第40話 しーろい狐とあおいろ天使
理由は分からないが玄関に倒れている銀毛の狐獣人の少女。
歳は普通に考えるなら11~12歳程度に見える少女が青い顔で我が家の玄関口に倒れているのはいったい…。
ただ明らかに倒れているこの子を放置するわけにもいかず僕が家から外に出て狐娘を抱き上げたそのとき、まだ雪の吹雪く空の方から大きな声が聞こえた。
「ちょっとそこの!」
「…ん?」
声に呼ばれて真っ白な上空に視線を送るとそこには、雪の中でも輝く銀翼の翼を背中に宿した蒼銀の髪の少女がこちらを睨んでいた。
容姿は端麗で年齢は今僕が抱えている子と同じくらい…いやちょっとだけ年上な印象だろうか。
左手は腰に当て、その反対の手には身の丈の倍はありそうな巨大な両刃特大剣を持っている。
明らかに普通の子供ではない彼女は何やらお怒りのご様子だ。
「あんたもソイツの仲間?」
「そいつって…この子のことか?」
「そうよ!私はそいつと『けっとー』しているの!邪魔しないでよ!」
…決闘?
何やら物騒な単語が聞こえる。
そう言えばこの狐娘をよくよく見ると何やら土に汚れている。
推測に過ぎないがおそらくこの二人は喧嘩をしていたのだろう。
…この吹雪の中で。
当然寒いからこの狐娘はここで力尽きて倒れているのだと思うが…、何で一緒に遊んでいたあの子は平気で今も吹雪かれているんだろう…。
そんな疑念が脳裏を過ぎり空の少女を見上げる。
「…なんか頭が痛いわ……世界がまわる…」
少し目を離した隙に少女は目を回していた。
……やっぱり大丈夫じゃなかった!
いつの間にか手に持っていた剣と背中の翼が消えており、空から自由落下している少女。
流石にあれは拙いな。
幸い高い位置を飛んでいたのでまだ落ちるまで時間はある。
「アジダハ!パス!」
「承った!」
背後で様子を伺っていたアジダハに狐娘を渡す。
そして即座に転移魔術を発動。
落下中の彼女の下側に転移した僕はしっかりと少女を受け止め、もう一度転移魔術を使って玄関に戻った。
「ふぅ…やれやれだ」
さっきは離れていて気が付かなかったが、腕の中の少女は僕と同じように腰の辺りまで髪を伸ばしておりその髪はびしょびしょに濡れている。
そりゃ吹雪の中でずっといればこうもなるわな。
表情を見てみるが顔が赤い。
どう見ても体調がいいようには見えなかった。
風邪だろうなぁ…。
もう一人の狐娘の方にも目をやる。
プルプル震えている。
風邪だよなぁ…。
「主よ、とりあえず濡れた体を拭く、に一票じゃ」
「左に同じくだな。濡れた服を脱がせて別の服を着せてベッドに寝かせよう。ティア、たぶん体格が同じくらいだからパジャマ二つ持ってきてくれる?」
「うん、わかったの!」
「うんじゃあたしらは予備の毛布を出しとこーよアルちゃん」
「迷いなく動いてますけど何で予備の布団の位置把握しているんですか?」
◆●◆●◆●◆●◆
―――急な来客により我が家の家族一同で対処し、倒れていた(正確にはさっき倒れた)少女2人を無事ベッドに寝かせることに成功するのだった。
診察結果は当然、風邪である。
幸い薬売りである我が家には風邪薬もあるのでこのままベッドで休んでいれば体調も良くなるだろう。
僕は睡眠をとらなくても問題ないから看病しつつ本でも読むとしよう。
実のことを言えば彼女たちを一瞬で治す方法はある。
我が家のエリクサー風呂に投げ込めば一発で完治するだろう。
だが子供のころから薬などですぐに病気を治すと、体が病気に対する抵抗力を失う。
それはこの子達の将来によろしくないだろうという考えで普通の風邪薬となっているのだ。
いつもの寝室にこの子達を寝かせているのでベッドの空きは無く、今日はティアはアルと一緒に寝ることになっているから若干寂しいが…それはまぁ仕方がない。
ベッドの上で仲良く風邪で眠っている二人を見やる。
熱でうなされている彼女らの頭の上に置いている濡れタオルを交換せねば。
タオルを交換しながらふと考える。
こっちの銀毛の狐の少女、獣人族なのは間違いない。
だが確か普通の狐獣人は金毛だったはず。
何よりエルフ同様にこの近辺には獣人の国や町は無い。
それがどうしてここにいるのか。
そしてもう一人の長い青髪の少女、こっちはおそらく天使族だろう。
空を飛んだ時に見せていた背中の羽は今は消えている。
空を飛ぶ人型種族は多数いるが、竜人族などの変身が可能な種族以外で羽を出したり仕舞ったりできるのは天使族くらいである。
…とはいえ天使族は神に仕える種族として空に浮かぶ国から降りてこないという話をずっと前に聞いたことがあるんだけど…最近は地上で暮らしているのだろうか。
2人が2人、なんだか特殊な事情でもありそうだな。
そんなことを思っていた僕が狐の子に交換したタオルを乗せ終えた時、彼女がうっすらと目を開いた。
「……母上…」
うなされておりまだ意識がはっきりとしていないのか僕の手を掴みそう呼ぶ。
「…ここにいるよ」
僕はこの子の母親ではないけれど…夢枕の今この時に真実はいらないだろう。
また彼女が優しく寝息を立てるまで僕はその獣耳を柔らかく撫でているのだった。
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