第49話 なんか結局ぶっ壊した

 俺たちはこれ以上いてもしょうがないと、港に戻ってきた。

 暇に任せて暴れ回ったので、その証拠物件であるエリーナの珍妙な車両を置いて帰るわけにもいかず、そこは貨物船の能力を生かして悪天候の中カーゴルームに収めた。

 操縦室に入ったところで、出発出来る目処は立っていたなかった。

『飛べると思うか、全然無理だって。ドデカい低気圧が居座ってるらしいから、しばらくは無理だぜ!!』

 サムがため息でも吐きそうにいってきた。

「うむ、退屈だな。ファルカジアからオードレスまでの極めつき危険なブツの輸送が入っていたな」

「極めつき危険なブツね。間違っちゃいないけど。ここから直行するの?

「もちろんだ。こういのは、時間が命だからな。ファルカジアか、ちょうど反対側だな」

 俺は笑みを浮かべた。

「月一の仕事だから。でも、報酬は最初からよかったぞ!!」

「当たり前だ。一般の貨物屋が、わざわざ危険物を積みたがるものか。俺みたいに危険物運搬資格を持つ者は少ないし、そういうのは専門業者に就職している。あっちで使っている船は、完全防爆仕様で比較的安全だしな。この船をみたらなんというか……」

 エリーナは小さく笑った。

「向こうが求めているのは『速さ』だよ。既存の危険物輸送船じゃ、遅くて効率が悪いって!!」

「そりゃ、速くはないだろうな。むしろ、それじゃ困るはずだ」

 俺は苦笑した。


「サム、ファルカジアまでの最短ルートを出してくれ」

『最低でも三つ転送ゲートを越えるな。標準時で一週間ってところだ!!』

 俺は神経インターフェースに手を乗せた。

「これならどうだ?」

『これなら三日に短縮出来るが、途中にあるもの分かってるのかよ。アルガディア軍の艦隊係留地だぞ。また一戦やらかす気かよ!!』

 俺はエリーナをみた。

「主力の第七艦隊だね。ちなみにこの船、バッチリ手配されてるから!!」

「うむ、面白い。せいぜい、逃げ回ってやるさ。ファルファ・コントロール。こちら、GXXF-334567-CDK。突発事象A-8890発生、港の広域に被害が及ぶ恐れがあるため避難のため緊急発進する。非常事態を宣言。グッドラック」

 俺は笑みを浮かべ、船をスポットから浮かせた。

 横殴りの風が船を大きく傾けた。

「ちょっと、なにやってんの。緊急事態宣言までして!?」

「俺が暇だ。緊急事態だろう」

 ちなみに緊急事態を宣言すると、みんな優しくしてくれる。

 暇な時にやってみるといい。

 もっとも、怒られるどころではないが……。

「おい、サム。遊んでないで、ちゃんと姿勢維持しろ」

『馬鹿野郎、これが限界だ。どうせ緊急事態宣言したし、突発事象のコードはエンジンの異常動作だろ。もう、一気にいけよ!!』

 俺は笑みを浮かべた。

「エリーナもみておくといい。大気圏内でメインエンジンを作動させるとどうなるか」

「ちょと待て、この推力のエンジンを四発も作動させたら!?」

 通常なら大気圏外に出てから作動させるエンジン四発が、フルパワーで作動した。

 港に停泊していた船はすべからく粉々に吹き飛び、ターミナルビルも倒壊した。

「ほら、ここだけでこれだ。これで、安全圏に出てから作動させる意味が分かっただろう」

「見なくても分かってるわ!!」

 通常ではあり得ない速度で大気圏を突破し、ファルカジアへ航路に乗った。

「うむ、あくまでも誤作動による事故だからな。損害は保険屋が払う。問題ない」

「……たまに凶悪なんだよな」

 エリーナが俺をシートから引っこ抜いて抱きかかえた。

「……ダメ、ああいう悪い事しちゃ」

「な、なんだ、その猫なで声は!?」

 エリーナは俺を抱きかかえた。

「この子には、きっと愛情が足りないんだ。あと、おでんの玉子も……」

「おでんの玉子はいい。ってか、なんでいつも玉子しか食わせてくれないのだ!!」

『おい、バカップル。派手にぶっ壊したから、なんか当局が集団で追ってきてるぞ』

「ちょっと飛ばせば引き離せるだろ。俺は今手が届かない」

 エリーナが一瞬だけ何かを呟いた。

「ん?」

「なんでもない!!」

『業務連絡、船の後ろで大爆発!!』

 俺がなんかいおうとしたら、エリーナがちゅ~るを俺の口にねじ込んだ。

「はい、いい子にしてましょうね!!」

「あ、あのな……」

 こうして、俺たちは新しい仕事の地へと向かった。

 惑星ファルファ。

 俺たちにとっては、破壊の限りを尽くすだけの星だった。

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