第8話 休題『彷徨えるエルフの旅路』

 私は深い森の国に産まれました。


 産まれたばかりの記憶は無いけど、形無く憶えている。


 私は産まれたその時から嫌われてた。


 乳母は悲鳴をあげ、産んだ女性は発狂し、辺りは怒号が飛び交う。


 それだけは確かだった。


 そうして産まれて記憶がはっきりしだした頃、私は小屋のような場所にいた。


 掃除もほとんどされてない誇りとカビの温床。


 でもそこに一人でいるのはまだ…平穏だった。


 たまに入ってくる他の人達に会うよりは。


『忌み子』


『穢らわしい』


『どうして産まれたの』


 様々な人達が思い思いに暴言を吐いていく。


 時々石も投げられた。


 頭に当たって血が出たこともあった。


でも誰も助けてくれないことは知っていました。


 だって私をですら会いに来たこともないもの。


 だから血を流しながら泣いていた。


 そんなことが100年続いたある日、急に大人達が騒ぎ出した。


 外で話している大人達の話を聞くにどうやら森の木々達が段々と育たなくなっているらしい。


 そしてその次の日、私は小汚ない小屋を追い出された。


『忌み子のせいだ!』


『悪魔を追い出せ!』


 誰もがそう言いました。


 私は何も知らないのに。


 私は何もしてないのに。


 国を追い出された私は念のためにと別の大陸に向かう船に乗せられました。


 船から降りた先はあまり憶えてない。


 どうしようもなく暗闇に包まれた心のまま、ただ足を動かしていました。


 気がついたら私は命のない砂漠に迷い込んでいて、そのまま砂の上に倒れたんです。


 …やっと終われる。


 そう思っていた気がする。


 でも。


 意外にも私はもう一度瞳を開いたんです。


 目覚めた場所は砂漠に変わりなかったけど、いつの間にか大きなオアシスがそこにあって…そして。


 そのオアシスの中にとても綺麗な女の人が水浴びをしていました。


 その人はエルフの金髪とは真逆の輝く銀髪を腰辺りまで伸ばしていて。


 まるで小屋にあった絵本の挿し絵のみたいな光景に心を奪われていたそのとき、


「…………!」


水浴びをしていた女の人がこっちに気がついた。


 水よりも蒼い瞳が私を真っ直ぐにに見ている。


「そこにそのまま食べられる果物があるから食べてくれ」


 どことなくぶっきらぼうに言われた言葉に視線を動かすと木葉の上に木の実がある。


 空腹だった私は一心不乱にそれを食べました。


 …今思うとちょっと恥ずかしいな。


 その後、助けてくれた魔術師の女の人に私のことを聞かれたから…私は話しました。


話しながら私はどうしよう無く悲しくなります。


悲しくて行き場のない私の心は涙を流しました。


 そんな私を魔術師の女の人は優しく抱き締めてくれました。


 今まで誰もそうしてくれなかったせいか、すごくその腕の中が暖かくて。


その後、魔術師の女の人…レスティオルゥさんに連れられて私は王様の前に一緒にいったんです。


「この子の名前は『レスティアラ』。僕の…娘だ」


 そしてレスティオルゥさんの口から出た言葉に驚いた。


 そう言ってくれた人は同族ですらいなかったから。


産んだ人ですら私を愛してはくれなかったから。


 でもこの人は違う。


 私の全てを知っても、

 私の全部を抱き締めてくれました。


 私を娘だといってくれました。


 だから私は、私の碧の瞳を見る蒼い瞳が…大好きです。


 だから今日も私は…、


「お母さん!」


 この世にたった一人しかいない大好きな言葉を口にします。

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