第54話 ファルカジアの洗礼

 幹線から枝道に逸れた船は、最高巡航速度で二度目の転送ゲートに向かっていた。

 特に問題なく船は進み、転送ゲートが迫ってきた。

 ここのゲートは初期に出来たもので、要するにボロかった。

『ここ通ると、絶対なんかぶっ壊れるからな。いい加減、直せってんだよ!!』

 サムがブチブチ漏らした。

「なにをいう、これこそが冒険だ」

 俺は笑みを浮かべた。

『貨物船で冒険すんなよ。なんなら、○○の剣とか探して装備するか?』

「それはいいな。なんか妙な剣を装備した貨物船。何がしたいのか、さっぱり分からん」

『無駄にデカいエンジン積んでるだけで、何がしてぇのか分からねぇよ!!』

「遅い船が嫌い。ただそれだけだ。エリーナ、今回は派手にぶっ壊れるぞ」

 エリーナは俺の頭を撫でた。

「分かってるよ。君だけは守るから!!」

「……なにか、妙なモードになってないか?」

 船は転送ゲートに突入した。

「うむ、気持悪い。ぶっちゃけ、毛玉以外のものを吐きそうだ」

「ここの疑似転送魔法がクソだね。これはキツいぞ!!」

『通過まで十二秒。気合い入れろ!!』

 船が転送ゲートを抜けた瞬間、アラームの嵐になった。

「ほら、ぶっ壊れた。そして、俺の消化器官もぶっ壊れた……」

「消化器官は待って、なんじゃこりゃサブシステムのほとんどがやられたぞ!!」

 エリーナが慌ただしく船の修理をする中、俺はトイレに突っ走った。

 戻ってくると、船の修理は完了した。

「はい、次は消化器官!!」

「いや、もう大体大丈夫だが……」

 エリーナは素早く呪文を唱えた。

「これで、大丈夫だ!!」

「うむ、助かった。そして、誰かどっかで猫草を買ってくれ。なんていうか、ちょっとヤバかったな」

 無論、描写は省略する。

 正常に戻った船の操縦席に座り、神経インターフェース経由でメインエンジンをフルパワーで作動させた。

 ひたすらこの繰り返し。

 ファルカジアの星域までは、まだかなり時間が必要だった。


「最後のゲートを抜けたぞ。ファルカジアのどこに下りればいいんだ?」

「うん、ファルスタっていう地方港だね」

 ようやくファルカジアに接近し、携帯端末片手にエリーナがいった。

『おい、おかしいぜ。ファルスタ港はマジで辺鄙な田舎だぞ。反作用爆弾を生産している工場の積み出し港は、エレスタのはずだぜ。てっきりそうだと思って、エレスタに着陸許可を申請してゴーが出てる。なんかの間違いじゃねえのか?』

 サムの声に、エリーナが目の端を跳ね上げて携帯端末を操作した。

「……へぇ、私に情報戦を挑んできたか。危なかった、ファルスタ港の周囲はひっそり私の奪還部隊が潜んでる可能性が高いね。エレスタで大丈夫だよ、クライアントの正しいデータをみたから!!」

「奪還部隊か、俺はさながら誘拐犯というところか。どっちがな」

 俺は笑った。

「ちゅ~るやるから、大人しく誘拐されてろよ。さて、仕事するにあたって、邪魔なものを掃除しないとね。アルガディアのバカどもを、どっか移動させないとな……」

 エリーナが携帯端末を操作しようとした時、遠景で見えるファルカジアの大気圏内で閃光が走った。

「……うそ、反作用爆弾が暴発して、港を含めて甚大な被害が出たって」

「まあ、要するに強力な爆弾だからな。爆発するのが当たり前だ」

 エリーナが携帯端末を操作し続けた。

「……爆発は純然たる事故みたい。安全装置をかけ忘れたなんて、単純なミスで二個の反作用爆弾が爆発。他は安全装置が働いて誘爆はしなかったみたいだけどね」

「これはこれは、過激な乗客だな。サム、予定通りエレスタに着陸だ。こんなもんでビビっていたら、せっかくの仕事を不意にしてしまうからな」

『ったく、今度の荷物は爆弾野郎かよ。反作用爆弾って、宇宙最強の破壊力を持つ危ねぇ野郎だぜ!!』

「ちょ、ちょっと、港も被害が!?」

 エリーナが慌てて声を上げた。

「全部吹っ飛んだわけではなかろう。こういう仕事は、こういうやり方をしないとクライアントに蹴られてしまうからな。知らなかったか?」

 俺は笑みを浮かべた。

『降下ポイントまで百二十秒。エレスタの管制塔が吹っ飛んだみてぇだな。降下許可後の突発的事象による自己判断にて港への降下。宇宙交通法第二千三十八条。違法じゃないぜ!!』

 サムの声と共に、逆噴射スラスタが全開で作動した。

「エリーナ、降下に入るぞ。下は大騒ぎだろう。うっかりなにか踏みつぶしてしまったら、即座に飛び降りて土下座する準備をしろ」

「お、お前な……」

 エリーナが震える手で俺の頭を撫でた。

「お、怒っちゃダメ。この子、可哀想な子……」

「いや、なんか怒ってくれ。今のはボケだぞ」

 重力制御システムに寄ってエレスタ港に向けて降下を続ける船の正面スクリーンに、派手にぶっ飛んだ港が見えてきた。

「うむ、予想以上だな。どこか、空きスポットに無理矢理着陸しろ」

「あのボロクズみたいなの船だよ。恐らく、防爆仕様の専用船だけど、粉々になってる……」

 エリーナの顔色が悪くなった。

「俺の船ではないからな。一切興味はない。スポット三十一に着陸」

 船は港の無事なスポットに着陸した。

「さて、ここからはエリーナの仕事だ。クライアントと話してこい」

「わ、分かった。とんでもない仕事、請け負っちゃったかも……」

 エリーナがヨロヨロと操縦室を出ていった。

「そう、とんでもない仕事だぞ。本来、俺の船でやるような事ではない。無駄に田舎に引っ込んでるわけではないのだよ」

 俺は小さく笑みを浮かべた。

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