第3話 故障
「この近所の転送ポイントまでもうすぐだ。サム、一応チェックしておけ」
この世界は魔法技術の発展で成り立ってきた。
入り口にも出口にもなる転送システムを宇宙中にばらまく事によって、かなり細かい所までほぼ一瞬で移動する事が出来る。
これがなかったら、とても現在の繁栄はないだろう。
『目的地は問題ねぇけど。やっぱ、第二エンジンがヤバいぜ。さっきムチャしたせいか、出力が全然安定してねぇ。連動制御の第四もなんかおかしいぞ』
「やっぱり、オーバーホールだったな。爆発でもされたら困るからな。まずは第二を停止だ。転送は第四の具合をみてからだな。エリーナ、すまん。オンボロが癇癪を起こした。ちょっと待ってくれ」
「はい、お任せします」
エリーナは頷いた。
『おっと、第二がコマンドを受け付けねぇ。生意気な事に刃向かいやがったぜ。って事は、当然第四も制御不能だ。同じエンジンコントロールシステムだからな。エンジンじゃなくて、こっちの不調かもな。これは、面倒だぞ』
「これは危険だな。第一と第三も同じ事になりかねん。両方ともファームウェアを同じバージョンに上げたばかりだからな。サム、全エンジン緊急停止。同時に、船の緊急停止装置作動。とにかく、動くな」
『だから、コマンドを受け付けねぇんだよ。今のうちに第一と第三は止めたがよ!!』
俺はため息ををついた。
「手動でやるしかないか。エリーナ、金は返す。これは、航海どころではない」
「……いえ、受け取って下さい。修理費も掛かるでしょうし」
エリーナは笑みを浮かべた。
「請け負った仕事が達成出来そうにないんだ。受け取るわけにはいかん」
「返金されても受け取りませんよ。こんな依頼を受けて頂いた段階で、私は十分なのです」
俺はため息を吐き、工具箱を片手に船内の狭い連絡通路を通って、船体後部の機械室にいった。
機械室の分厚い扉が開くと、引き裂くような金属音が響いていた。
「第二だな。最低限の安全装置すら作動していないか。これだから、ポンコツは」
俺はため息を吐き、エンジンコントロール装置のパネルに向かった。
二つある装置のうち、第二と第四をコントロールしているナンバー二のパネルの画面に、夥しい数のエラーメッセージが表示されていた。
神経インターフェースに手を乗せ、ため息を吐いた。
「フリーズしてるか。やれやれ……」
一切操作を受け付けないので、俺は自慢の右手を振り上げた。
そこだけ塗料が剥げている場所目がけて、俺は右手を振り下ろした。
ガンっともの凄い音が響き、画面のエラーメッセージは消え、激しい金属音も急速に収まった。
「いつも通り、入射角四十五度だな。ポンコツはぶん殴って直す。基本だ」
『馬鹿野郎、初期のテレビじゃねぇんだぞ。いつも猫パンチで直すんじゃねぇ。とりえず、船は止めたぜ。だいぶ迷走したから、現在位置がなかなか把握できねぇ』
サムの声が聞こえてきた。
「今戻る。この様子じゃ、エンジンを起動するのは問題だろう。まずは自己診断だけ走らせてくれ」
『へいへい……ったく、整備しねぇからこうなるんだぜ』
「してるさ。簡単にぶっ壊れるお前が悪いんだ」
俺は鼻を鳴らし、工具箱を持って機械室を出た。
操縦室に戻ると、エリーナが心配そうに見てきた。
「問題ないといえばない。とりえず、船の暴走は止まったからな。ここから直す作業だ。おまけに、ここがどこかも分からん。サムが調べてはいるがな。だからいっただろう、定期便の方がよかったと。高い金払ってこれだぞ?」
「いえ、この方が面白いかもしれません。知っていますか、この船は宇宙最速で最もイカレた船だと評判なんですよ」
エリーナが小さく笑った。
「その最もイカレた船を選ぶか。だから、こうなるんだぞ。まあ、諦めてくれ。今は全く動けないからな」
「はい、覚悟の上です。一定確立でこうなると思っていましたから」
エリーナが笑った。
「分かってて、あんなバカみたいな金払って、なにがしたいんだかな。まあ、自己診断が終わらないと、直す糸口も掴めないからな」
俺はシートに身を預け、目を閉じた。
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