第34話 妹のみぞ知る世界
近衛兵の案内のによりパーティー会場とは別の部屋へと移動した僕は今、アーミタルと向かい合う形で椅子に座っている。
音もなく上げられた魔王の手を合図に近衛兵は礼をして部屋から出ていく。
そして二人きりになるのを見届けたアーミタルは席を立ちこちらへと頭を下げた。
「改めて…本日は遠路はるばるお越しいただき、並びにこちらの意図を汲んでのご協力、感謝いたします」
まだ幼さの残る容姿だがその仕草はしっかりとした王。
姉とは違うなぁ。
「わざわざ親しくもない僕に招待を送るくらいだ。別の目的があるのは明確だしな。それに親善パーティーと銘打っているのだからこれほど分かり易い目的は無いだろう」
「ご慧眼、恐れ入ります」
手紙が来た時から何となくわかっていたが、ここで彼女と話して「やはり」と確信を得る。
魔王が新しく変わってから方針が変わったとしても、そのことを周囲の種族たちに伝えることが出来なければ関係の修復はままならない。
しかしついこの間まで戦争していた相手の言葉を鵜呑みにする訳にもいかない。
ましてや先代は独尊外道の魔王。
信頼を得るのは難しいだろう。
だからこそ彼女らに必要だったのは他の種族に信頼、或いはそれに匹敵する功績のある人間の証言だ。
そこで選ばれたのは先代魔王を倒し、かつすべての種族に関わりを持っている僕というわけだ。
嘘も含まれていないから実際これならただ身の潔白を証明できるだけでなく、間に僕が入ることで通常よりも相手の譲歩を促せる確率が上がるだろう。
なかなか考えられている策だ。
傍から見れば僕が利用されただけかもしれないが、新しく生まれ変わる国との交流を築きつつ貸しを作るというのは悪いことではないしな。
…もっとも僕からしたらアルに引きずられた魔族が可哀そうでならないのだが。
「これで少なくとも戦争したがりだとは思われないだろう」
「そうですね。疲弊している国の回復にしばらくかかるので他国に干渉されないだけでも助かります」
「…疲弊…してるの?」
「…はい、国費はほとんど姉さんの私物化され、余った分は戦争費用でしたので…」
「それはまた何とも」
「ですが姉さんも悪気があったわけではないので…」
「時として悪気がない方が悪いこともあるけどな…しかし…」
こちらを見ているアーミタルを見て少し笑みを浮かべていると、それに彼女も気が付いた。
「どうかしましたか?」
「…いや、顔を合わせた時から気づいていたが、君はあの姉にあまり悪い感情を抱いていないようだからな」
「…それは」
僕に言われた言葉に顔を俯かせるアーミタル。
しばらくして神妙な面持ちで口を開いた。
「レスティオルゥ様は生まれた時から全てを持っている人間のことを知っていますか?」
「全て?」
「財力・暴力・権力・およそ生まれた時に決まっているそれです。姉さんは生まれた時からそれらを全て持っていました。次期魔王ですからね」
続きのありそうな口調に僕が黙って耳を傾けると、彼女は話を続けた。
「何もかもを持っている人間は他人からは羨ましがられますが…当の本人はそうではありません。自分で手に入れることができないというのはある種の拷問に近いのです。私はずっと見ていましたから…作り物の笑顔で楽しそうに笑う姉を」
アルヴィオンはやりたい放題してるだけかと思っていたが、どうやらそれなりにそうなった事情があるようだ。
そして彼女はそれを見守っていたらしい。
だからこそ彼女はあの姉を嫌ってはいないのだろう。
「ですが今日姉さんの様子を見て安心しました」
「それはまたどうして?」
「だって…ちゃんと笑っていましたから。作り物の笑顔ではなく…心から」
「普段からあんな感じだけどな」
「きっとレスティオルゥ様のおかげですね」
先程までの威厳ある表情とは違い年相応の笑顔を浮かべるアーミタル。
きっと本来はこっちが素なのだろう。
その笑みを見た僕は彼女の頭を撫でる。
「僕のことはティオでいいぞ。形だけとはいえ一応君の姉は僕の妻だからな」
「あっ…えっと…はい。よろしくお願いします…ティオさん。私の名前も長いので省略していただいて構いません」
「そう言うのは愛称というべきだな。…じゃあアミィと呼ぶことにするよ」
「はい、よろしくお願いします」
お互い打ち解けたためかアミィの態度が柔らかくなったような気がする。
その後少し問題のある姉についての談笑をした後、気になったことを尋ねてみた。
「というか国の状態はよろしくないのか?」
「そうですね…国費もあまりないですし、かといって疲弊している国民から徴収するわけにもいかず…何よりまだ他国との貿易なども復旧していないので資材の確保もできず…戦争用に量産された武器が倉庫を独占しています…」
「僕が思ったよりも5割増しでひどいな……ふ~む…」
…つまるところ邪魔な武器などを退かしつつ足りない物資が補えればいいんだな?
「アミィ、この国には錬金術師いるのか?」
「…? はい、数はそこまでいませんが城仕えの者達が…」
「…なら触媒だけあればいいか。アミィ、一番腕のいい錬金術師を一人でいいから連れてきてくれ」
「ここにですか?」
「いや、処理に困る武器庫の方だ」
僕が何をするのかまったく理解できていないアミィの頭の上に可愛らしい「?」が浮かぶのを見て僕は小さく笑うのだった。
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