第62話 社長の後始末
密やかに隠し持っていた牙を剥いたエリーナが動いた結果、大国を誇示するように宇宙中に展開されていたアルガディアの大艦隊は、同時多発航法システムの故障という常識ではあり得ない事故で、あらゆる船が絶対に近寄ってはならないとされるポイントに吸い寄せられるように接近しているらしい。
完全に焼き切れた様子のエリーナは何か言って聞く状態ではない。
俺は腕の通信機のチャンネルを合わせた。
「俺だ。異常航行中のアルガディア全艦隊のシステムをハックしろ。元々が不正操作だ。まともに戻してやれ」
俺は通信を切り、素知らぬ顔で丸くなった。
「全く、手間がかかる従業員だ。実に愉快だがな」
しばらくして、エリーナが仮眠室にすっ飛んできた。
「おかしい、纏めて墓場にブチ込んでやる予定だったアルガディアの全艦隊が、ほぼ一瞬でまともになった。なんかやっただろ!!」
俺は目を閉じ、なにも答えなかった。
「……絶対、狸寝入りしてる。おい、なんかいえ!!」
「にゃ~お!!」
俺は目を閉じたまま一声いって、ベッドの下に潜り込んだ。
「な、なにその行動。怖いの!?」
俺はなにもいわず、静かにベッドの下に籠もった。
「ご、ごめん、怖がらせるつもりはなかったんだって。いいから出てきて!!」
エリーナが焦って、ベッドをバタバタした。
「あ、謝るから、出てきてよ!!」
俺はベッドの下から出た。
瞬間、エリーナが俺を抱きかかえた。
「だって、君は一回死んだ身だぞ。そりゃ怒るでしょ!?」
「……だからって、派手にやり過ぎだぞ。あんなことしたら、お前の国がなくなる。俺を大事に思ってくれるなら、嫌がる事を考えて欲しい」
エリーナは俺を強く抱きしめた。
「ごめんなさい……」
「分かればいい。全く、社長ってのも大変だからお前がやるか。俺は飼い猫でいいぞ」
俺は笑った。
「それはダメ。絶対、ダメ!!」
「だったら、いい子にしてくれよ。頼りにしているのだからな」
エリーナが頷いた。
「それにしても、なかなか傷が痛い。これ、かかる?」
「……致命傷だったんだぞ、簡単に治るか!!」
エリーナが呪文を唱えた。
傷口で小爆発が起き、俺の意識は一瞬飛んだ。
「ああ!?」
「ゆ、愉快なヤツだ……」
俺は根性で意識を支え、小さく笑みを浮かべた。
「だ、ダメだ、落ち着かないと!!」
「やっと、気がついたか……」
俺はエリーナに身を預け、そっと目を閉じた。
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