仲間③

誰の言葉も嘘や建前ではないと感じ取ったリアンは、熱いものが込み上げてきた。


そしてその熱いものを滲ませた瞳で皆の顔を見詰め、思いの丈を口にする。


「…皆、ありがとうございます」


言葉は短いが、その言葉の中には、語り尽くせない程の感謝の気持ちが込められている。


「リアン、これからも遠慮は無縁だぞ。わしらは、仲間なんじゃからな」


教授のその言葉に、リアンは素直に頷いた。


「はい」


皆が感動する中、その雰囲気を変えたのは、やはりジョルノだった。


「…ショルスキが、喋った!」


ジョルノは視線をリアンからショルスキに変え、大袈裟に驚いている。


ここ数ヶ月は声を聞いていなかったショルスキが喋ったのだ、驚くのにも無理はないのかもしれない。


「本当だな!いつ以来だ?」


ジョルノ程ではないが、ビスコも驚いている様子だ。


「本当だな。珍しい事もあるもんだな」


普段あまり口を開かない、スワリまでもが驚いている。


皆に注目されたショルスキは、顔を真っ赤に染め、恥ずかしそうにしている。


ショルスキが滅多に喋らないのは、注目される事が人一倍苦手だという事が大きな原因なのだが、その事は誰も知らないようだ。


恥ずかしさの中に、嫌がる様子を覗かせているショルスキの様子に気付いた教授が、助け船を出した。


「ほれほれ、せっかくの美味いスープが冷めてしまうぞ。それにドラム缶風呂もじゃぞ」


その言葉にいち早く反応したのは、やはりこの男だった。


「みんな!早く食事に戻るんだ!風呂が冷めてしまうぞ!」


ジョルノはそう言うと、テーブルに置かれた皿とスプーンを取り、皿の縁に唇を付けると、スプーンを口に向かい忙しなく動かした。


「おいジョルノ、それまだスープよそってないぞ!」


ビスコのその一言に、教授とスワリは、思わず吹き出した。


リアンも可笑しそうに笑っている。


ショルスキは自分から注目が外れた事に安堵すると共に、皆の笑い声につられて笑顔を浮かべた。


「ごちそうさまでした」


それぞれが手を合わせ、皆が食事を終えた。


「よし!リアン、風呂だ、風呂だ!」


この時を待ってましたとばかりに、リアンの手を掴むと、ジョルノは一目散にドラム缶風呂がある小屋の外へと向かった。


「ジャジャーン!どうだ!温かそうだろ!?」


ジョルノは両手を広げ、湯気立つドラマ缶風呂をリアンに紹介する。


「はい!凄く温かそうです!」


ここ一週間程は、水で頭を洗い、タオルで体を拭くだけだったリアンは、その表情からも分かるように、風呂に浸かれる事が嬉しくてしかたがなかった。


「それに、これもあるんだぞ!」


壁に立て掛けているマイクスタンドのような、足の付いている一本の棒を掴むと、ジョルノはそれを持ち、壁とは反対の方へと走って行く。


すると、壁と棒を繋ぐように取り付けられている水色の布が、ピンと張られた。


「これで、人目も気にならないだろ!」


ジョルノは年頃のリアンの事を考え、目隠しシートを作ったようだ。


「…ありがとうございます」


自分の為に作ってくれたと分かったリアンは、ジョルノの優しさに感極まるものがあった。


「よし、服はこの布に掛けるんだ。パンツの着替えを持ってきてやるからな。すっぽんぽんになっとくんだぞ!」


底抜けの明るさでジョルノはそう言うと、リアンのパンツを求め、小屋に駆けて行く。


「リアン、持ってきたぞ!もうすっぽんぽんか!?」


パンツを手に、布に綺麗に掛けられた服を見て、ジョルノは嬉しそうに尋ねた。


「ありがとうございます。後、パンツを脱ぐだけです」


「よし!パンツを脱いだら、布に掛けて、風呂に入るんだ!気持ちいいぞ!」


「…はい」


見上げれば夜空が広がっている、ここは屋外。


思春期真っ只中のリアンにとって、外で裸になる事は抵抗があるようだ。


しかし、リアンが今居るのは、路地裏の袋小路。


リアンが小屋で住み始めてから一度たりとも、この袋小路で仲間以外の者を見た事がない。


そしてリアンは、壁と布に挟まれている。


たとえ裸になったとしても、誰からも見られる事はないだろう。


なによりも、ジョルノが作り、沸かしてくれたドラム缶風呂には、裸にならなければ入れないのだ。


そう考えている内に、恥ずかしがっている自分が、ちっぽけに感じたリアンは、清々しい気持ちでパンツを脱ぎ捨てた。


赤茶けたレンガの土台の上に置かれたドラム缶には、温かそうなお湯が張られている。


そして背丈の高いドラム缶に入りやすいようにか、前には台が置かれていた。


産まれたままの姿となったリアンは、台に足を掛けると、ドラム缶の縁に手を掛けた。


そして湯気立つ湯の中へと、ゆっくりと体を沈めていく。


「…はぁぁぁ」


久し振りの風呂の中での溜め息。


体が芯まで温まっていく。


「どうだ!気持ちいいか!?」


布の向こうから、ジョルノの陽気な声が聞こえる。


「はい!凄く気持ちいいです!」


そう言ったリアンの顔には、久しぶりに浮かべる、幸せそうな笑顔があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る