第61話 ブチキレなエリーナ
どうにもならないものは、どうにもならないものだ。
イライラしても始まらないので、おれは仮眠室のベッドの上で丸くなっていた。
しかし、怪我をすると相応に痛い。当たり前だった。
「なにをしているのやら。船の振動から考えて、大気圏上縁部を掠めているな。航行というには、星に近すぎるが……」
しかし、俺が分かる情報はそれだけだった。
「この際俺がなにか言える立場じゃないが、頼むからムチャはするなよ。ただのオンボロ貨物船なんだからな」
延々とそんな時間が続き、エリーナが仮眠室にやってきた。
「『アーリー』の力をナメるなよってね。邪魔な艦隊は私が根こそぎ粉砕したし、禁止されている転移魔法全開で、うちの星に移住させておいた連中を全員投入して地上の馬鹿野郎どもを全て掃討した。機械が生み出す疑似魔法に、生粋の魔法が太刀打ち出来るかっての。このくらいで勘弁してくれる?」
エリーナがベッドに座り、俺を膝に乗せた。
「まんま戦争ではないか。気に入らん!!」
俺はエリーナの腕を噛んだ。
それに嫌な顔もせず、エリーナは俺の背を撫でた。
「……いや、すまん。イライラしていたせいだ。そのくらいにしておいてやってくれ、ここまでやってしまうと、さすがに俺も無邪気に喜べん」
エリーナは俺を抱きかかえた。
「他にもありったけの情報戦を仕掛けて、アルガディア艦隊の指揮系統をメチャメチャにしてやったから。さらに、航海図AD-9087ポイントに何があるか知ってる?」
「それは、当然知っているが……」
「アガスティア全艦船の航法システムが故障って、なんかレアな現象が起きたらしくて。一斉にそこに向かってるっぽいよ。悲鳴みたいな無線が凄いから切っちゃった!!」
エリーナがゾッとするほど冷たい目をした。
「……私を本気にさせるとどうなるか、身をもって経験するがいいよ」
「よ、よせ、やりすぎ……」
エリーナは勝手に俺に付けた首輪を軽く引っ張った。
「猫らしく、ただにゃ~おとでもいっとけ。今の私は、人生を振り返っても過去最大級に機嫌が悪いから」
冷たい光を帯びたエリーナの目が、小さな笑みを浮かべた。
「……頼むから落ち着け。なにやってるのか、分かってるのか!?」
「極めて冷静だよ。冷酷かもしれないけどね。だから、諦めてくれるかなって思って首輪付けといたんだ、逃げないようにってね」
エリーナは笑みを浮かべた。
「見せたくなかったんだ、こういう一面は。だけど、これだけは許せない」
エリーナは呪文を唱え、俺の傷が少し回復した。
「危なかったっていったけど。実は一回死んでるんだぞ。でも、到底そんなの受け入れられないから、迷わず禁術中の禁術である『蘇生』をした。これ、成功格率がもの凄く低いんだけど、なんとか君を勝ち取ったよ。そこまでさせたんだ、報いは受けてもらうよ。悪いとも思わない。君が嫌でもその首輪を付けてる限りは逃がさないぞ。まさか、ただの輪っかだと思ってないだろ。厄介なのに捕まっちまったな」
エリーナは俺をベッドに戻した。
「君を虐待してるみたいだな。だけど、私もかなりの我が儘でさ」
「……分かってる。王妃なんて、みんなそんなもんじゃないのか?」
俺は小さくため息を吐き、笑った。
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