第5話 ドツボ

「これは愉快だな、また何かがぶっ壊れたぞ」

「え、ええっと……」

『俺、このお嬢さん好きかもしれねぇな。こういうクレイジーな発想する野郎がおもしれぇんだよ』

 船の修理作業はドツボにハマっていた。

 もはや、頼みの綱は客であるエリーナだけだった。

 あまりにも突拍子のない、ウイルス紛いのプログラムをこっそり入れてくれたため、管理AIのサムですらお手上げだった。

「焦るな、もっと愉快になってしまうぞ」

「な、なんとしてでも……」

 眼力で画面を破壊しそうなエリーナの様子をみて、おれは副操縦士席のコンソールパネルの電源を落とした。

「……」

「休憩だ。部屋なんかいくつもないから、仮眠室の場所はすぐ分かるだろう。シャワーでも浴びてスッキリしろ」

『一回も使った事ないシャワーを勧めるのかよ。なにが出るか分からねぇぞ!!』

「しょうがないだろう、猫なんだから。シャワーなんか不要なんだが、撤去するのも面倒だったからな。多分、ちゃんと湯が出るはずだ。なんか違う物が出たら、それはそれで愉快だな」

 俺は笑った。

「……例え何が出ても甘んじて受け入れます。ごめんなさい」

 半ば呆然としたエリーナが操縦席から出ていった。

「あーあ、ありゃ相当キテるな」

『そりゃ、超絶急いでてわざわざこんなボロ船を選んで、ほぼ自分でぶっ壊しまったんだからな。色々な意味でショックだろうよ。俺はおもしれぇけどな!!』

 俺は笑った。

「実は俺も面白いぞ。ここまで、妙な積み荷は早々ないからな。なにもないはずのポイントが目的地か。猫的好奇心は、大いにそそられるがね」

『また始まったよ。それで、いつも莫大な船の修理費を払うハメになるんだぜ。ただ運んで帰りゃいいのに、余計な事ばっかするからよ!!』

「それでは面白くないだろう。まあ、コストを考えたらやってられないがね」

 俺は笑みを浮かべた。


「戻ってこないところをみると、お休みタイムかな?」

『ああ、仮眠室にいるな。シャワーも無事だったんじゃねぇの、覗く趣味はねぇから知らねぇけど。気になるならみてこいよ』

「そうしよう。任せたぞ」

 俺は操縦席から下りて、仮眠室に向かった。


「おい、入るぞ」

 開けたままの仮眠室の扉の前で声を掛けてから、ベッドに座ってため息を吐いているエリーナに声を掛けた。

「……私の都合はいいんです。船をここまで壊してしまうなんて、なんとお詫びしてよいか分かりません」

「詫びるのはこっちだぞ。俺はあんたから仕事を引き受けてここにいる。何があっても、こんなところで遊んでいていいわけがない。気にしないで休め。情けない話だが、あんたが船をまともにしてくれないと動けないからな。一回休んでリセットするんだ」

「……はい、ごめんなさい」

 エリーナはベッドに横になり、ため息を吐いた。

「……あ、あの、隣に乗って頂けると助かります」

「な、なに!?」

 エリーナの言葉に、思わず仰け反った。

 なにか懇願するような目で見つめられ、俺はため息を吐いてベッドに乗った。

 飛びつくように俺を抱えたエリーナに笑った。

「まあ、ラグドールは抱き猫だからな。好きにするといい。しかし、普通に猫扱いされた事などないぞ。どこまでも、愉快な客だな」

 エリーナは俺を抱きかかえながら、静かに涙を流した。

「まあ、猫冥利に尽きるか。気まぐれだから、当てにはするなよ」

 俺は小さく笑った。

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