第66話 化け猫の皮がそろそろ

 俺の船を含めた艦隊は、通常は開かれないミリタリーという軍事専用モードになった転送ゲートに飛び込んだ。

 一般用と違い振動などもなく、機械が故障する事もほとんどない。

 これは、民間船と違って故障すると、とんでもない事態を引き起こす可能性があるからだった。

「……ねえ、私ってどこに連行中?」

 操縦席のシートで俺を抱きかかえ、エリーナが震えていた。

「うむ、ただ今SALで移動中だ、問題ない」

「SAL?」

「……」

 ……ネタがあまりに古い上に分かりにくいので、若いエリーナには全く通じなかった。

「うむ、ネタが滑ったというヤツだな。実に愉快だ」

「……冗談聞く余裕ないよ。ヤケに転送時間が長いし」

 俺は笑った。

「ちと遠いのでな。サム、境界ライン突破のアレは?」

『おう、ちゃんとアレってあるぜ!!』

「アレってなんだよ!?」

 エリーナが元気になった。

 同時にコンと衝撃があった。

「よし、通過した。たまにボケるからな」

『もし、ボケてたら全滅だったぜ!!』

「……死地を越えたっぽいな」

 エリーナがため息を吐いた。

「さて、俺はいいがエリーナがこの格好ではまずい。仮眠室のクローゼットに、通販で買った野郎がある。すぐ分かるから、着替えてこい。ある意味、馴染みがあるのでは?」

「ちょっと待て、私の服なんていつ買ったの。サイズとか!?」

『おう、バッチリだぜ。管理AIナメるなよ。スリーサイズ……』

「やめろ、ボケ!!」

 エリーナが俺をみた。

「そろそろ、なんか教えてよ!!」

「うむ、ここはお馴染み西側宙域ではない。ようこそ、東側へ」

 俺は笑みを浮かべた。

「ひ、東!?」

 エリーナがまともに青くなった。

「馬鹿野郎、アルガディアの王妃がノコノコ東にいったら、そこらをウヨウヨしているG13みたいな野郎に瞬殺されるぞ!!

「うむ、ゴキブリが十三匹いるからどうしたのだ。全部、叩きのめしてくるぞ。猫的にそういうのは好きだ」

「馬鹿野郎、猛烈に怒られるぞ!!」

 俺は笑った。

「いいから着替えてこい。そろそろ、転送ゲートから出てしまうぞ」

「わ、分かったけど……短い人生だったな」

 エリーナがシートを立った。

 しばらくして戻ってくると、イタズラ娘みたいな服装が軽くではあったがドレスに替わっていた。

「……あのさ、こういうの着ちゃうと肩凝っちゃうよ?」

「最低でもそれでないと困る。ちなみに、ウミクロで買ったのだが……」

 エリーナが俺を睨んだ。

「あえていうぞ。王妃にどうやって売っていたのか知らないけど、ウミクロの通販で買ったドレスを着せるな!!」

「うむ、なにか温かい生地らしい。値段も手頃だしな」

『馬鹿野郎、こういう時に値段を気にするな!!』

 サムの怒鳴り声と共に、艦隊は通常空間に飛び出た。


「うわ、マジで東側だぞここ。宙図がみたことない野郎になってる!?」

 俺はここにきて、公開情報を全てオープンにした。

「いや、すまん。西に知られてはマジでヤバい極秘ルートだったのでな」

「うぉい、君は何者なんだよ!?」

 エリーナに笑みを返し、俺は秘匿回線を開いた。

「ウイズリー・ナイトより、関係各所へ。急なスケジュールで申し訳ない。助手だと思って気楽に乗せていたら、実はなんか結構賓客っぽい。至急、受け入れ体勢と最大級の警備体制を敷け。そうだ、いつもの気まぐれだ。問題ないだろう。よろしく頼む」

「な、なんだよ、その助手だと思っていたら実はなんか結構賓客っぽいって。あり得ねぇだろ!!」

「うむ、あり得たではないか。俺は、エリーナの事を最初はただの妙な客としか思っていなかったぞ」

 怒鳴るエリーナに、俺は笑った。

「し、知り合ってから、どれだけ経ってるんだよ。今さら、賓客とかいうな!!」

『……っていうかよ、今の通信で動くヤツも馬鹿野郎だよな!!』

 艦隊が進む先に、緑が中心の星が見えてきた。

「うむ、エラン共和国首都惑星、エラン・ガルドだ。綺麗なもんだろう?」

「そ、それどころじゃねぇよ。私をどこに連れていくんだよ!!」

 俺は正面スクリーンを指差した。

「あそこ」

「一言で済ませるな。マジで私なんか、速攻で捕まるから!!」

 エリーナが俺を抱きかかえた。

「うむ、馬鹿野郎か。捕まるわけがないだろう。エリーナは……おい、国賓にしろ」

『なにそれ……いいけどよ。もう、先読みして連絡してあるよ!!』

 エリーナが携帯端末の角で、俺の頭をぶん殴った。

「君の一言で、いきなり国賓ってなんだよ。準備大変なんだぞ、知らないだろ!!」

「うむ、知っているぞ。だか、エラン共和国ではこれが普通だ。到着の二十分くらい前までに連絡すれば、、基本的な準備は速攻で整えられる体制だからな。まあ、メシが宅配ピザになってしまうのは、致し方ないが」

『ったく、どうしょうもねぇ国だぜ。国賓にピザ食わせるんだからよ!!』

「しょうがないだろ。絶対的に時間がないのだから。寿司でも釜飯でもいいが、俺はピザが好きだ。ちなみに、ハーフアンドハーフとかクォーターなんかは、ちょっとお得感があるぞ。もちろん、各種クーポンもあるが、ちゃんと使っただろうな」

 エリーナがまた携帯端末の角で俺をぶん殴った。

「コラ待て、どんな国だよ!!」

「うむ、こんな国だ。問題ないだろう」

 俺は心の底から笑った。

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