第56話 仕事らしい仕事
あえていわなかったエリーナのミスにより、当初の仕事だった反作用爆弾の輸送などという危険な仕事は、やりたくても出来なくなった。
しかし、大鉱山の星ことオードレスには、そんなもの以外にも大量の物資や機材輸送という地味な仕事が山ほどあった。
場所がらコストが掛かるわりに儲けにならないので、なかなか請け負う輸送船がいないのだが、そこにちょうど舞い込んだのが俺たちだった。
「コンテナの積載は完了したな?」
『問題ねぇ。掘削用ドリルビットって、結構重いんだな!!』
俺はコンソールパネルをみて、積載重量を確認した。
「問題ない。さて、ガンガン稼ぐぞ。他にほとんど一般の貨物屋がいないから、いくらでも稼げるぞ」
「……はぁ、とんだ計算違いだったよ。派手に稼ごうかなって、欲かいたのが失敗だったな」
エリーナがため息をを吐いた。
「なにをいう。これこそが重要な仕事なのだ。爆弾ばかり運んでどうする。こういう地味な仕事が、俺たちのやるべき事だ」
重力制御システムが甲高い音を立て、俺たちは港を離れた。
「荷崩れに気を付けろ。重いから簡単にバランスを崩すぞ」
『誰にいってるんだよ。カーゴルームの貨物拘束システムは正常だ。派手に揺すったって崩れねえよ!!』
エリーナがコンソールパネルの画面をみた。
「そうだね。問題ないよ」
俺は笑みを浮かべた。
「どうかな。大気圏外に出た辺りで、何かが起こるかもな」
「どういうこと?」
エリーナには答えず、俺は神経インターフェースに手を乗せた。
「さて、バランス調整だ。ここは、勘というやつだな」
船がファルカジアの大気圏を飛び出し、重力が減るに連れカーゴルームのアラームが鳴るようになった。
「な、なにが!?」
「なに、問題ない。地上の積載重量で船のバランスを調整していたものを、無重力仕様に変更しただけだ。このさじ加減は勘だな」
エリーナがコンソールの画面をみた。
「もの凄い左重心だよ。ひっくり返るレベルで……」
「うむ、これでベストかな。なかなか、面倒な積み荷ではあるな」
俺は船のメインエンジンを始動した。
「ちなみに、速度によってもバランスが変わる。この調整の繰り返しが、貨物船の航行だ。メインエンジン、フルパワー」
船が蹴飛ばされたように加速して、同時に俺は前後の重心であるトリムバランスを調整し、さらに左バランスに調整した。
しかし、船はごく普通に航行を続け、なにもしていないかのように平穏だった。
「……このニャンコ。半端ない」
エリーナが呟いた。
「なに、俺だって何隻船をひっくり返してお釈迦にしたかな。お陰で少しは上手くなったか。まあ、メンテの腕は上がらなかったがな」
俺は笑った。
「……事故で居場所をなくしたあと、たまたま父親が経営していた小さな輸送会社にいったもののど素人の猫についていく社員などいるわけもなく、会社は当然のごとく解散。猫で恐らく初の免許を取得後、残された船を潰しながら体で操作を覚え、これを潰したら諦めようと思っていたのがこの船。気合いと根性が違うか」
エリーナが苦笑した。
「昔の話だな、今は関係ない。弄りすぎて、全く別物の船になってしまったしな。まあ、速いだけのポンコツだ」
俺は小さく笑った。
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