第7話 現在地判明とバカになろう

『おい、大体分かったぞ。やけに位置情報装置の数が少ねぇと思ったら、ここはカルロソ近辺だ』

 俺はパネルの画面に表示された三次元マップを見て、小さく息を吐いた。

「カルロソか。随分外れたな。おまけにここはロクな場所じゃないぞ」

「カルロソ?」

 エリーナが聞いてきた。

「別名『ロクデナシのたまり場』だ。そこらに浮いてる位置情報装置を、自分のボロ船の的にしてぶっ壊すような、馬鹿野郎どもの吹きだまりみたいな星だ。あまり関わらない方がいいぞ。仕事なら別だが……」

 俺は位置情報が取れた事で、やっと設定可能になった航法データを入力した。

「エリーナ、やっとまともに航行出来そうだな。もっとも、邪魔が入らなければだが」

 俺は小さく笑った。

「……妨害されると思います。ごめんなさい」

 エリーナがため息を吐いた。

「それはいい。逃げ回れば済む話だ。それじゃ、ここのロクデナシにちょっかい出されないうちにいくか」

『おせぇよ。なんかワラワラきてるぜ。賞金首がどうのって大はしゃぎしてるがよ、お前なんかやったの?』

「俺が賞金掛けられるほどの大物に見えるか。せいぜい、いつもの港の定食屋で釣りを間違えて多くもらったのを、素知らぬ顔して猫ばばしたくらいだぞ」

『クソみてぇにセコいな!!』

「セコくて悪かったな。俺はセコい猫だ。文句あるか」

「あ、あの……私を乗せてしまった段階で、自動的にこうなるシステムなんです!!」

 エリーナがワナワナ震えながらいった。

「どんなシステムだ、それは。まあ、面白いから付き合ってやろう。サム、ロックオンできるものならやってみろシステム起動」

『普通にジャミングシステムといえ。なんだ、その喧嘩売ってる態度は』

「喧嘩売ってるのさ。あれだけ束になってきて、一隻もロックオンできないとか。ただの馬鹿野郎だぞ」

 俺は笑みを浮かべた。

『まあ、ボロ船の集合体だからな。こっちもボロいけど』

「あの、ジャマーの調整は私がやってもいいですか?」

 エリーナが声を掛けてきた。

 ジャマーとは簡単に言えば妨害装置。ジャミングシステムの肝だ。

「ああ、いいぞ。なんだ、オートでやろうと思っていたのだが、遊んでみたくなったのか?」

「い、いえ、このくらいしないと申し訳なくて……」

 エリーナが神経インターフェースに手を乗せた。

「気楽にいこうか。これは遊びだ。アイツらをブチキレさせてやろう」

 俺は笑った。


『おう、すげぇすげぇ。ヤケクソになって周波数変えて頑張ってるぜ。連携してねぇからチョロいもんだろ』

「……ジャマーは全帯域を完全にロックしています。まさに、ロックオン出来るものならやってみろ状態ですね」

 エリーナが笑みを見せた。

「まあ、逃げ回る分ここだけは気合いを入れているからな。あんな、継ぎ接ぎで作ったボロ船など敵ではない」

『高エネルギー反応多数、高速飛翔体多数。ついにブチキレて無照準で撃ち始めたぞ。流れ弾食らわないうちに逃げようぜ!!』

「分かった。今度は、当てられる物なら当ててみろだな」

 俺は神経インターフェースに手を乗せ、船を急加速させた。

「ほら、どうした?」

 わざと船団の間近を飛び回り、結果として無理に回頭したボロ船団が連鎖して衝突を始めた。

「武装はないがこういう沈め方はあるぞ。馬鹿野郎にしか通用しないがな」

「……ま、マニューバ・キル」

 エリーナが呟いた。

「そんな高度な事はしていない。ただ、飛んでるだけだ」

 マニューバ・キルとは、高度な機動術だけで相手を沈没に追い込む立派な攻撃だ。

 しかし、俺がやっているのは、撹乱させる意図すらなく、ただ高速で動いているだけで、慌てた相手が勝手に衝突しているだけである。

 これをマニューバ・キルなんていったら、そこら中から怒られるのは確実だった。

「見事な馬鹿野郎だな。まあ、元々は基本的に仲が悪いからな。今頃、船の修理費で揉めてる頃だろう。よし、馬鹿が移る前に行こうか」

 俺は船を設定した航路に乗せ、笑った。

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