第55話 凡ミスで赤っ恥
仕事先のファルカジアに降下直前、目的の港周辺で積み荷である反作用爆弾の暴発事故が発生した。
しかし、そんな事は気にせず半壊した港に着陸し、エリーナは仕事の依頼主に会うために船を下りた。
まあ、エリーナはいつまでもこんなボロ船の副操縦士席に座っていていい人間ではない。
ちょうどよくお迎えの連中も見当違いの港に待機しているようだし、俺は文章でその馬鹿野郎どもにメッセージを送信した。
「さて、長かったがこれでエリーナを送り届けるという仕事は終わるな」
『そうでもねぇな、通信システムがロックされてる。メインシステムも起動出来ねぇ。ちゃんと鍵掛けていったぜ。お前の考えなんざ、お見通しってヤツだな!!』
俺は小さく笑った。
「やってくれるな。サム、サブBに切り替えろ。これには、さすがに気がついていないだろう」
『ヘイヘイ、サブB系統に切り替えたぜ。全システム正常稼働、ハッチ閉鎖。重力制御装置作動……あれ?』
「なんだ?」
『うわ、すっげぇ原始的な方法で止めやがった。重力制御装置の制御コネクタを引っこ抜いてからいったぜ。これじゃ、起動しねぇ!!』
「うむ、分かりやすい方法だな。機械がないと俺じゃ直せないし、地味な事をするな」
俺が笑みを浮かべた時、背後から手が伸びてシートから引っこ抜かれた。
「おい、置いてきぼりにしてどっかいこうとしただろ。そう簡単には逃がさないぞ!!」
エリーナが小さく笑って俺を抱きかかえた。
「甘いんだな。サブD系統までるのは、当然分かってる。あえて、残しておいただけだぞ!!」
俺は笑った。
「甘いな、サブΩ系統もあるのだ。これは、疲れるからまずやらんが」
「疲れる?」
俺は笑みを浮かべた。
「サム、見せてやれ。この船が誇る、最強の操縦系統を」
『だせぇから、やめておけよ!!』
操縦席のシートが引っ込み、ウォーキングマシンのようなものが出現した。
さらに、副操縦士席が引っ込み、自転車が出現した。
「出力調整はこの上で走る速度だ。猫のフル加速をナメるなよ!!」
「わ、私は自転車を漕げと。この船をペダルで漕げと!?」
『せめて、原チャリくらいにしておいてやれっていったんだけどよ、動力など使ったら非常用にならんとかよ。どんな船だよな、マシンでランニングしてる猫がエンジンの出力を走行速度で調整するんだぜ。走る向きの微妙な変化で、船の針路を変えるらしいが、この非常系統だけは使いたくねぇ!!』
「うむ、あくまで非常用だからな。船を体一つで動かせなければならん。最後は気合いと根性だ」
俺は笑った。
「こ、この子は、ショックでどっか歪んでおかしくなったんだ。いいよ、チャリで船を飛ばしてあげるよ」
エリーナが自分の顔を俺の顔に擦りつけた。
「……うん、歪んでるかな?」
『かなり、歪んでる上におかしいぜ。今さら、疑問に思うんじゃねぇ!!』
サムが怒鳴った。
「うん、カーゴルームを見せてみろと。いいだろう、一目みれば分かるだろう」
俺は船のカーゴルームの扉を全開にした。
しばらくして、外にいたエリーナがすっ飛んできた。
「ダメだって。よく分からない事いってるから、ちょっときて!!」
俺は笑みを浮かべた。
「まあ、ダメだろうな。どうやら、真っ当なクライアントのようだ」
俺はエリーナに抱きかかえられて、船の外に出た。
カーゴルームの脇に恰幅のいいオヤジが立っていた。
「いや、すまん。助手が不勉強なものでな、迷惑を掛けたな」
怒られる前に、俺は謝った。
「ったく、お前の名前はよく知ってるぜ。もう少しマシな助手を使えよ。航宙法第二千三百七条も知らねぇで、危険物輸送なんかやろうなんてよ」
「すまんな、こうでもしないと納得しないのだ」
オヤジは笑みを浮かべた。
「まあ、危険物は運ばせられねぇが、資材とか食料なんかの輸送は受け手がなくて困ってる。そっちで頑張ってもらうかな」
「うむ、それなら法に抵触しない。いつもの仕事だし、なんの問題もないな」
オヤジは携帯端末を差し出した。
「元はといえば、お前が拾ってきた仕事だ。さっさと契約してくれ」
「ちょ、ちょっと、どういう……」
俺が睨むとエリーナはビクッとして、契約を済ませた。
「いや、高速輸送出来る船は助かるぜ。よろしくな!!」
オヤジが立ち去って行った。
「この船は一般貨物輸送船登録なんだ。危険物を輸送するためには構造チェックや審査を受けた上で、特殊貨物輸送船登録しないといけない。これが、航宙法二千三百七条だ。俺は危険物輸送資格を持っているが船がダメなんだよ。こんな足が速いだけの小船で、掃いて捨てるほどいる一般貨物輸送船なんかに勝てるわけがない。だから、田舎で細々やっていたんだ。この船で大手に勝負を挑むほど、無謀ではないからな」
エリーナがため息を吐いた。
「そんな事も知らなかったのか……選んだ仕事がまずかったな。報酬が高かったからついね……」
「それはそうだろう。船の建造費用だけで、べらぼうな額になるからな。一隻作ると元を取るのに二十年は掛かるといわれている。限られた専門業者しかやらないのはそのためだ。中途半端に首を突っ込むと、赤字にしかならんからな」
エリーナが俺を抱きしめた。
「ごめんなさい。こんな単純な事なのに……」
「まあ、勉強してくれ。これから仕事を取るのは、エリーナに任せよう。まずは、ここだぞ。なにを運ぶんだかな」
俺は小さく笑った。
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