第43話 名前つけるのは実は得意なんだ

 さてさて、何とか無事問題も解決しようやく一息つけるかと思った僕の耳に何やら可愛らしい音が聞こえてくる。


「「クゥゥゥ~」」


 何の音かなと、その方向を振り向くとお腹を押さえて顔をちょっぴり赤らめた天使っ子と狐っ子。


 よくよく考えれば倒れてから何も食べていないだろうし、何か食べさせてあげるとしよう。


「そろそろ朝食を作るか。アジダハは手伝ってくれるか?」


「うむ!任せるがよいぞ」


「では私はこっちで食器を並べていますねティオさん」


「んーよろしく」


 ということで朝食を作ることになった。


 2人にアレルギーがあるかどうかを確認したが特にないとのことなので、一般的な朝食を作るとしよう。


 とはいっても方針が無ければ作れないのでアジダハに尋ねてみると…、


「何でもよい気がするのぅ。どうせ子供たちの舌が肥えてしまうことじゃし…」


 結局意見を貰えなかった。


 しかも何故かひとこと余計で。


 …別にいいけど僕の料理なんてその辺でよく作られている異世界レシピなんだがな。


 何も得るものもなく無難にオムライスで決定。


 子供は大体オムライス・カレー・かつ丼などである。


 勿論半熟とろとろデミグラスソース仕立て。


 念のためにおかわり分を手早く作成した後に食卓へと運んでいく。


 口にした二人の反応はというと…、


「はむっ!あむっ!すっごくおいしいのです!おかわりが欲しいのです!」


「むむ…天使族の料理人のよりおいしい…」


 狐っ子はしっぽをぶんぶん振りながらがっついて食べている。


 天使っ子もなにやら悔しそうだが手に持ったスプーンは動きを止めない。


 どうやら好評のようだ。


「…こうしてティオの料理の中毒になった憐れな者がまた2人増えたのであった…」


「神妙な顔で何言ってるんだお前は」


「いやぁ~私もそれなりに美味しいもの食べて来たけどティオの御飯が一番だよぉ~」


「…ふぅ、別に褒めてもおかわりくらいしか出ないぞルクス」


「あるなら食べるわ!」


 ため息をつきながらの僕におかわりを渡され、それに飛びつくルクス。


 褒められて悪い気はしないのである。


 よし、やることもやったしあとやり残していることを片付けるとしよう。


 一旦注目を集めるために軽く拍手をする。


 それによりみんなの視線が集まったのを確認した僕はさっきから話そうとしていた話題について口を開く。


「さてとりあえず2人がうちにしばらく住み着くことになったんだけど、さすがに名前がないのはなかなかやりづらい。そこで狐っ子にはこの家にいる間は仮の名前を付けようと思う」


「!」


 話を聞いた狐っ子が耳を「ピンッ!」と反応させこちらを見ている。


 瞳をキラキラさせている様子から名前を付けられるのが嫌ということはないようだ。


 むしろ今か今かと尻尾をブンブンと振っている。


 なので即興ながら考えた名前を彼女に伝えた。


「じゃあ『コン』って呼ぶからここにいる間はそれでよろしく」


「わかったのです!拙の名前は『コン』なのです!」


 仮とはいえ命名され『こん!こん!こーん!』と大変嬉しそうにその場をぴょんぴょん跳ねるコン。


 あそこまで喜ばれるとこちらも嬉しいものだ。


 …が、何故か周りの子供以外の人間からは若干抗議の視線を送られる。


「主よ…もしかするとじゃが…」


「よく『こんこん』鳴いているから『コン』…」


「とかそんな安直な名前じゃないわよね?」


「…3人とも僕のことをめんどくさがりか何かだと思ってるのか」


 確かにそれっぽくはあるが…名前は大切なものだからそんなことは僕はしないぞ。


「名前がないって言ってた時にちゃんとした名前を思いついたけど、本当の親じゃない僕が勝手に名前を付けるのもアレだからな。考えた名前の一部を取り出したんだよ」


「よかった…ティオさんに赤ちゃんができた時に『アカサン』とかそんな名前にならなそうで」


「それは非人道的すぎるだろ…」


 というかうちの妻は子供を産む気なのか、それとも産ませる気なのかが少し気になるが、ふと隣から僕の服の袖をクイクイと引っ張られた。


 この感じ…ティアかな?


 そう思い視線を落とした僕の眼前にいたのは娘のティアではなく天使っ子である御使いであった。


「ん?どうした?」


「…………むー…」


 …返事はない。何やらちょっぴり怒り顔で頬を膨らませた僕の服をクイクイし続けている。


 何だろう?要求されているのが何かがさっぱり分からない。


 理解及ばず首を傾げているとその様相を見た御使いが「…むーっ!!!」とさらに服を強く引っ張る。


「???」


 さっぱり理解できない僕が困り果てていたそのとき、隣にいた妻からフォローが耳打ちされた。


「彼女もコンちゃん同様に名前が欲しいんじゃないですか?」


「えっ?でも『神の御使い』って名前が…」


「女の子でそんな名前を付けられたら多分その子は名づけの親を火炙りにします」


「…そういうものか?」


「そういうものです!」


 力の籠もったアルの熱弁により方針が決まったので彼女にも名前を付けることにしよう。


 と言っても実はコンの名前を考えているときに彼女の名前も思いついていたので、コン同様にその名前を添削してそれを名前にすればいいのである。


「…あー…せっかくだし君にも名前を付けるかー。『御使い』じゃあ呼びづらいもんなー」


「……!」


 僕の返事を聞いて力強く頷いた天使っ子は引っ張るのをやめて先ほどのコンと同じように目を輝かせている。


 やはりうちの妻の推測はあっていたようだ。


「じゃあ君はエミリアだ。魔術言語で『神翼』って意味」


「エミリア…ふ、ふん!それなりの名前じゃない!」


 プイと顔を逸らしているエミリアだが、逸らしている顔の端を見るだけでも少し嬉しそうな様子が見て取れる。


 素直になるのが恥ずかしいのかな?


 そんな様子のエミリアの頭をポンポンしながら笑みを溢す。


 喜んでくれたなら何よりだ。


 跳ねるコンと顔を背けたまま頭を撫でられているエミリア。


改めて…これから計5人(+侵入者一人)の長い冬が始まるのであった。

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