第一話 神様というのは、得てして意地悪だ
僕達が高校に入学して、少しの時間が経った頃。
今でも世間をにぎわせている、とある出来事が起こった。
そしてその日を境に、世界は変わらざるを得なかった。
『これから私は、一人を選びたいと思います。そしてその者が、18歳の誕生日を迎えるまで見守ります。もし18歳になるまでに、その者が死んだ場合。その時は、この世界を滅ぼしましょう』
この神様からの言葉は、地球上にいた全ての人間の頭に、直接語りかけられた。
だからこそ、みんなすぐに神様の存在を信じた。
そして誰が選ばれるにしても、絶対に18歳になるまで守り抜くと誓った。
そんな人達にとって誤算だったのは、選ばれた人間が真織だった事だろう。
もしも神様が分かっていて選んだのだとしたら、とてつもない意地悪だと思う。
神様に選ばれた人間。
18歳になるまでには、あと一年と半年ほどかかる。
それは、短いほうなのかもしれない。
真織の事を少ししか知らない人は、あと少しだと希望を持っただろう。
真織の事をよく知っている人は、そんなに長くは無理だと絶望しただろう。
だって、彼女はどうしようもないぐらい死にたがりだからだ。
それはもう、すでに死んでいてもおかしくはないぐらいは。
それなのに何故、真織はまだ生きているのか。
その影には、幼なじみである僕の涙ぐましい努力がある。
きっと僕がいなければ、彼女は死んでいる。
そう言えるぐらいは、役に立っているはずだ。
「おはよう、守くん。ねえねえ、この死に方どう思う?」
「おはよう。朝からいきなり来たね。えーっと、どれどれ? 列車の前に飛び出して死ぬ? あははは駄目だよ真織ちゃん。列車を止めたら、とてつもない賠償金を払わなきゃいけないんだよ。そうなったら、お父さんやお母さんが大変でしょ」
「あらら、そっかあ。それじゃあ、別の死に方を探すとしよう!」
「そうしな。いつも通り、見つかったら僕に真っ先に教えてね」
毎朝、会ってすぐに行われる恒例の会話。
彼女が死ぬ方法を見つけてきて、それを僕に紹介する。
方法を聞いた僕は、緩くツッコミを入れて諦めてもらうのだ。
死にたがりのくせに、少しでも否定されれば簡単に諦めてくれる。
そのおかげで、今の彼女は生きているし世界は滅びずに済んでいる。
残り一年と半年。
彼女が死ぬのを諦めてくれるのが先か、僕がツッコミを入れるのが嫌になるのが先か。
それは分からない。
だけど世界をかけたやり取りは、案外緩やかにかわされていた。
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