ!」


「…だ、そうじゃぞ『アルヴィオン』」


「…ふぇ?」


「ふふふ…私のこれは牛の角ではなくて悪魔の角なんですよぉ?青い天使さん?それに魔王は退治されたんじゃなくて寿退社したんですよ~?この可愛い羽をむしってしまいましょうか?フフフフフフ…」


「…ぴ、ぴえん…」


 桃色の女性から溢れた真っ黒いオーラにズル鳥が震えています。


 むしると宣言されたからか羽も消してしまいました。


 涙目で震えているズル鳥。


 日頃の行いは大事なのです!



 ◆●◆●◆●◆●◆



 なんだかんだで争いは終結した。


 何やら2人の子供たちの間での喧嘩は収束したのだ。


 …というか今の感じで分かった。


 この二人は雪の降る外でこんな感じの喧嘩をしていたのだろう。


 そりゃ倒れもするよ…。


 で、「こんこん」と鳴いている白狐の女の子は僕に抱きしめられておとなしく、蒼髪の天使の子は黒い笑顔のアルに羽交い絞めにされている。


 可哀そうに。


 だがいつまでもこのままでは困るので二人から話を聞くことにした。


「それで?二人は…いやとりあえず名前か?なんていうんだ?」


 名前を知らないのは不便だと思い聞いてみるが二人とも返答がない。


 答えたくない…というよりも何やら言いづらそうにしている。


「答えられないのか?言えない理由があるなら言わなくても…」


 僕に抱きしめられている素直そうな白狐の子にまずは話を聞くべく可愛らしい狐耳を優しく撫でているとゆっくりと口を開いた。


「こん…ごめんなさい。拙は名前が無いのです」


「…名前がない?」


「確か獣人族は親のみが名を授けることが許される種族。であるならばお主の親は…」


「拙を産んだ時に亡くなったらしいです。父上はそれよりも前に」


「そうか…。しかし厳密には次の親…お主の育ての親が名を与えれば認められるのではないか?」


 あまり知らない獣人族の風習だがアジダハは詳しいらしい。


 そしてその話を聞くに親がいなかったこの子は名前を貰えなかったが、だからと言って名前が無いのはおかしいようだ。


「それは拙が稀人だから…」


「稀人?」


「ふむ、お主の毛色が他の狐族と違うのは先祖返りが原因じゃったか」


「こん」


「どういうことだアジダハ?」


 説明を求めたアジダハから聞いた話。


稀人まれびと


 一般的な種族から逸脱した存在…それが稀人。


 今回で言うならこの白狐の女の子は獣人族の稀人であり、普通の獣人族とは違ってエルフ並みの長命、ずば抜けた身体能力、通常では生えない銀色の毛色を旧き先祖の血から受け継いでしまったようだ。


 ちなみに人間族で言うと僕の様な不老不死もその一つらしい。


 エルフで炎の魔力を持ったティアも。


 竜族で闇の魔力と黒い竜鱗を持ったアジダハも。


 戦闘に長けた魔族でさらに戦闘に特化したアルも。


 そう考えれば我が家は稀人のたまり場だな。


 だがそれと名前が無いのがどう関係しているのだろう?


「……ひょっとして獣人族では稀人は迫害されているのか?」


「こん!?そ、そんなことはないよ!みんなとっても優しくしてくれたの!」


「そうか…ならよかった。でもどうしてなんだ?」


「…拙はみんなと毛色も寿命も違うから。だから優しい里のみんなは拙が一人にならないようにみんなで拙を育ててくれたです。それでみんな家族だから誰かだけが名前を付けるのを躊躇って…」


「気が付いたら大きくなっていて名前を付けるタイミングを見失った…と?」


「こん」


 …そんなことで大切な名前を貰えないくらいなら誰かつけてやれよっ!


 僕は心の中で唯一の獣人の知り合いであるグレイガの顔を殴った。


 今度会ったら穴だらけのその習慣を修正させよう。


 そうしよう。



 これでこっちの白狐の子の話は聞き終えたので次はあっちの天使の子である。

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