第60話 ギリギリ

 全く、もっと警戒するべきだった。

 こんな炭鉱惑星で最終的な網を張られているとは思わず、しかもエリーナを連れ帰りにきたのかと思ったら、どうも俺を狙って大人数で追いかけ回しているらしい。

 銃撃で受けた背中の傷は、舐めておけば治る程度の軽症のようだが、腹を抉った一撃はそれなりに深いようで、動くたびになかなか痛かった。

「サムは一本道とかいってたが、だからといって、どう考えたって徒歩で行ける距離ではないな」

 本能的な直感で横に跳んで避けると、追尾してくる無人機がミサイルでも撃ったのだろう。

 派手に地面が爆ぜ、爆音が轟いた。

「陸と空か。逃げろっていう方が、難しいと思うのだがな」

 俺は四足走行でひたすら道を駆け抜け、時々食らう無人機の攻撃を避け、俺はひらすら道を走った。

「全く、猫にミサイルをブチ込むな。当たると思ってるのか。ナメられたもんだな」

 俺が笑みを浮かべた時、弾かれたような衝撃と共に吹っ飛ばされた。

「な……なんだ……」

 それが、狙撃だと理解するのにしばらく掛かった。

 どこに当たってどの程度の傷かなど、考えたくなかった。

 動けない。それだけで、十分だった。

「遠すぎるんだよ……」

 波打つような意識のなかで、いきなり見覚えのある船が下りてきた。

 飛び出したエリーナが、どこから持ってきたのかまともな銃を構え、周囲を牽制しながら俺を抱えて船に飛び乗った。

 緊急上昇モードのぶっ壊れそうな重力制御装置の音が響く中、船の床に俺を寝かせたエリーナが手早く診た。

「……まずい。間に合うか」

 呟き呪文を唱え、俺の体が青く光った。

「ごめんね。ちゃんと調査していれば……」

 俺に回復魔法を掛けながら、エリーナが泣き始めた。

「……やる事はやってる。ダメならダメだ」

 俺は小さく笑みを浮かべた。


「よかった、落ち着いた。もう大丈夫だと思う。しばらく、お喋りも動くのも禁止!!」

 エリーナは俺を仮眠室のベッドに乗せた。

「……本気でブチキレたから。やるだけの事をやってくる」

 エリーナは仮眠室から出ていった。

 俺は苦笑して、どさくさに紛れてエリーナが付けていった首輪を突いた。

「……せめて、ピンクはないだろう。イテテ」

 もう傷はほとんどないが、体によく助かったなという派手な傷がまだ残っていた。

「……5.56ミリか。俺も鈍ったな……イテテ」

 船が今どこにいるのかも分からないし、状況も全く分からないが、今の俺は操縦席に座れるコンディションではない。

 これが最大のストレスである。

 果たして、エリーナは気がついているだろうか。

 まあ、生きていただけマシ。そんな感じだった。

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