第6話 再発進
「こ、これなら……」
『おう、いい感じだぜ。なんだよ、この過激なセッティングはよ。ヴァイス、このオンボロがよ、マジでヤバい船になっちまったぜ!!』
真面目な顔のエリーナとサムの声に俺は笑った。
「今度はなにやったんだかな。これで全部か?」
「は、はい、問題ないと思います」
エリーナが頷いた。
「よし、サム。全システムチェック」
『問題ねぇよ、但し超絶過激でホットな野郎に化けちまったぞ。今まで通りやったら、どっかの惑星に突っ込んじまうぜ!!』
「それは楽しみだな」
俺は笑みを浮かべ、神経インターフェースに手を乗せた。
「いくぞ、推進系フルラインナップ。全エンジン起動、ぶっ飛ばせ」
振動と共にシートに叩き付けられるような加速Gがきた。
「おいおい、これは貨物船だぞ。ほとんど、戦闘艦並みだな」
『加速だけじゃねぇ。姿勢制御系まで弄りやがってよ、機動力も半端ねぇぞ』
俺は笑みを浮かべ、ちょっとしたアクロバットをかましてみせた。
「うん、いい感じだな。こういう方が好みだ」
『ったく、これだから猫はよ。普通に動かせるもんな。人間の操縦士なら泣いて逃げ出すぜ!!』
俺は小さく笑った。
「で、そろそろ現在地は分かっただろ。どの辺りまで暴走した?」
『詳細は今割り出してるが、多分かなり見当違いの方向にぶっ飛んだぞ……って、待て。識別コードを出してねぇが、五隻接近中だ』
俺はレーダー画面を見た。
「……電波反射率が低い、ステルス艦だな。識別コードを出してない時点で敵対行為だ。とっとと逃げるぞ」
「しまった、識別コード!?」
エリーナが声を上げた。
「今さら変えたって遅いぞ。それじゃ、過激な野郎でぶっ飛ばすか」
俺が神経インターフェースに手を乗せた時、ど派手なアラームが響いた。
『おい、いきなりロックオンされたぞ。警告もねぇぜ、ロクな相手じゃねぇよ!!』
俺は小さく笑みを浮かべ、船をフル加速させた。
一瞬でかなりの速度まで跳ね上がったが、アラームは消えなかった。
「ほう、ついてくるか。なかなか高性能な攻撃システムだな」
『高エネルギー反応。なんか撃ったぞ!!』
正面スクリーンに、一瞬光の束が見えた。
「ふん、ホントにロックオンしてるのか。訂正だ。ヘボい攻撃システムだな」
『馬鹿野郎、隣の嬢ちゃんが必死こいてジャミングして微妙にずらしてるんだよ。気がつかなかったのか?』
俺は隣をみた。
神経インターフェースに手を乗せ、目を閉じて額に汗をかいているエリーナをみた。
「やるな。いっそ、就職しないか。給料は安いがな」
俺は笑った。
しばらく最高速でぶっ飛ばすと、アラームは消えた。
「よし、おさらばだな」
俺は小さく息を吐いた。
「あ、あれ、なんで識別コードが変更できないの!?」
隣でエリーナがあたふたしていた。
『よく分からねぇんだけどよ。それ設定された時から、ロックがかかって変更できねぇぞ。なんか仕込んだだろ?』
サムが棒読みでいった瞬間、エリーナが固まった。
「そ、そうでした……まだ早すぎました。こんなタイミングでやってしまったら、延々と追われるハメになります。もう、どこまでもごめんなさい」
俺は笑った。
「そういうのもいいだろう。追いつけるものなら、追いついてみろってな。サム、早く現在地を出せ」
『今やってるよ。位置情報の発生源が少ねぇから苦労してるんだ。かなりの田舎だぜ!!』
俺はシートに身を預けた。
「じゃあ、出たら教えてくれ。俺は寝る。諸般の事情で、微妙に仮眠にならなかったし、猫は寝るものだ」
俺が目を閉じようとしたら、隣のエリーナが無理矢理ベルトを外して俺を抱きかかえた「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
「わ、分かった。分かったから、この異常な巡航速度でベルトなしは止めてくれ!?」
『やっぱ、おもしれぇな。このお嬢ちゃん。まあ、頑張って相手しろや!!』
サムの暢気な声が操縦室に響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます