仲間②
次の日の朝、教授と共に小屋で朝御飯を食べていたリアンの元に、ジョルノが訪ねてきた。
「リアン!持ってきたぞ!」
勢い良くドアを開けて入ってきたジョルノは、朝からやけにテンションが高い。
「ジョルノは朝から賑やかだな」
その笑顔から、教授が嫌みで言っていない事が分かる。
しかし、ジョルノは持ってきたと言っているが、手ぶらである。
おそらく、小屋の前に持ってきた物を置いているのだろう。
「教授も居たのか!なら、教授も来て来て!」
よほど二人に見せたいのだろう、ジョルノは食事中の二人の腕を掴み、急かすようにぐいぐいと引っ張った。
「ジャジャーン!」
小屋の前に置いた、緑色のドラム缶を前に、ジョルノは両手を広げ、自慢気に披露する。
「一人で持って来たのか?」
とても一人では持ち上げられそうにないドラム缶を見て、教授は驚きの表情を浮かべている。
「そう!転がしてきたんだよ!」
鼻の下を人差し指で擦りながら、ジョルノはへへへと笑った。
「こんなに重い物を…ご苦労様」
教授は感心したように頷くと、労いの言葉を掛けた。
「ありがとうございます」
昨夜ジョルノは自分が入りたいから、ドラム缶を持ってくると言っていたが、自分の為だと分かっているリアンは、心からお礼を言った。
「へへへ!気にすんない!」
ジョルノはまたしても鼻の下を人差し指で擦ると、照れたように笑った。
「ドラム缶の下に置く、レンガかブロックが必要じゃな。それにホースもあった方が水を入れやすいな。よし、わしは飯を食い終わったら、それらを用意するかな」
「じゃあ、僕はドラム缶を洗いますね」
「じゃあ、わしは薪を拾ってこよう」
三人はこれからの予定を笑顔で話し合い、それぞれが準備をする為に別れた。
その日の夕方、夕食のスープを煮込む鍋とは別に、湯気を上げているものがあった。
リアンの手により、綺麗になったドラム缶である。
「どれどれ?」
鍋を煮込んでいたビスコは、蓋を開けると、おたまで中のスープを掬った。
「…うん」
そしてスープを啜ると、納得した味に整っているのか、ビスコは満足そうに頷いた。
「どれどれ?」
それを横目で見ていたジョルノは、ドラム缶の中におたまの先を沈めると、直ぐにそれを持ち上げた。
「…うん」
おたまの中には、湯気立つお湯が入っている。
ジョルノは、人差し指を突き出すと、おたまの中のお湯へと沈めた。
「…もうちょいかな?」
望む温度には足りていないのか、ジョルノはそう言うと、壁にもたらせた木の棒を手に取り、ドラム缶の中をかき混ぜた。
「ジョルノ、飯出来たぞ」
ビスコは鍋を持ち上げると、近くでドラム缶のお湯を掻き混ぜ続けるジョルノに声を掛けた。
「先に食べててくれ、今、手放せないんだ」
ジョルノは掻き混ぜる手を休めずに、笑顔で答えた。
「了解、先に食べてるぞ」
ビスコも笑顔で答えると、小屋に向け歩き出す。
「おーい、開けてくれ」
ドアの前で立ち止まったビスコは、両手に鍋を持ったままドアに向かい声を掛ける。
「はーい」
ドアを開けたのは、リアンだった。
「出来たぞー」
湯気立つ鍋を掲げながら、ビスコは開かれたドアから、小屋の中へと入って行く。
「おや、ジョルノはどうしたんじゃ?」
続いて入ってくる気配のないドアに視線を向けた教授は、席に着いたビスコに尋ねた。
「ドラム缶でお湯を沸かしてるぞ。先に食べてていいそうだ」
「そうか、随分熱心じゃな…そのうち来るだろう。よし、みんな先に食べてよう」
いただきますをした皆は、ビスコが皿によそった熱々のスープをおかずに、パンにかぶり付く。
「今日のスープはいつにも増して美味いな」
普段は全く喋らないスワリが、珍しく口を開いた。
「スワリが喋るなんて珍しいな」
「そうか?俺なんかよりショルスキの方が喋らないだろう」
そう言われたショルスキは、ぼさぼさの髪をぽりぽりと人差し指で掻き、恥ずかしそうにしている。
「そうだな、ショルスキの声を久しく聞いてないな」
ビスコは未だ恥ずかしがるショルスキに視線を送り、口角を上げた。
ひび割れた分厚い眼鏡を掛けている為、分かり難いが、ビスコの目は穏やかに笑っている。
「今日はいつにも増してスープが美味いし、スワリの声も聞けて、何だか特別な日じゃな」
教授は嬉しそうにそう言うと、「ふぉふぉふぉ」と声に出して笑った。
つられるように皆の笑い声が小屋の中に響き渡った時、ドアを開けてジョルノが入ってきた。
「リアン!飯は食い終わったか!?」
少年のように目をキラキラとさせながら、ジョルノはリアンが手に持つスープの入った皿を覗き込んだ。
しかしリアンの皿には、まだふんだんにスープが残っている。
「…まだ、食べてる途中です」
「食べたら風呂沸いてるからな!直ぐに入るんだぞ!湯加減もばっちりだからな!」
「ありがとうございます…でも…」
リアンは笑顔を浮かべた後、口籠もった。
それに気付いた教授が、優しげな笑顔をリアンに向ける。
「どうしたんじゃリアン?」
「いや…僕が一番にお風呂に入ってもいいんですか?」
リアンはジョルノの優しさを無下にするような気持ちになり、とても言い難そうに答えた。
「ジョルノはリアンに一番に入って欲しいんじゃよ。なぁ、ジョルノ」
「そうだぞ、リアン!わしはリアンに一番に入って貰いたくて、風呂を沸かしたんだぞ!」
「…でも」
リアンの頭の中に、遠慮の二文字がちらついた。
「リアン、子供は甘えるのが仕事なんじゃぞ。リアンはわしらを仲間だと思っとらんのか?わしは仲間だと思っとるぞ」
優しげな笑顔を浮かべ、諭すような教授のその言葉に、ジョルノが続いた。
「わしも仲間だと思ってるぞ!」
「俺も大切な仲間だと思っている」
そう言ってビスコは、ひび割れた眼鏡をくいっと上げた。
「あぁ、俺達は仲間だ」
スワリは優しげな眼差しで、その言葉が嘘ではないと、真っ直ぐにリアンを見詰める。
「俺達は仲間だ」
めったに喋らないショルスキも、当たり前のその言葉をリアンに届けた。
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