第23話 勢いで増えていく家族たち
朝食の皿を小綺麗につみアジダハに手渡す。
受け取った彼女は「お粗末じゃ」と受け取って台所へと消えていった。
彼女に片づけを任せ僕は正面にいる我が家の新しい住人候補のアルヴィオン…本人のいう愛称アルに目線を向ける。
「一応言っておくが僕が許しても娘がお前に拒絶反応とか示したりしたら、うちには住めないからな」
「任せてくださいお姉さま!私朗らかな挨拶は得意ですよ!」
なんとも自信満々に胸を張るアル。
…人はこれをフラグと言うのではなかろうか?
「それにしてもいきなり僕の家に乗り込んでくるとはな」
「…迷惑でしたか?」
心配そうにこちらを伺うアル。
こういった表情もするんだな。
「迷惑は迷惑だが、これくらいなら別に気にするほどじゃない。ただこれくらい行動的なら今までも誰かの家に乗り込んだりしたことはありそうだなって」
「むむ、そんなに尻軽に見えますか私」
「それに関しては僕は何とも言えない。生憎研究一筋な人生なものでな」
「だったら私もいっしょです。世界征服一筋だったので」
…それは一緒では無いのでは?
ティーカップで口元を隠しながらそんなことを考えていたら、何やら向かい合っているアルが頬を少し赤くして口を開いた。
「…しょうがないじゃないですか…掛けられた魔術が解けても頭の中にお姉さまが浮かんでしまうんですから…」
…良くは分からないが少なくとも僕の掛けた魔術が原因のようだ。
意図してないとしてもアレを掛けたのは僕だしなぁ。
それに少なくとも純粋な好意を寄せられているのは分かる。
200年前に悪意を強く感じてからは、そう言うのと反対の感情には敏感になったのかもしれないな。
あまり慣れてもいないが寄せられる好意はそれほど悪い感じはしないからこそ、城で会った時ほど僕も警戒はしていないのだ。
「まぁなんにせよ…好意を向けられることは嫌じゃない。これからよろしくアル」
200年のブランクのある笑顔に最大限の親しみを込めて微笑む。
「……………………」
だが相手は顔を真っ赤にして俯いてしまった…。
……笑ってない?顔真っ赤にして笑っていないかい?
何とも言えない悲しい気持ちになりながら僕は笑顔を引っ込めてティーカップで再び口元を隠すのであった。
…と、そのとき寝室の扉を開けて我が家の可愛い妖精が姿を現した。
まだ起きたばかりの娘はフラフラしながら瞳をコシコシしている。
…可愛いなぁうちの娘は…。
そんなことを考えつつも席を立った僕はすっとアルの背中に周りツンツンと肩を叩いた。
「今の内だぞ」という意味を込めて。
それを「はっ!?」と感じ取ったアルが流麗な動作で娘の前に移動して先程自身がるといっていた朗らかな笑みで自己紹介を始めた。
「初めましてティアちゃん、私はアルヴィオン!好きな言葉は『独裁』、趣味は『殲滅』です。よろしくお願いしますね」
……とても朗らかな挨拶でとても個性的な愛殺をかますアル。
それは侵略者とかの挨拶では?
…ちなみにうちの娘の反応は…。
「………!……(ガタガタガタガタ!)」
狼に出会ったの兎の図。
眠気も吹っ飛んだ様子の我が娘は瞬時に僕の背後に隠れたあと、顔を僕の身体に当てて隠している。
怯えるうちの娘の頭を撫でて安心させながら向こうを見てみると、そこには灰色になりながら全身にひびが入って固まっているアルの姿がある。
…ファーストコンタクト失敗である。
そりゃあ戦争とかばっかしていたらコミュ手段も独特になるよね。
◆●◆●◆●◆●◆
――残念ながら人見知りを回避できなかったどころか警戒されてしまったアルは現在娘から牽制されている。
と言ってもこのままではアルに警戒した娘が朝食をとれないため仕方なく座っている僕に抱きかかえられている状態で席についている。
この状態ならギリギリ知らない人間が居ても大丈夫なので現在は我が家の家族が食卓に集合していた。
僕に抱かれたまま目の前に座っているアルをちょっぴり警戒しつつ朝食をとっているティア、向かいにはアルとアジダハが座って雑談をしている。
この二人は少し
「なるほどお主が噂の魔王か。いつか戦ってみようと思っておったのじゃ」
「そう言うあなたはお姉さまに負けて性奴隷になったという黒竜なんですね」
「そうじゃ」
「いや、否定しろ」
滑らかに誤解を与える返答に釘をさす。
このままではいつか僕に奴隷商人の疑いがかかりそうだ。
割り込みついでに僕は娘を撫でながらアルに質問を差し出すことにした。
「そういえばアル、魔王を急にやめて大丈夫だったのか?国の王がいきなり辞職して国から出ていいとは思えないんだが」
「ええ、それに関しては大丈夫でしたよ。むしろ涙を流して喜ばれたくらいです」
「…どういうこと?」
「いやぁ…私ってば魔王として暴虐の限りを尽くしていたので。国費は私のお小遣い、国民は暇つぶしの駒、戦争は気分気ままに」
「てへっ!」とウィンクをするアル。
そう言えば魔族は魔王の指示でそこかしこで戦争をしていたんだったな。
「はっきり言って私が魔王であることに不満を持っていない人なんていなかったんですよ。ただ逆らったら叩きのめしていたので誰も何も言えなかっただけで」
「……要するにどちらかというと喜ばれた、と…」
「そう言うことですね!」
本人は楽しそうではあるがおそらく振り回された魔族たちは大変だったであろう。
…今度魔族の国に行く機会があれば何か助けてあげてもいいかもしれない。
「…しかし喜ぶのとは別に内政や今後の国の方針を決めるものは不在になるじゃろう?それは問題なのではないのか?」
「いえ、大丈夫ですよ。次の魔王の座を妹に投げ渡しておきましたから。私と正反対で生真面目な妹ならきっとうまく纏めるでしょう」
「なればよいがの」
雑談に一区切りがついたそのとき、
『コンコンコン!』
扉をノックする音が聞こえる。
僕は立ち上が…ろうとして娘を抱いているのを思い出す。
仕方なしにアジダハに視線を送るとこちらの意思を汲み取ったアジダハが「うむ!」と立ち上がり扉を開ける。
扉を開けた先、そこにいたのは頭のに角の生えた男性。
――魔族の人間だった。
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