第52話 なんでもある宇宙
少々面倒な船内火災を荒っぽい方法で鎮火し、船内の気圧を元に戻し、宇宙服を脱ぐまで結構な時間が掛かった。
散らかった船内の片付けやら焼けた部分の修繕作業は残っていたが、航行に支障はないので、俺は船を目前に迫っていた転送ゲートに飛び込ませた。
数秒後、反対側の転送ゲートから出ると、そこは主要幹線だけに大型船が山ほど航行していた。
「エリーナ、船にトラブルは?」
「うん、転送の衝撃でエンジンコントロールに不具合が出てる。すぐ直せるからしばらく出力を50%に制限して!!」
エリーナがコンソールの神経インターフェースに手を乗せ、復旧作業を開始した。
「サム、聞いたな?」
『ヘイヘイ、50%でも並みの船じゃ勝負にならねぇ速度だけどな。油断して、トロい大型船のカマ掘るんじゃねえぞ!!』
俺は笑みを浮かべ、高速船レーンに入った。
遅い船をガンガン追い越しながら進んでいくと、エリーナが頷いた。
「はいよ、直った。ファミレス巡りするんでしょ!!」
エリーナの目が輝いていた。
「本当にやるのか。あんな高いだけの……」
「やるっていったらやるの。片っ端からいくぞ!!」
俺はため息を吐いた。
「この際、ドッキングポート利用料についてはいわん。しかし、美味いと思った事がない上に高いぞ?」
「いく!!」
もはや、エリーナは聞かなかった。
「あぁ、金の無駄だぞ……」
俺はたまたま見えてきたファミレスのドッキングポートに、手動でドッキングした。
「しゅ、手動!?」
エリーナが声を上げた。
「こんなもん、どってことはない。いくぞ」
俺がため息混じりにベルトを外すと、エリーナが俺を抱きかかえた。
「怒らないでよ。珍しいんだからいいでしょ……」
「別に構わんが、味は保証しないからな」
エリーナは小さく笑い、俺を抱きかかえてシートから立ち上がった。
「よし、いくぞ!!」
とにかく、食い物になるとエリーナは元気だった。
「こ、これが、牡蠣フライ……」
俺は食わないが、なにやら丸っこいフライを見つめ、エリーナが唾を飲み込んだ。
「どうせ冷凍だろう。美味いわけがない……」
「はいはい……」
エリーナは俺の口に、おやつ煮干しを差し込んだ。
「……なんで、煮干し?」
「いい加減、うるさいから」
……どうやら、ついにちゅ~るは品切れになったようだった。
エリーナが牡蠣フライにレモン汁を掛けた瞬間、撒き散ったなにかで俺の目と鼻は最悪な状態になった。
「か、柑橘スマッシュヒットは勘弁してくれ……」
「ああ、そうだったね。ごめん」
さらに、タルタルソースをベッタリつけ、エリーナは牡蠣フライを一つ食った。
「ん、普通に美味いけど?」
「フン、冷凍物などで満足しているようではな」
実は、あまり機嫌が良くない俺だった。
「な、なに、なんか嫌なの?」
「……別に」
俺はなぜか強制注文されたお子様ランチを食いながら、なんでこれなんだろうと思っていた。
「……なに、それ嫌だった?」
「なに食っても同じだ」
エリーナは俺の口に、牡蠣フライを一つ押し込んだ。
「冗談でしょうが、機嫌直せよ!!」
「……」
……猫って、牡蠣食ってよかったっけ?
俺の頭の中には、その疑問が過ぎった。
「あとで抱っこしてあげるから!!」
「……」
それは、お前がやりたいのだろう。
……といいたかった。
こうして、地獄のファミレス巡りはスタートしたのだった。
誰だ、宇宙にこんなものを作ったのは。
コンビニだけ十分だ。
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