世界の運命は幼なじみが握っているのに、死にたがりのせいで絶望しかない

瀬川

プロローグ 死にたがり彼女

 僕達がまだ、親に守られなければ生きていけないぐらい幼かった頃。

 二人で家を抜け出して、流星群を見に行った事がある。


 家の近くにあった公園に行けば、夜だから誰もいなかった。

 いけない事をしているのだけれど、何だか冒険しているみたいでワクワクしながら、公園の中にある丘へとのぼる。


「あるくの、つかれた。もうかえりたいよお」


「もうすこしだから、がんばって! いっしょに、おほしさまにおねがいしにいくんでしょ!」


「……うん、がんばる」


 丘への階段は、子供からしたら途方も無い位に長かった。

 だから何度も諦めそうになったけど、そのたびに幼なじみの真織が励ましてくれた。


 そうして、ようやく丘の上に着いた時には足が疲れていて、もう一歩も動けないと思うぐらいだった。

 でも、


「ほら、まもるくんみてっ! おほしさまがいっぱいだよ!」


「! うわあ! ほんとうだあっ!」


 真織が指した先にあった、たくさんの星にそんな気持ちはすぐに吹っ飛ぶ。

 僕はたまに流れていく星を、掴むために手を上に伸ばして走った。

 星が掴めるわけが無いと今では分かるけど、その当時は手に入ると普通に信じていた。


「おほしさま、つかめないや。……あれ? まおりちゃん、なにをしているの?」


「んー。ねがいごとだよっ」


 結局、掴めないまま諦めた僕は、真織ちゃんが目を閉じて手を組んでいるのを見つけて近寄る。

 横に座って何をしているのかと聞くと、目を開けた彼女は無邪気に微笑んだ。


「ながれぼしにおねがいしたら、かなうんだってママがいってたの!」


「そうなんだ! ぼくもおねがいしよっ」


 お願いをすれば叶う。

 そんな都市伝説みたいな話を、子供の頃の僕はすっかりと信じてしまった。

 だから真織の真似をして、目を閉じて願い事をした。


『まおりちゃんと、ずっといっしょにいられるように』


 目を開けた僕は、隣りにいる彼女に聞いた。


「ねえ、まおりちゃんはなにをおねがいしたの?」


 ただ単純に、特に何も考えずに聞いただけだった。

 どんな答えが来ても、笑って受け入れられるはずだった。


「えーっとね、しぬときはくるしまないでしねますようにって!」


 でも、予想の斜め上をいっていて。

 その時の僕は、何て返したのか分からない。

 それから、どうやって丘から帰って、何を話していたのかも覚えていなかった。



 ただ、今でも思う事は一つだけだ。

 真織はこの頃から、死にたがっていたのか。

 まだ分からない事が多い年齢なのに、苦しまないで死ぬのを願うなんて。

 一体、どんな子供だ。


 だから、僕が彼女を守るしかない。

 昔の事を色々と覚えていなくても、その気持ちだけは昔から変わらなかった。




 死にたがりの彼女を、僕が死なせない。

 それが、今の僕の目標である。

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