第9話不思議な能力とモデル美少女⑨
梨々香と校門の前で別れて、僕は家に帰った。
ちょうど自宅の前につくと、隣の家から瑞希が出てきたところだった。
「あ、真人」
「どっか行くの?」
瑞希は、恥ずかしそうに目を伏せた。
「瀬戸くんが、そこの公園にいるから、来てだって」
「そっか」
瑞希と司は、この前、付き合い始めた。司が告白し、瑞希がそれに応えたのだ。学校ではまだ知れ渡っていない交際だが、僕は、瑞希と司、両方からその報告を受けていた。
「じゃあ、ね」
瑞希は、僕の脇をすり抜け、足早に行ってしまった。
「ちょっと、待って」
僕は、振り返って瑞希を止める。
「なに?」
「本当に司のこと好きなの?」
それを聞いて、瑞希は、僕から目を逸らした。そうしたまま、彼女は黙っている。
付き合っているのだから、好きなら、好きと言えばいい。
でも、僕は瑞希が沈黙する理由を知っていた。
瑞希の頭の上。
そこには、何も浮かんでいなかった。
つまり、瑞希は誰のことも好きではなく、司にも特別な感情を抱いていないということだ。
司の頭上に「古川瑞希」という文字が浮かんでいるのを、僕は知っている。だから、司の気持ちに疑いはない。
僕のこの能力には、例外があるのかもしれない。その可能性について、僕は考えていた。頭上に浮かぶ名前はその人の好きな人だが、好きな人がいてもその人の頭上に名前が見えないことがある。
でも、この沈黙がすべてを物語っていた。
瑞希は、司のことが好きではない。
「どうなの?」
「好きだよ」
瑞希は、うつむきながら、小さい声で言った。
言葉で言うのは簡単だ。
「違う。瑞希は、司のこと好きじゃない」
瑞希は黙っている。
「教えて。なんで、好きじゃない司と付き合ってるの?」
「なんで?」
瑞希は、顔を上げて僕の目を見た。
「なんで、私が瀬戸くんのこと好きじゃないって、真人に言えるの?」
それは、答えられない。
僕には超能力がある。そんなことこの場で言ったら、馬鹿にしていると思われるだけだ。
「なんとなく。そんな気がしたから」
そう言うのが、精一杯だった。
「私の気持ち。ずっと気づかなかったくせに」
瑞希の右目からあごにかけて、すうっと筋が通った。
涙だ。
僕は、瑞希の涙を初めて見た。
僕は言葉が出なくなってしまった。そうすると、左目からも雫が落ちた。
風が吹いた。
その風が瑞希の髪を揺らすのと同時に、彼女は、僕に背中を向けた。
瑞希が目の前からいなくなってからも、僕はしばらく、その場に立ち尽くしていた。
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