第45話 スキーの咆吼
翌朝、贅沢にもルームサービスなんか頼みやがったエリーナが……コホン、朝メシを終えた俺たちは、嫌だというのにスキーに行くとうるさいコイツの要望で、ホテルからスキー場にいく事にした。
えっ、機嫌が悪い? 気のせいだ、問題ない。
「うぉ、猛吹雪じゃん……」
「だから、いっただろう。この星は天候がいい日など、滅多にないのだ。諦めてこたつで猫缶する事をお勧めするが?」
部屋に向かおうとした俺を掴み、エリーナは服の中に入れた。
頭だけ服から出た俺は、大きくため息を吐いた。
「どうしても、いくというのだな。どのみち、この天候ではクローズドだと思うが」
エリーナが笑みを浮かべた。
「私をスキーに連れてけこらぁ!!」
「……いや、俺が連れていかれてるな」
ホテルから飛び出したエリーナは、例の雪上戦車に乗り込んだ。
手を神経インターフェースに乗せ、野太いエンジン音が聞こえた。
「うん、こういう天候では心強いな」
「でしょ、私のチョイスに間違いはない!!」
必要以上に強烈な暖房が車内をサウナに変え、エリーナが死にそうになった。
「前は使わなかったから気がつかなかったけど、なんで、こんな強烈なの……」
「それは極地仕様だからだ。この辺りじゃ、無駄に暑いぞ」
エリーナが慌てて暖房を切った。
「ま、まだマシだ。いくぞ!!」
積雪が増す駐車場からガタガタ走り出した雪上戦車は、天候のためかほとんど交通量のない道路に出た。
猛吹雪の中を目立つ派手な蛍光オレンジの車体で走っていると、この積雪の中根性でパトカーが五台追いかけてきた。
「やはり、手配されていたな。さすがに、もうごめんなさいでは許してもらえないだろうな」
「ごめんなさいなんていわないよ。こういう時は、こうするの!!」
屋根の炭酸ガスレーザー砲が旋回し、ど派手な発砲音が響いた。
パトカー一台の爆発に二台が巻き込まれて炎上した。
「……あと二つ」
「おい、なんか違うモードになっているぞ。愉快だが」
再び発砲音が聞こえ、パトカーが二台纏めて吹っ飛んだ。
「うむ、ほぼアクション映画だな。なにか、こういうシーンありそうだ」
「前からやってみたかったぜ!!」
エリーナがご機嫌だった。
吹雪が強さを増す中、物好きにもスキー場を目指す俺たちは、程なく山道に差し掛かった。
「うむ、これはもう普通の車では走れないな。これで、開いていると思うか?」
「いつもこんな天候なんでしょ。だったら、開いてるはず!!」
ちなみに、ファルファでもここまでの荒天は珍しいはずだった。
雪を蹴散らしながら進む雪上戦車は、程なくスキー場に到着した。
「ほら……」
「く、クローズド……」
やはり、スキー場は閉鎖されていた。
「こ、こうなったら、根性で……」
「圧雪もしてないからやめた方がいいぞ。試しに、ゲレンデに向かって一発撃ってみろ」
エリーナが顔を引きつらせんがら、ゲレンデに向かって一発撃った。
派手な雪崩が起こり、地鳴りのような音が響いた。
「表層雪崩だ。こんなところで滑ったら、命がいくつあっても足らん。ホテルに屋内スキー場があったはずだが……」
「あれは雪じゃなくて氷。全然違うの!!」
正直、興味がない俺はどうでもよかった。
「さて、ホテルに帰ってこたつしようではないか。あれが一番……」
「ってか、なんであのホテル、こたつがあるの!?」
俺は首を傾げた。
「さぁな、あるものはあるからな」
「ロイヤルスィートにこたつってなによ!!」
ぶつくさいいながらも、雪上戦車は麓に向かって山道を下っていった。
市街地に下りた途端、運転室内にアラームがなった。
「うむ、なぜ攻撃照準レーザー警報装置が付いているのかな?」
「それどころじゃない、ブチキレて軍が動いちゃったぞ!!」
俺が窓から外を見ると、厳つい主力戦車が三両接近していた。
「控え目にいっても勝ち目はないぞ。あっちは、本物の戦車だ」
エリーナが笑みを浮かべた。
「私がノーマルを転がすと思ってるの。戦闘モード!!」
「ただの移動手段に、なぜ戦闘モードがあるのかな?」
いきなり雪上戦車が急発進した。
「炭酸ガスレーザーじゃあの装甲は抜けない。逃げる!!」
「うむ、それがいいと思うぞ」
派手な振動と共に走っていると、前方を塞ぐように三両の戦車が現れた。
「うげっ!?」
「うむ、六両も出てきたか。よほど、ブチキレたようだな」
エリーナは小声で呪文を唱えた。
前方三両がど派手に吹き飛び、血路は開かれた。
「こら、攻撃魔法を使うな」
「しょうがないでしょ!!」
残骸となった戦車の脇をぬけ、俺たちはひっそりホテルに戻った。
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