第43話 今度は泳げ
改めて考えた。エリーナって、やたら運動神経よくない?
……コホン。スケートとは、氷の上を滑るものという基本的な事を知った。
これは俺にとって、恐らく大きな知識だと思う。危うく、得意げに恥を掻くところだった。
そして、スケートの後はこの寒い場所でも泳ぎたいのか、無駄な温水を大量に使用するプールに連れていかれた。
「うむ、俺は泳げるっぽいけど、泳いでいるというより溺れかけのようにしか見えないらしいからな。水は嫌だ」
「……はっきり、嫌だっていったぞ。珍しい」
エリーナは俺を抱え、そのまま飛び込み台からプールに飛び込んだ。
俺を意地でも離すかといわんばかりに固め、深く静かに潜航しながら足だけでゆっくり進み、急速浮上した。
「こらぁ、なにしやがる。死ぬかと思ったぞ!!」
「おお、怒った!!」
エリーナは笑い、また俺を抱えたまま潜航した。
そろそろ意識が遠くなった頃、エリーナは急速浮上した。
「どうだ、水だ!!」
「……虐待? 俺なんか悪い事した?」
……猫はびしょ濡れになると、とても弱い。
「普段ないだろ、こんなの!!」
「……あったら堪らん。出るぞ!!」
俺はエリーナの腕から飛び出て、せっせと泳いだ。
「歩いた方が速いぞ。気合い入れろ!!」
すぐ隣を歩きながら、時々俺の背中を押して沈めた。
それでもなんとかプールサイドにたどり着いたが、登れなかった。
「……」
「おい、登れよ。猫だろ!!」
エリーナは俺を抱きかかえ、再びプールの真ん中に戻った。
「ほれほれ!!」
「……猫を虐めると祟られらるぞ。どっかの死んだ猫に」
……結局、なかなか出して貰えなかった。
「全く、なんだというのだ……」
デッキチェアの上で毛繕いしながら、俺はため息を吐いた。
「はいよ、テキーラ・サンライズ!!」
エリーナがオレンジ色の液体の下に、グラナデンシロップで赤く染まったカクテルのグラスを持ってきた。
「……テキーラとオレンジジュースだぞ。猫は柑橘はダメだぞ」
「ああ、そうだった。ちょっと待ってろ!!」
グラス二杯を一気に飲み干し、透明な泡立つ液体が入ったグラスを持ってきた。
「スプリッツアー。これならいいだろ!!」
「うむ、これなら問題ない。弱いカクテルだしな」
エリーナが自分の手の平にグラスの中身を零し、それを俺の口の前に持ってきた。
「これしかないだろ。グラスから飲めないんだから!!」
「甘く見るな。こうすればいい」
俺は両手でグラスを挟み、中身を一口飲んだ。
「うむ、炭酸だ」
ちなみに、白ワインのソーダ割りだ。
「……妙に可愛いぞ。もっとやれ!!」
俺はグラスを気合いで持ち上げて傾けた。
「美味いが疲れるな……」
「も、もっとやれ、やたら可愛いぞ!!」
エリーナが我慢出来なくなって、俺を抱きしめた。
「な、なんて可愛いニャンコだ!!」
「……一応、上司なんだが?」
まあ、上司だろうが社長だろうが、猫は猫。ラグドールはラグドールだった。
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