第46話 雪の仕事に化けた
結局、なにか暴れてるだけのリゾートだが、このファルファでさえ観測史上例をみないという猛吹雪により、都市機能は完全に麻痺してしまった。
物流が完全にストップし、宿泊しているホテルでも非常食という事態になった。
しかし、貨物屋にとって、これは商売のチャンスだった。
「うむ、必要なものを必要な時に必要な所から必要な場所にだ。これは、商売しなくては」
「なんで、ここにきて仕事するんだよ!!」
エリーナの機嫌が悪かった。
「なら、このまま味気ないホテルの非常食を食うか?」
「分かったよ!!」
エリーナは携帯端末を操作した。
「はぁ……隣のデカい街は大丈夫だね。市場も開いてるよ」
「うむ。ならば、そこから根こそぎ買い込んでこの街の市場にブチ込むぞ。そのあとは、各注文に応じて個別配送だ。ついに、宅配便事業にも乗り出したぞ」
「ったく、準備するから待ってろ。なんで、ここにきて……」
エリーナは携帯端末を操作し続け、ため息を吐いた。
「おし、仕入れにいくぞ!!」
「うむ、いい手際だ」
俺たちは、ホテルの部屋を出た。
「うひゃあ、なんなのこの吹雪。前が見えん!!」
「うむ、さすがに寒いぞ」
俺を抱えたエリーナが雪上戦車に乗った。
「全部買い占めたぞ。普段の倍値だったらしいけどね。これを四倍にして売りつけてやる!!」
「うん、それが商売だ。慈善事業ではないぞ」
俺は笑みを浮かべた。
「戦車、前進。戦闘モード!!」
「うむ、なにと戦うのかな?」
ドガガガと無限軌道の轟音をたて、完全に雪に埋もれた街を爆走した。
「ナメんなよ。気合い入れれば、時速七十八キロは出るんだから」
「機動性は、確かに戦車だな」
俺は神経インターフェースに乗せられたエリーナの腕に噛みついた。
「な、なに!?」
驚いて引っ込められたエリーナに変わり、俺が手を乗せた。
エンジンが凄まじい音を立て、エリーナと比較にならない速度で爆走した。
「な、なに、気に入らなかったの?」
「うむ。マシンの性能を100%発揮出来ていない。なにを怖れるのだ、ガンガン飛ばすぞ」
騒音の塊となった雪上戦車は、出会い頭に飛び出してきた除雪車を進地旋回でギリギリかわし、雪しかない道路を突っ走った。
「うむ、たまには地上も面白いな」
「あのね、口で代われといえ。噛みつく事ないでしょ!!」
俺は小さく笑った。
「あまりにもボケナスなので、ムカついただけだ」
「ぼ、ボケナス……」
エリーナが俺の頭に噛みついた。
「うむ、痛い……」
「この猫野郎!!」
俺は小さく笑い、さらに増速した。
「ほら、百キロ越えたぞ?」
「……いや、ギヤ比的にあり得ない。お前、なんか魔法使っただろ!!」
俺は小さく笑い、ちょっとだけ呟いた。
体が仰け反るような加速と共に、エンジンがぶっ壊れる寸前の金属音を立てはじめた。
「うむ、エンジンはV12か。奮発したな」
「馬鹿野郎、ぶっ壊れるから止めろ!!」
俺は笑みを浮かべ、ちょっとだけ呟いた。
雪上戦車が離陸し、エンジンを停止した。
「ほら、いい機能があったぞ」
「……ひ、飛行の魔法って『アーリー』でも少数しか使えないんだけど!?」
「うむ、ここで飛ばねぇ猫はただの猫だっていったら、誰か怒るかな?」
「やめろ、馬鹿野郎!!」
こうして、俺たちは空飛ぶ得体の知れないもので、ひたすら吹雪の中を進んだのだった。
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