第63話 裏がありそうな猫
まあ、なんだかんだゴタゴタしたが、三日ほどで俺は操縦席に座れる程度には回復した。
オードレスの周回軌道で待機状態だったらしい船をファルカジアに戻すべく、俺は船を最大航行速度で動かした。
なにか申し訳なさそうなエリーナは、静かに自分のシートに座っていた。
「助手、ファルカジアではなんていってる?」
俺が声を掛けると、エリーナが飛び上がった。
「じょ、助手!?」
「違うのか?」
俺は笑みを浮かべた。
「そ、そう……ありがとう。ファルカジアでは、君が負傷したって大騒ぎだよ。そんなに有名なの?」
俺は笑った。
「さぁな、俺はどこにでもいる、ただの猫だと思うが」
「……いねぇよ、こんなの」
船は最高速度でファルカジア目指して航行し、正面スクリーンにその遠景がみえてきた。
「さて、しばらくここで稼ぐぞ。運ぶものが多そうだ」
「報酬の交渉は任せて。君がこんな目に遭ったんだぞ、並大抵の金額じゃ契約しないからね」
エリーナがさっそく携帯端末を手にした。
「あまり絞り取るなよ。限度を知らんからな」
近づいてきたファルカジアへの進入経路に船を乗せながら、俺は笑った。
「あ、あれ、なにもいってないのに、向こうからすげぇ金額を提示してきたぞ。『迷惑料込み』ってなに?」
「さぁな、なんか迷惑かけられたかな?」
俺は手順通り、メインエンジンを停止して慣性航行に切り替えた。
エリーナの顔が引きつった。
「……ねぇ、君ってなんか凄い猫?」
「さぁ、そんなもんに取れない首輪付けてしまったぞ。俺は、知らないらな。エリーナ様?」
俺は小さく笑った。
「ちょ、ちょっと待って。ちゃんと調べる!!」
エリーナが携帯端末を操作し始めた。
「なにか、分かるといいな。さて、港へ下りる準備だ。助手が忙しいから、サム、頼んだ」
『あーあ……まあ、人生こんな事もあるな。誰も予想するわけねぇもん。オートモードで降下開始』
「な、なに、なんでどこの国の諜報機関のデータベースでも最高レベルのセキュリティなの。さすがにこうなると、私でも入れないんだけど!?」
エリーナ叫ぶ中、俺は笑った。
港に到着すると、オヤジが携帯端末を持って駆け寄ってきた。
「うむ、早いな」
俺は画面を確認し、肉球を押し付けた。
「これで問題ない。安心しろ」
オヤジは安堵の息を吐いて、離れていった。
そして、別のオヤジがやってきて、仕事の打ち合わせが始まった。
「ちょ、ちょっと待った。打ち合わせはいいけど、その前の儀式はなに!?」
冷や汗を掻いているエリーナに、俺は笑みをだけを返した。
「さて、ひたすら掘削機材運搬だな。面白みはないが、金にはなる。ガンガンやって、とっとと片付けよう」
「な、なんか、怖いニャンコだった!?」
エリーナの肩に俺は飛び乗った。
「いい子にしてれば問題ない。分かったか?」
エリーナはコクコクと頷いた。
「ならいい、ひたすらピストン輸送だ。積み込みが終わったら、またいくぞ」
「……う、うん、可愛いけど怖い。素敵かも」
エリーナが俺を抱きかかえた。
「心配するな。お前にはなにもみせん。そこらにいる猫だ」
「……見たいけどな。ダメ?」
俺は笑みを浮かべた。
「見せられない事もあるのさ。残念だがな」
エリーナが笑った。
「ったく、変な猫だとは思ったけどね。私以上におかしかったぞ!!」
「なに、大したことじゃない」
俺はエリーナに抱えられたまま、船にコンテナが積まれて行く様子を眺めていたのだった。
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