第44話 酔っ払い猫

 スケートで怒られ、プールで虐待され、酒を飲んだ結果……酔った。

「……」

「なんか喋れ、黙々と飲むな!!」

 エリーナが俺のグラスを取り上げた。

 自慢の超高速猫パンチが、エリーナの顔面に炸裂した。

「……」

「きょ、凶暴化してる。ダメ、これ以上飲んじゃダメ!!」

 エリーナが俺を抱えた。

「……」

 問答無用でその腕に噛みついた。

「ったく、酒癖悪い猫だな!!」

 エリーナは俺を撫で、腕からダラダラ流血しながら更衣室に入った。

「どっかいくなよ!!」

「……」

 俺は床で丸くなった。

「はい、着替え終わり!!」

 俺を抱きかかえようとしたエリーナの手を引っ掻いた。

「ったく、しょうがねぇ野郎だな!!」

 しかし、エリーナは動じる事なく俺を抱きかかえ、そのまま真っ直ぐ部屋に帰った。

「ほら、どこでも好きなとこで寝てな」

 俺はベッドに飛び乗り、静かに目を閉じた。


「ん?」

 目を覚ますと、エリーナが苦笑して俺の隣に座っていた。

「……どこだ、ここは?」

「部屋だよ、ボケてるんじゃねぇ」

 エリーナの手に真新しい傷があった。

「……それ、猫の傷だ。見れば分かるからな。俺、やっちゃった?」

「さぁ、どうだか。今さら傷の一つや二つね。ちょっとはまともになったな!!」

 エリーナは俺を抱きかかえた。

「……すまん、たまに前後不覚になるのだ。だから、酒は基本的に飲まんのだ」

「たまにはやっとけ。ただ、怪我させるのは私だけにしろ。絶対だぞ!!」

 エリーナは俺を抱きかかえたまま、小さく笑みを浮かべた。

「全く、普段見られないからねぇ。いいもんみたぜ!!」

 俺を抱きかかえたまま、エリーナはベッドに横になった。

「今や、お主だけが私の生命線だぞ。今さら国に帰ったら、首が飛んじまうぞ。そういう国だからな!!」

「……うむ、頑張ろう」

 エリーナは小さく笑った。

「私の年齢教えたっけ、まだ十六だぜ。これで王妃だもんな。異常な国だぜ!!」

「……俺、何才だっけ?」

 エリーナが笑みを浮かべた。

「知らん、興味もない。寿命で死んだら剥製にでもして、その辺に置いておくぜ!!」

「……そういうときは、どっかに埋めて」

 エリーナが強く俺を抱きしめた。

「彼氏を埋める趣味はない!!」

「……いや、せめて寝かせて」

 エリーナは笑った。

「そんな楽させてやるか。船に飾ってお守りにしてやる!!」

「……ならないから。ねっ?」

 エリーナは俺を抱えたまま、目を閉じた。

「深夜二時だぞ。いい加減、寝る!!」

「……俺、起きたばっかりなんだけど?」

 エリーナからの返事はなかった。

 まあ、猫は酒など飲む物ではない。ロクな事にならないからだ。

 酔っ払って水瓶に落ちて溺れ死んだ猫の伝説は、脈々と受け継がれていた。

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