第64話 主に一名だけ、緊迫の年始
ファルカジアでの仕事は順調だった。
危険物は運搬出来ないが、それ以外の雑多なものはほぼ独占状態でやっているので、ウハウハとはいわないまでも、田舎で細々やってるよりは遙かに稼げていた。
さて、鉱山の採掘も無休でやっているわけではない。
標準時で年が変わる時くらいは一週間ほど休むのが普通で、その間はファルカジア発の荷物もストップだった。
「さて、休みだな。たまには、うちに帰るか」
船を港から発進させ、大気圏外に向かいながら俺はいった。
「……おかしい。田舎の貨物屋経営とは出るけど、逆にそれ以外のデータがなさ過ぎる。あの星の家庭で大事にされていたのは分かるけど、例の事故でそれが失われたあとの経過が全く出ない。まるで、消えちゃったみたいに……」
俺の何かに興味を持ってしまったエリーナが、携帯端末片手に暇があれば俺の経歴を調べていた。
「なんだ、そこまで気になるのか。そもそも、おかしいと思わないか。なんで、あんな星に俺みたいな変な猫がいたか。二足歩行で喋ってボロいが魔法まで使う猫だぞ」
俺は笑った。
「……確かに変だね。そもそも、そんな猫がそうそういるわけがないよ。それが、なんであんなどうでもいい星に」
エリーナが携帯端末を、ぶっ壊れそうな勢いで操作していた。
俺は神経インターフェースに手を乗せ、航法システムに進路を入力した。
「サム、表示するなよ」
『なんだ、気変わりか。知らねぇからな、エリーナがチビっても!!』
俺は笑った。
「ど、どこ行くの!?」
「うん、年始だからな。数年ぶりに帰ってやろうって思っただけだ。俺に首輪をつけたヤツの紹介も兼ねてな」
俺は笑った。
「ちょっと遠いかな。標準時で三日もあれば着くと思うが」
「だ、だから、どこ行くの!?」
俺はただ笑った。
「な、なんで、航法データも取れないの!?」
『おう、そうしてるからだぜ。その方が楽しいだろ!!』
コンソールパネル相手にバタバタしているエリーナに笑うと、俺は船の認識コードを特殊なものに設定した。
しばらくすると、レーダー画面に複数の反応が出た。
「やはり、この辺りにはいたか。これはいい、退屈だが楽な航海になる」
「レーダーに反応、数は十。船籍コードも認識コードも出してないけど、敵対行為とは思えないな」
やや遅れてエリーナが気がついた。
「ああ、気にしなくていい。ただの護衛だ。全く、つまらん航海だな」
「ご、護衛!?」
エリーナの顔が引きつった。
「……き、君、何者?」
「うん、ただの猫だ。なぜか、護衛が付いてしまう変な野郎に過ぎん。アガルダ級高速重巡洋艦だ。最新ではないが、なにかぶっ壊す能力はそれなりにある。まあ、趣味じゃないな」
俺は笑みを浮かべた。
「あ、アガルダ級っていったら、東の覇者の異名を持つエラン共和国でしか使われていないぞ。西地域じゃ滅多にみないのに……」
「どこかで、中古で買ったんじゃないか。猫の護衛なんてそんなもんだろう」
俺は笑った。
「……おいおい、中古で売ってるようなポンコツじゃねぇぞ。そもそも、西地域に流れてくるわけがないだろ。東と西は厳しい検問と防護システムで仕切られているんだからさ。王妃をナメるな!!」
俺は笑った。
「その西の覇者とも言えるアルガディアの王妃様が、俺に首輪を付けてまで追いかけ回してしまったわけか。これほど愉快な事は、早々ないぞ」
『しーらね、主にエリーナが。無事の帰還を祈る!!』
俺はシートの背もたれに身を預け目を閉じた。
「……ま、待て、すでに嫌な予感全開だぞ。な、なんだよ、教えろよ!!」
冷や汗を掻いたエリーナが叫んだが、俺もサムもわざと答えなかった。
これは面白い。
そろそろ仕掛けてみたかった、ちょっとしたサプライズだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます