第25話 お風呂って大事らしい
おかわりも食べ終わり皿を片付けた僕たちは改めて話題を手紙に戻す。
「で、この手紙のパーティーだが…無視もできないし参加はしようと思う。ティアはどうする?」
「ついていってもいいの?」
「構わないけど知らない人いっぱいだぞ。大丈夫か?」
「お母さんと一緒ならだいじょうぶ」
「そうか」
嬉しいこと言ってくれる娘の頭をポスポスと触れると、ティアは嬉しそうに目を細めて僕の胸に体を預けてくる。
どうやらここがお気に入りの場所らしい。
「ふむ、では我も行くとするかの。一人残っておってもしょうがないしのう」
それが当然と言わんばかりに胸を張るアジダハ。
だがその隣にいるアルは以外にも表情を曇らせていた。
「…う~ん、だったら私がお留守番でしょうか…」
「うん?何でだ?お前も一緒に行くんだぞ」
「え?いいんですか?」
「いいけど…意外だな。お前の性格なら迷わず自分のしたいように行動。すると思っていたけど…」
「…お姉さま、私のことを悪の親玉だとでも思っているんですか?」
「少し思うぞ元魔王」
からかう様に言った僕にアルが頬を膨らませ、元から可愛らしい顔がさらに可愛いものとなる。
顔は魔王の時から可愛かったからなぁ。
「むー!私だって配慮くらいするんですよ!もともとの発端である私が行ったらまずいかもとは思いますよ!」
まぁ…確かにそう思わないでもないけどな。
「こんな時だけ遠慮はしないでいいんだ。どうせこれからは僕の家族として一緒に行動するんだからどうせならそれを知らしめたほうが変な因縁もつけてこられないだろ?」
「ふ…夫婦…!」
一言も発していない言葉を反芻しているアル。
家族で会って夫婦ではない。
「…少なくともおとなしくなったお前を他の国の奴らに見せるのが魔族的にも一番いいだろうしな」
「わかりました!でしたら私も一緒についていきます!」
これで決定だな。
「じゃあ来週末は魔族の国だな。あとパーティー用の服を…」
僕がそう言いかけたところで玄関の扉が「すっ」と開き、とてもいい顔をしたルクスが顔を覗かせる。
「呼んだ?」
「呼んではいないけど仕事はある」
「まっかせて!ここにいる全員分のドレスね!」
…こいつはいつからドア前に待機していたんだろう…。
「我はよいぞ。メイド服こそ我が戦闘服じゃからの」
「ん、りょーかい!」
「じゃね!」と大変うれしそうなルクスが扉を閉めて去る。
服を作る時だけは頼もしいな。
…変に露出度を増やしてなければよいのだが…。
◆●◆●◆●◆●◆
来週に魔族のパーティーに行くことは確定した…が、そもそも来週の話である。
来週のことを今いくら話してもやることが増えるだけなのでとりあえず今関係あることを進めることとした。
部屋の中心にあるテーブルを囲い我が家の家族4名が向かい合って座っている。
…ティアはまだアルを警戒しているので僕に抱かれたままだが。
「よし、じゃあこれから第1回家族会議を始める」
「「 おーーー 」」
盛り上げ係(アルとアジダハ)が速度の合わない拍手と共に何とも言えない音程の歓声を上げる。
それってもはや不協和音…。
「じゃあまずは議題を上げるか」
「なんじゃ会議というから何か決まっておるのかと思えば未定じゃったか」
「仕方がないだろう、本来ならこの会議自体予定外なんだから。家に住んでから数日で家族が増えるなんて誰が予想するか」
「まぁ…本来なら主とティア様の二人の生活じゃったからのう」
「そこに黒いトカゲと黒い女が迷い込んだんですね」
「何で真っ黒なんやろなぁ…」
今更ながらもう少しまともな人間はいなかったのでしょうか…神よ。
少し遠くを見ていた僕だがこのままでは話が進まないので強引に進めることとした。
「じゃあ今後の生活のために必要だと思ったものを言ってくれ。なにぶん僕とティアもここに住んで時間がまだ短いからな。何か必要だったらこの際付け加えておこうと思う」
全員「う~ん」と悩み始める。
そもそも僕は不老不死で実際にいるかと言われればいらないものの方が多いため参考にならないし。
ティアも正直まともな暮らしをするのは初めてだから何は欲しいとかはあまりないようだ。
そのときアジダハが手を上げる。
真っ直ぐにこちらを見る彼女の目は真剣そのもの。
どうやら彼女にとって何か必要なものがあったらしい。
つばを飲み込み彼女が口を開くのを待ち…そして、
「三角木馬を自室に!」
「お前一回休み」
真面目に考えた結果が大人の玩具なのかこいつ。
拒否られてしょんぼり顔のアジダハを放置していると今度はアルが挙手。
…が、その前の奴が前の奴だったのでついジト目で見てしまう。
「……夜用の玩具は禁止だぞ?」
「そ、そんなもの頼みません!」
全力で赤面して必死に否定するアル。
この様子を見るに我が家で一番穢れているのは黒竜のようです。
だったらこの話題は封印しよう。
今は頭の上に「?」を浮かべている娘が興味を持って聞いてきても返答できないし。
「じゃあなんだ?」
「さっき荷物を置きに行く際にこの家を一通り見て回りましたが…この家にはなければならないものが存在していません!」
「…なければならないもの?」
僕とアジダハが喉を鳴らし、いまいちピンと来ていないティアはぽけーと口を開いたまま対岸のアルを見ている。
どことなく漂う緊張感の流れに任せてアルが溜めていた息を吐いた。
「この家にないもの……それはお風呂です!」
自信満々にいうアル。
だが結局のところピンとこなかった三人衆は互いに顔を見合せ首を傾げるのだった。
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