第42話 スケート?
ようやくリゾート開始と思いきや、薄着だったエリーナがファルファの冷気に根を上げて、俺を抱えてターミナルビルに走った。
こういう客が結構多いので、ターミナルビル中ではちゃんと防寒着を売っている。
エリーナがここぞとばかりに、あったか仕様に衣替えをした。
「うむ、極地にでもいくのかな。その上着だけでもマイナス八十度まで大丈夫という代物なのだが、なにも全部着替える事もないと思うのだが……」
「気分よ気分!!」
超絶モコモコ野郎になったエリーナが、服の中に俺を突っこみ、顔だけ首の所だけ出した。
「今度はなんのスイッチだ。いちいち、面白いぞ」
「だって、寒いでしょ。これなら温かいだろ!!」
俺は笑みを浮かべた。
「うむ、俺は自前の毛皮があるのだがな。しかも、人間とは気合いが違うから、この程度どうということはないのだが……」
「いいからそうしてろ。移動用の車も買ったぞ。外に置いてあるからいくぞ!!」
「レンタカーでいいのに……」
俺を格納したエリーナは、ターミナルビルの外に出た。
「ああ、あれだ!!」
駐車スペースに止まっていたのは、無限軌道装備の蛍光オレンジに塗られた雪上車だった。
「うむ、どこにいこうというのだ。真面目に、極地か?」
「いや、ホテルまで!!」
エリーナは雪上車の扉を開け、乗り込んだ。
「一つ聞くが、なぜこの雪上車の屋根には炭酸ガスレーザー砲が搭載されているのだ。ホテルをぶっ壊しにいくのか?」
「アルガディアでは、武装していない車はやってくださいっていってるようなものなの。だから、なんか付けとかないと落ち着かなくて!!」
「物騒な国だな。まあ、楽しそうだが」
エリーナは神経インターフェースに手を当てた。
野太い音共に、エンジンが始動した。
「戦車、前進!!」
エリーナの操作で、雪上車はガタガタと走り始めた。
「まあ、確かにこれは戦車だな。もう少し、大人しい武器はなかったのか?」
「このくらいじゃないと、燃えてこないから!!」
もちろん、速度なんて全く出るわけがなく、雪が積もった路面をガタガタゆっくり進んだ。
当然、後ろに車が詰まって大渋滞になり、クラクションの嵐を浴びた。
「……うるさいな」
雪上車の画面の一つは、どう考えても屋根のレーザー砲のガンガメラだった。
砲身が旋回して背後を向き、ドガンと派手な音共にレーザーが発射された。
何台かの車が爆発と共に宙を舞い、それ以来静かになった。
「うん、炭酸ガスレーザーは使い捨てのレーザー発信ユニットを薬莢状に加工して装填するからな。実弾の発砲音のような、派手な音が出るのも特徴だ」
「……現実逃避しやがった、この猫野郎」
さらにガタガタ走っていると、前方でパトカーが道を塞いでいた。
「そりゃ、いきなり発砲したらそうなるだろうな」
「しょうがないな、アルカディア式を見せてやる!!」
再びレーザー砲が旋回し、連射した瞬間にパトカーが吹っ飛んだ。
「まあ、一番死亡率が高くて誰もやりたがらないのが、アルカディアの警官だから!!」
「うむ、こんな真似する野郎ばっかりだったら嫌だな。俺だったら、迷わず帰るぞ」
大迷惑なほぼ戦車は、そのまま何度か阻止にきたパトカーを吹っ飛ばしながら、何食わぬ顔をして、ホテルの駐車場に隠れるように止まったのだった。
「はぁ、楽しかったんだかなんだか」
「知らんぞ、撃ちまくって」
ホテルの部屋は、無駄に広くて豪華だった。
「よし、七回転半をみたいな。このホテル、スケートリンクあるよ!!」
「そうか、大したものではないが……」
俺はエリーナに連れられ、ホテルのスケートリンクにいった。
「靴なんてあるの?」
「そんなものはいらない。猫のスケートを見せてやろう」
俺は四本足で氷の上に乗り、爪を氷に食い込ませた。
「いくぞ!!」
そのままリンクを何周も全力疾走し、ジャンプしたついでに身を捻って八回転ほどして着氷した。
「どうだ?」
「ただ、リンクを全力で走ってるだけだろ!!」
……エリーナに怒られた。
「なんだ、違うのか?」
「馬鹿野郎、氷の上を滑るんだよ。あれじゃ、スタッドレスタイヤの性能試験みたいだろ。まあ、八回転もしやがった運動能力は認めるけど!!」
エリーナは俺を抱え、変な靴を履いて氷の上を滑り始めた。
「こう、正しくはこうだから!!」
「うむ、俺には無理だな」
エリーナはそのまま滑る速度を上げ、空いているのをいいことにかなりの勢いで加速していった。
いきなり、体の位置を入れ替えてバックで滑り始めると、ど派手にジャンプして着氷した。
「まあ、三回転だけど人間じゃ凄い方だぞ!!」
「……今、なんか高等テクっぽかったぞ?」
エリーナは小さく笑い、連続でジャンプを決めた。
「これが、スケートだ。分かったか!!」
「そ、そうか、走るんじゃないんだな。器用なことだ」
俺は思った。
猫である俺も器用であると自負していたが、人間もやるものだと。
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