第65話 迷惑な買い物と、一気に転送

 新年サプライズ航海を続ける俺の船は、護衛艦隊に囲まれて退屈な航海を続けていた。

 勘が鋭いエリーナがあらゆる手段で情報を集めようとしているが、こっそり色々ロックしたため、全く欲しい情報が入らず引きつった笑みを浮かべながら、ついには俺を必死に抱きかかえていた。

 ラグドールは抱き猫。まさに、抱き猫冥利に尽きるとはこの事だった。

「エリーナ、暇ならなんだ……雑煮でも食おう」

「……そ、そんな気分じゃない。全神経が警戒信号を出してるもん!!」

 片時も俺を離さないエリーナが、操縦席のシートで固まっていた。

「なんの警戒信号だ。この艦隊に手出しする馬鹿はいないと思うが?」

「だからだよ。なんで、こんなポンコツ貨物船に護衛がつくんだよ!!」

 俺はこっそり隠してある秘匿回線を開いた。

「ウイズリー・ナイトより、ホープ・スター。腹が減った、コンビニに寄る。艦隊の隊形を維持し、これより送る航法データに従え。なお、各艦乗員は必ずドッキング・ポートの利用料が無料になる程度にお買い上げするように。特に頭にナが付くカードを忘れるな。アプリと連携していない乗員は、ドッキングまでに処理を済ませておくように。以上」

『ここにきて、超絶セコいんだよ。アプリまで出しやがって!!』

 サムが怒鳴った。

「うむ、大事だぞ。ポイントがもらえる」

『全員でやる事ねぇだろ!!』

 エリーナが俺を床に投げ落とした。

「なに意味不明なコールサイン使ってるんだよ。なんか、ヤバい感じしかしねぇ!!」

「うむ、コンビニに寄るだけだ。腹減っただろ?」

 艦隊は程なく見えてきたコンビニに接近していった。

『ホープ・スターよりウイズリー・ナイト。複数の他船が買い物のためオート誘導中につき、ドッキング・ポートが不足の模様』

「うむ、やむを得んな。各艦戦闘配置、やる事は分かっているな」

『ラジャー、各艦戦闘配置。目標数、六。攻撃システム、ターゲットロックオン。各艦一斉砲撃開始』

 俺は頷いた。

「お、おい、待ってろよ。撃沈する事ないじゃん!!」

「うむ、俺は待つのが嫌いだ。なにより、欲しいものが買われてしまったら困ってしまうだろう」

 エリーナが俺を抱きかかえた。

「いい子だから落ち着きなさい。私がなんか買ってあげるからね。だから、攻撃を止めなさい」

 エリーナが俺を撫でたとき、無線ががなった。

『ホープ・スターよりウイズリー・ナイト。全目標撃沈を確認。これより、各艦コンビニへのドッキングを開始します』

 エリーナがため息を吐いた。

「……知ってたよ。あのタイミングじゃもう止められないって。なんて怖いニャンコだよ」

「俺もこの船もなにもしていない。なにも問題ないから、買い物にいくぞ」

 エリーナが俺の顔に顔を擦りつけた。

「いい子だから、もうじっとしてなさい。おでんの玉子食べさせてあげるから」

「なぜ、俺には玉子しか食わせてくれないのだ。宗教的理由か?」

 こればかりは、どうにも分からない謎だった。


 考えてみればかなりの人数になるわけで、狭いコンビニはパンクしそうになった。

 それでもエリーナが蹴り倒しながら駆け回り、そこそこの食料を調達した。

 しかし、誤算が起きた。おでんの玉子がない……。

「馬鹿野郎、このニャンコがブチキレて暴れちまうだろうが!!」

「……いや、むしろありがたいが」

 とまあ、結局コンビニを空にした俺たちは、再び退屈な航海を開始した。

「さて、まずは転送ゲートだな。この船の真価みたいか?」

 俺はエリーナに笑みを送った。

「なに、真価って?」

 それには答えず、俺は秘匿回線を開いた。

「こちらウイズリー・ナイト。各艦、転送に備え準備せよ。コード、五十六万九十八-A設定確認。用途、ミリタリー。各艦、本来の識別コードに戻せ」

『こっちもいいぜ。違法だが船籍コードを打ち替えたし、それなりの認識信号も出してるぜ。ったく、面倒だぜ!!』

 サムがぼやいた

「ちょっと待って、どこの出口よ。そんなコード聞いた事ないし、通航目的がミリタリーって軍用!?」

 俺は頷いた。

「まあ、特殊な場合にしか使えないやり方だ。軍用の秘匿転送ゲートだから、民間船のままではダメなのだ。この船は艦隊の一部として、どっかの国の輸送艦に変化ってわけだ。それに、今護衛に付いてる戦闘艦、いったいどこにいたのかねぇ」

 エリーナがハッとした。

「そういやそうだ。こんなのがいたら、すぐに探知されるぞ!?」

「国家機密だから教えない!!」

 俺はどっか余所をみた。

「ちょと待て、国家機密っていいやがったな!?」

「……僕、そんな事いってないよ」

 俺は真っ直ぐエリーナをみた。

「……馬鹿野郎、騙されそうになったぞ。テメェ、マジ何者だよ!?」

 エリーナが床から俺を掴み上げて睨んだ。

「……僕、子供だから分からないよ」

「こ、この野郎!!」

 エリーナが俺をぶん投げようとしてやめた。

「猫は可愛い……」

「うむ、猫好きは好ましいな」

 俺は笑みを浮かべた。

「これが、ミリタリーモードで許可が出た転送ゲートだ。この数、一気に転送出来るからな」

「……それは知ってるぞ。どこにいたと思ってる」

 エリーナがため息を吐き、艦隊ごと纏めて俺たちは転送ゲートに飛び込んだ。

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