第30話 元上司って怖いよね…。

 数日が過ぎていよいよ今日は魔王城で他種族親睦パーティーがある日だ。


 その為に我が家の家族は朝一で色々片付けると玄関口に集まっている。


 それぞれルクスの作ったドレスで着飾り家の外へと出る。


 玄関の入り口の鍵をかけ、振り返り、心配になってもう一度玄関扉のドアノブを3回カチャカチャした後に改めてみんなの方へと向き直る。


 初めてのパーティーでちょっぴり緊張しているティアや、そんなティアを抱きかかえているアジダハ、何故かこちらをジーっと見ているアル。


 それぞれ準備もできていることを確認したボクは亜空間の中に家の鍵を放り投げてしまい、号令をかける。


「よし、戸締りも済んだしそろそろ行くぞ」


「そうじゃの」


「ところでお姉さま、どうやって行くんですか?」


「む?我の背中に乗っていくのではないのか?魔族の住む地はそれなりに遠いしの」


「いや、それについては大丈夫だ」


 そう言えば彼女らに移動方法を教えてはいなかったな。


 と言っても片手間で出来る魔術ですぐなのだが。


 すいーと手を動かし空間に術式を描いて空間を繋ぐ。


 そして僕らの身長の倍ほどの高さの虹色の門が開かれる。


 すると突然現れた門を見たアルとアジダハが急に驚く。


「こ、これは『次元の門ディメンションゲート』ではないか!?」


「お姉さまこれは時空魔術の『次元の門』ですか?」


「そうだけど…そんなに驚くことじゃないだろう?たかだか上級無属性魔術だし…別にアルやアジダハでも使えるだろう」


「つ、使えなくはないですけど…」


「…通常は複数人で移動前の場所と移動先で同時に使用することで繋ぐものなのじゃがの…さすが主じゃ…(ボソボソ)」


 なんかよくわからんが納得のいってない様子の二人。


 アジダハなんて何やら僕に聞こえない声で呟いている。


 …楽に行けるんだからいいだろ?


 これ以上何を言っても仕方ないので僕は彼女らを無視して娘の手を取り門をくぐっていく。


 置いてくぞー。




 ◆●◆●◆●◆●◆




 門をくぐり魔王城のすぐ隣の辺りまで移動する。


 特に問題はなく着いた。


 この魔術、行きたい場所に一度訪れていないと使えないのだが良しか悪しか、この間誘拐されてこの大きな城の門を通ったので今回問題なく使用している。


 それを思い出し僕の腕に抱き着いて胸を押し当てているアルを見る。


「どうかしましたかお姉さま?」


 きょとんとした様子でこちらを見る元魔王アルヴィオン。


 …いったい誰がこの状況を予想したであろうか?


 以前内側で僕を待っていた彼女と一緒に、また訪れることになるなど。


 思わず漏れそうになったため息を抑えて、僕は門の中央へと進んでいった。


 まぁ当然ながら門番がこちらに近寄ってくる。


「待て!お前たち何者だ!」


「魔王から招待を受けてきたレスティオルゥだが…入れるか?」


「な、なに!?」


 何やらこちらをジーとみている門番たち。


 どことなく顔が赤い。


 …風邪かい?


 しばらくずっと僕の方を上へ下へと見ていた門番たちだったが、その様子を見て何故か少し怒った様子のアルが前に出る。


 …ちなみにだが彼女は内側に入るまでローブを着ているように言ったのでまだ顔が晒されてはいなかったが門番たちの前に言った彼女そのローブのフードを降ろす。


 …すると、


 突然さっきまで赤かった門番たちの顔が青色に変わり、そこからさらに土気色の顔色に変わったところで彼らは膝をついた。


「…ひぃぃぃーっ!?お許しを!家にはまだローンがっ!?ローンがーっ!」


「やめてください!腕はマッチ棒じゃないんですぅー!折らないで…!」


 何やら虚ろな目になり虚空を見た表情のまま兵士たちが良く分からないことを叫びながら発狂した。


 …特に魔術を使った様子もなかったんだが…何をしたらああなるのだろう…。


 しかしその原因であろう当の本人はけろっとした笑顔でローブのフードを被りなおしこちらに振り向いた。


「…どうやら通っていいみたいですし、行きましょうかお姉さま!」


「そっすね」


 多分これに言及しても意味がないであろうことを察した僕はただ頷き城の中へと入っていく。


 後ろでは「南無南無…」と合掌しているアジダハとそれを真似しているティアたちがいるのだった。





 ◆●◆●◆●◆●◆




 無事門を抜けて城へと入った僕たちはそれなりに清掃のいきわたっている廊下を歩いている。


「むむむっ!私の頃にはなかった骨董品が飾られていますね…。あの子ったら無駄金を…!」


「国の金を好き放題してたお前よりは百倍マシだろうな」


「そんなー!」


 若干不法侵入感があるが少なくとも招待はされているので誰か話のわかる人間に出会えたら案内してもらえるだろう。


 そんなことを考えながらアル達と廊下を歩いていると一人の人物に当たる。


「…おや?お綺麗なドレスですね。もしや本日の親睦パーティーの招待客の方でしょうか?」


「一応招待されているレスティオルゥだが…」


「 ! 何と!大魔導師さまでしたか!これは出迎えが遅れてしまい申し訳ありません!私はこの国の宰相を任せられております『ウィンズ・オーバロウ』と申します。本日はわざわざご足労戴きありがとうございます!」


 どうやらそれなりにあたりの人物に出会ったらしい。


 黒色の汚れ一つないスーツに身を包み、片目にモノクルを付け書類を抱えている宰相ウィンズさん。


 きっちりと整えられている髪型などからは几帳面なことが窺える。


 僕らが招待されたことも正しく知っているようだし彼に案内してもらうのが正解だろう。


 と、脳裏で思っていると僕の隣にいたアルが前に出てくる。


「おや?ウィンズではないですか!今はあなたが宰相なんですね!」


 フードを降ろし「やっほー!」といった様子で挨拶するアル。


 顔見知りのようだしどうやら親しいらしい。


 現にアルを見た先程の門番たちと違いウィンズさんはけろっとしている。


「これはアルヴィオン様!ご一緒にお越しになられていら…OROROROROROROROROROOROROROROROROROROROROROROROOROROROROROORO……」


「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 笑顔のまま朗らかに語っていたウィンズさんの口から突然吐しゃ物が噴射され回避運動に移る。


 危なかった!もう少しでドレスに内臓から旅立った者達が付着するところだった!


 突然のホラー映像に後ろにいたティアはもはや泣いている。


 …トラウマにならないといいんだけど…。


 僕は今日の夢にこの光景が出てきそうだ…。

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