第33話 大魔導師と呼ばないで
そもそもの話今回のパーティーは「親睦会」という仮面をつけた新魔族のお披露目である。
『今までは独尊魔王のせいであんなでしたが、今はこんなにも無害な種族なんですよ!』
という風聞を今まで関係の悪かった種族たちに伝え、今後の関係を良い方向に修正していくのが本来の目的だ。
それくらいはこのパーティーに来る前から気が付いていた。
そして招待した新魔王アーミタルもそのつもりだったのだろう。
現にさっきこっちにバトンをこれでもかという勢いで投げてきたしな。
投げ渡されたバトンを叩き落とすこともできたが…そもそもうちに移住してきた元魔王にして彼女の姉が原因。
争いごとがなくなるなら良いことだし、身内の恥は多少なりとも拭っておくべきだろう。
そう思って手を貸したが…そこには一つ誤算があった。
それは周囲にいる王族達。
彼らがあいさつが終わった瞬間に僕の方に迫ってきたことだった。
ドワーフ族王
「ぬぉーっ!こんな可愛らしいお嬢さんが大魔導師じゃったか!」
子犬族王
「ワン!我らが恩人!」
夢魔族王
「嘘ぉ!大魔導士様がこんなに可愛いなんてきいてないわ!握手してぇ~♡」
予知族王
「我らの予知にも映らぬ大魔導士様。こんな場所で会えるとは」
それぞれの王がそれぞれ感激しながら僕に詰めてくる。
怖い!怖い!
結局僕は1時間ほどそれぞれの王たちと雑談をする羽目になり、解放されたころにはへとへとだ。
「……はぁ~~~…」
口から煙が出そうなほどため息を吐く。
そんな僕にアジダハが飲み物を持ってきてくれたのだった。
「ありがとうアジダハ。…しかしこんなに慕われているとはな。会ったこともないその辺の魔導師なんぞに」
「それは当然であろう主よ。洞窟の奥深くに引きこもっておった主は知らぬかもしれぬが病騒ぎが収まってすぐの際は主を探してお礼を言おうと周辺国の王たちが指名手配しておったくらいじゃからな」
話しながらアジダハが視線をある方向に向けるのを感じその方向に同じように目を移すと…、
「中でも熱烈に主を探しておったのは獣国の王じゃよ…のう…グレイガ?」
そこには深々と頭を床につけこちらに土下座をしている獅子君の姿があった。
大変美しいフォルムのその姿は土下座しても王としての品格を感じさせる。
「まさか大魔導師様とは露知らず…ご無礼を…どうかご容赦を…どうかご容赦を…」
もはや悲しさを感じさせる弱弱しい声。
多分さっき「やんのかこら」かましたことを大変後悔しているのでしょう。
…いやまぁ喧嘩っ早いのはよろしくないが、かといって何も言えない王よりはいいと思うよ?
何とも言えない気持ちになった僕は居た堪れなくなり、彼の正面に膝をついて話す。
今スカートだから屈んでないと顔を上げた獅子君に下着見えちゃうしな。
「顔を上げてくれ獣国の王。僕は気にしていないよ」
「ですが…」
なかなか下げた頭を上げてくれない獅子君。
仕方ないので彼の頬に手のひらを当てて無理やり顔を上げることにした。
「獣の王なのだからあれくらい元気でいいんだよ。でないとせっかくの格好いい鬣が台無しじゃないか」
頬に手を当てられてゆっくりと顔を上げる獅子君。
その表情は何とも言えない間抜け顔で何故か頬も紅潮している。
…なにその表情?
暫く涎が垂れそうな間抜け顔のまま硬直していた獅子君だが「はっ!?」と意識を取り戻し立ち上がった。
それでも目は空へ海へと泳いでいるので平常心ではなさそうだ。
「…はっ!?そういえば自己紹介がまだでした!私は現在の獣国の王を務めております!グレイガ・リパルサーと申します」
「最初と口調違くない?」
「かの流行り病の際は私を含めすべての民たちがくりゅ…苦しんでいたところをお救い戴きお礼に言葉をもございません!」
成程、えらい丁寧に挨拶してくると思ったが獣国は例の病の感染が酷かったんだな。
あと獅子君、大事なとこ噛んだね。
真面目な話のところ申し訳ないが少し笑ってしまう。
「ふふっ可愛い」
「っ~~~~~~~!」
何故か全身か大量の湯気を噴き出した獅子君。
顔も尻尾も耳に至るまで全て真っ赤である。
そんなに恥ずかしかったのだろうか?
結局そのまま彼は顔を隠して走り去ってしまった。
…弄りすぎたか?
「アジダハ…ひょっとして揶揄い過ぎたか?」
僕の問いを聞いたアジダハがこっちをジト目で見てくる。
「主よ気づいておらぬのか…。罪作りよのう…カッカッカッカ!」
途中からニヨニヨとした笑みに切り替わったアジダハ。
なんだ、何が言いたいんだ!
ニヨニヨ笑いの止まらないアジダハに問い詰めようと思ったそのとき、背後から僕を呼ぶ声がする。
「お母さん!」
「むむっ!
最優先事項の気配を感じ取り振り返ったそこには大皿いっぱいにパスタを乗せ、その皿から口に面を吸い込んでいる愛娘の姿。
「
「なるほど、ティアの好物は海鮮寄りのパスタか。じゃあ今度家でも作ってあげるからな」
「わーい!」
先程まで何をしていたかを忘れた僕はリスのようにもきゅもきゅと口を動かしているティアの頭を撫でるのであった。
これが僕の最優先事項。
異論は認めない。
そんなことをしているとふと背後に気配を感じる。
見てみるとそこにいたのはアーミタルの傍にいた兵士…おそらく近衛兵だろう。
「レスティオルゥ様、魔王様がお話がしたいとのことですので少々お時間よろしいでしょうか?」
そう言われ玉座の方を見ると座ったままのアーミタルがこちらにお辞儀をしていた。
何やら話があるらしい。
「アジダハ、ちょっとティアと…あと」
実はずっと僕の右腕に無言で抱き着いたまま、身じろぎ一つしなかったアルをアジダハに渡す。
「アルを頼む。多分呼ばれているのは僕だけだからな」
「うむ!了解したぞ主よ」
なんだかんだ出来るドラゴンメイド・アジダハに諸々任せた僕は新魔王アーミタルのところに移動するのであった。
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