第47話 もはや、仕事……

 俺の船……じゃなかった、あまりのトロさに勝手にエリーナから奪い取った雪上戦車は、猛吹雪の中を隣街に向けて飛行していた。

 もちろん、雪上車に無理矢理武装しただけの、エリーナの趣味感溢れるこの車両に飛行機能などない。なのに、空を飛んでいる。

 全く、不思議な事が世の中にはあるものだ。

「おい、猫野郎。その程度しか速度だせねぇのかよ!!」

 エリーナがニヤニヤしながらいった。

「……独学だといっただろう。飛べるだけでも、褒めて欲しいものだがな」

 真っ白な視界の中、ナビゲーションシステムを頼りに隣街を目指す。

 種を明かせば俺の魔法なのだが、高度なものとされる飛行系の魔法は難しい。

 独学で飛べるだけでも、褒めてもらっても悪くないはずだった。

「まあ、凄いとは思うけど全然甘いねぇ。本当の飛行はこうだぞ!!」

 エリーナが小さく呪文を唱えた。

 瞬間、叩き付けられるような加速を開始した。

「うむ、俺好みだ。こうこなくちゃな」

 俺は笑みを浮かべた。

「おう、最高速出してやる。覚悟しろよ!!」

 空で猛烈な加速をした雪上戦車は、あっという間に隣街に着陸した。

「よし、市場だ」

「もう荷積みは終わってるはずだよ。あとは、トレーラーをどう運ぶかだねぇ」

 俺は笑みを浮かべた。

「これに繋げればいい。何両あるか知らんが……」

「これに繋ぐの。市場全部買い占めたからねぇ。想像できないな」

 隣街の市場はすぐだった。

 貨物ヤードに並んだトレーラーの数は、百両近くあった。

「うむ、これでは無理だ。トルクが足りん」

「いや、この台数を繋げて運ぼうって考えが怖いぞ」

 俺はエリーナの腕を噛んだ。

「……ムカついただけだ。気にするな」

「こ、このニャンコ!?」

 俺は笑みを浮かべた。

 並んでいたトレーラーが少し浮いた。

「こ、この台数を浮かした。エラい魔力だな。でも、魔法は基本乱用禁止だ!!」

「……そうか」

 トレーラーが一気に空に舞い上がった。

「たまにはいいではないか。俺だって、やれば出来る!!」

「……実は、現実よりも可哀想な子かもしれない」

 エリーナが俺を抱きしめた。

「……いい子だから、やめなさい」

「なんだ、その猫なで声!?」

 しょうがないので、俺はトレーラ-をヤードに戻した。

「全く、ほっとくと何するか分からないな。この近所のトラクタをかき集めたよ。これが、正解だろ!!」

「なんだ……普通過ぎてつまらん」

 しばらく待っていると、トレーラーを牽引するトラクタがゴッテリやってきた。

「まあ、連中も仕事が大変だろうからな。しかし、あの街に入れるか。雪に埋もれるのが落ちだと思うが」

「その辺は大丈夫。市場までは集中的に除雪させておいたから。急げばいける!!」

 実は、トレーラーとトラクタの連結は少し手間が掛かる。

 ようやく全て終わり、俺たちを先頭に走り出した隊列は、猛吹雪の中を幹線道路に従って走っていった。

「ああ、こんなに時間掛かるとは。街の入り口が閉鎖されちゃたよ!!」

 エリーナが頭を掻いた。

「そりゃ、船同士をドッキングさせる方が早いかもしれんな。これ、どうするんだ。この台数を立ち往生させたら数日単位で収拾がつかんぞ」

 エリーナが前を見た。

「……飛ばす。それしかない」

「ほらな、最初からそうすればいいのだ」

 俺が笑みを浮かべると、百台近いトレーラーが離陸した。

「どうやって言い訳しよう。魔法だってバレたら、シャレにならないぞ」

 エリーナが頭を掻きむしった。

「冬の怪現象とでもいっておけ。あるいは、磁場の急激な反転とか……」

「無理だろ!!」

 結局、エリーナは頭を掻き続け、空飛ぶ百台の隊列は無事に街に到着したのだった。


「うむ、猫のハンドパワーだ。分かるか?」

 市場の前でポカンとしてるトレーラーの運転手たちに、俺は胸を張って断言した。

「考えてもみろ、こうして二本足で立って喋るキモい猫だぞ。変なパワーがあっても、おかしくないだろう。大した事ではない。以上、解散!!」

 俺は全く納得していない連中に背を向けた。

「よし、さっそく捌くぞ」

「……なに、猫のハンドパワーって。よけいに怪しいけど」

 とりあえず、運んできた荷物を市場にブチ込み、拠点づくりは終わった。

「よし、あとは発注があった所にお届けだ」

「……なんで、わざわざ市場に一回入れたの?」

 俺は笑みを浮かべた。

「他に広い場所を思い付かなかったのだ。市場に金も落ちるしいいことだろう」

「いってくれれば探したよ。ちゃんと私を使え!!」

 エリーナが携帯端末を操作した。

「おいおい……すげぇ受注数だぞ!!」

「うむ。貨物屋冥利に尽きるな。さっそく、あの雪上戦車のトランクに詰め込め」

「入るかな……」

 こうして、レーザー砲を積んだ雪上配送戦車が街中を走り回る事になった。


「あそこは空き家か?」

「うん、もう二十年も住んでないって。雪の重さで潰れ掛かってるね」

 俺は神経インターフェース経由で、レーザー砲を空き家に向けた。

「……怖い。エリーナ、撃ってくれ」

「なんだよ、撃てねぇなら最初からやるな!!」

 ドカンと音が聞こえ、レーザーの直撃を受けた廃屋が爆発的に炎上した。

「あそこを通ると近道だ。いくぞ」

「あいよ!!」

 燃える廃屋を乗り越えて、俺たちは次の配送先に急いだ。

 次に立ち往生して放置された、大型トラックが道を塞いでいた。

「邪魔だ。ぶっ飛ばせ」

「了解!!」

 レーザーが連続発射され、トラックはバラバラに爆発した。

 トラックの残骸を踏み越えて、配達先に急ぐため、俺たちの働きは続いた。

「うむ、武装配送車。いいかもしれんな」

「アルガディアじゃ当たり前だよ。うっかり道を塞ごうものなら、自動的に強盗とみなされて、最低でも対戦車ミサイルは飛んでくるかな」

 エリーナが笑った。

 結局、一日中街を時々ぶっ壊しながら配達を続け、概ね好評ではあった。

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